魔獣討伐戦線 第四小隊
この世界は魔獣によって喰い潰された。動物、植物のみならず人間さえも魔獣は喰らう。そこに本能はない、ただ貪るだけの存在。
人間は魔獣から逃れるために大きく強固な壁を造り上げその中で暮らした。しかし資源は有限であるため食料はもちろん暮らしは貧しく生きるだけがやっとだった。
そんな中、魔獣を滅ぼすことを目的とした集団が限りある資源の中で軍団を作り上げた。
その名は「魔獣討伐戦線」
それから数年後、魔獣討伐戦線は幾度となく魔獣と戦い戦績を乏しいながらも上げてきたことによってアカデミーと呼ばれる魔獣討伐戦線の候補生を育成するアカデミーが設立され人間はその集団に僅かながらに希望を持ち始めた。当然魔獣と戦うことは死と隣り合わせであり常に命を賭けていた。だがそれでも魔獣を滅ぼすため志願する人は絶えなかった。
数十年後、魔獣討伐戦線は大規模組織へと変化していた。
「あーあ、つまんねぇな」
アカデミー内に建造された「教室」と呼ばれる魔獣討伐のあらゆる知識を学ぶための部屋の中で椅子に座り飽きていた様子で外を眺めているまだ幼さが残る男性。
「シドウ。またその口癖?」
男性はシドウと呼ばれ振り返るとそこにはシドウと同じくらいの年齢で黒髪の女性が立っていた。
「んー、アカリはつまんないと思わないの?」
アカリと呼ばれた女性はムッと頬を膨らます。
「もう!魔獣討伐は大事な事なんだよ、しっかりと学んで力も付けないと簡単に殺されるんだよ」
「はいはいまたそれね、もういい加減聞き飽きたよ」
「んなぁ!シドウあなたねぇ!」
「また喧嘩か?シドウにアカリ」
今にも手を出しそうなアカリを止めたシドウより少し年上ぽい感じのメガネを掛けた男性。
「いやそんなんじゃないよフェル。アカリが先に手を出そうとしてきた」
「はぁ!?ぶっ飛ばすわよ」
「コラコラ、でも確かに少しばかりつまらなさはあるかもな」
「だろっ!」
「ちょっとフェルまで、本当にシドウのせいだからね」
「やれるもんならやってみなっ!」
一瞬の隙を狙ってシドウはフェルを盾に逃げようとする。
「このまま逃げてやるよ!」
「あ、シドウ……」
「フェル悪い!話はあとーー……」
「いや前……」
「まえ?ーーぐえっ!」
教室を出ようとした瞬間、ちょうど教室に入ってきた物静かな女性が向かってきたシドウに対して腕を横に突き出して進路を妨害すると綺麗にシドウの首元に腕が突っかかりその場で倒される。
「シドウ……授業始まるから静かに」
「わ、わるい……ミュウ……」
「分かったのなら席に戻って」
「はい……」
物静かな見た目とは裏腹に力が人一倍に強い女性ミュウに諭されて席に戻ったシドウ。そして定刻になると教室に入ってきたのは電動で動く車椅子に乗った女性だった。
「おはよう、シドウ。フェル。アカリ。ミュウ」
「「「「おはようございます。リタ先生」」」」
四人共立って挨拶を返し椅子に座る。リタ先生と呼ばれた女性リタはこの四人を教えるために配属された女性で魔獣討伐戦線の一人でもあった。しかし足を負傷し動けなくなったことにより戦線から外れアカデミーを取り仕切る一員となった。
「今日は魔獣の歴史ね」
「せんせぇ〜……」
「あら?シドウどうしたの」
「授業つまらないですぅ」
「あらあら、それは大変ね」
「馬鹿っ!先生に向かって言わないの!!」
ダルそうな声で机に突っ伏するシドウにアカリが止めるがそれでもダルそうに声を上げる。リタはそんな様子のシドウを見て微笑んでいると車椅子を軽く座り直したのちシドウの名前を呼ぶ。
「シドウ……」
「はい?」
先程まで微笑んでいたリタは突然鋭い目付きをして優しかった声質から変わり決して怒ってる口調ではなく静かに語りかけるようにシドウに言う。
「魔獣は一瞬が命取りなのよ、準備や警戒を怠ったてはいけない。そのたった一瞬で生死が分かれる。私はたまたま運が良かったから生きているの、けど普通は死んでいたのよ、意味分かるよね」
その言葉は冷たく心に突き刺さった。それはリタが急に態度が変わったことではなくリタは元・魔獣討伐戦線そしていつもは笑顔が絶えないことで有名なアカデミーの教師だが魔獣が蔓延る戦場では彼女は第一大隊総隊長リタとして魔獣討伐の前線を渡り歩いてきた超有名でエリートだったからこそ足だけで済んだという意味と魔獣の恐ろしさを四人は改めて認識した。
シドウの失言により教室内が静まり返る、リタは四人の唖然とした表情を一通り見るとリタは冷たい目付きから一変して微笑む。
「ふふ、たしかに貴方達は特殊だったから退屈だったのかしらね」
「あ……いえ私は……」
「アカリ。貴方達四人はなぜ他とは違って四人だけか分かる?」
「は、はい」
魔獣討伐戦線に志願する人は大勢いるが全員が全員なれる訳では無い、最初から身体能力を確かめるためにあらゆる運動をこなして合格ラインに到達しないとアカデミーに入ることが許されない。だがそれであっても年に数百人いる。そこから各数十名割り振られ教室内で魔獣に関して学び、アカデミー卒業後、魔獣討伐戦線における大隊の下にあたる小隊に配属されていく。しかしこの四人だけは特別枠として別の教室にいた。
「私達は身体能力検査において上位成績を修め、そこから今年から新たに隊を編成するにあたって選ばれた四人だからです」
「そう、だから私自ら直接指導することになった」
「ですが先生、私達は確かに優秀な成績を修めましたがその新たに隊を編成するのに四人だけなのですか?本来であれば約十人程度の隊になるとお聞きしたのですが……」
「ああそれもう聞いちゃう?というより言うのが遅かった感じかな?」
アカデミーに通って半年経とうとしていた、大体はアカデミーに通うのは約一年間とされ、そこから各隊に配属され新人となって魔獣を討伐及び偵察など様々な専門に分かれていく。しかし四人はただ別に集められて新たに隊を編成する。という理由だけで半年通い続けてきたが疑問を持たないという方が不思議でアカリが失礼を承知で聞くとリタは小さく頷く。
「うん、そしたら今日付で四人は卒業としましょう」
「……えっ?」
「じゃあ早速魔獣討伐に行こう!」
「ま、待ってください先生!私が聞きたいのは……」
「というのは冗談だけど卒業は卒業よ」
急にアカデミー卒業と魔獣討伐に行くと言い出すリタだが魔獣討伐は冗談だったとしてもアカデミー卒業には納得いってない様子の四人の中でフェルが立ち上がる。
「リタ先生。失礼を承知でお聞きします。先程の先生が仰った怠ってはならない言葉に矛盾が生じます、アカデミーはまさに魔獣とは何かを知る機会でもありながらなぜ易々と卒業させるような事をするのですか?」
フェルはリタが言った準備を怠ってはならない発言に関して矛盾があると提言した、四人は当然アカデミーで学ぶことを半年分に詰め込んではないない。必ず一年間は在籍することが義務付けられているためそう簡単には卒業なんて不可能だった。フェルの言葉にリタは頷いてその通りだと返すと言葉を続ける。
「じゃあフェル。魔獣は私達と同じ言葉を発する?」
「いえ発しません、魔獣は一般的に動物と分類され言語は発せず、動物と同様に鳴き声などを用いた同族とのコミュニケーション能力を有しており捕食対象は主に同族以外の動物又は人間と認識しています」
「そうね、基礎の基礎は正解よ。そしたらそんな魔獣と対話なんて不可能でしょ」
「はい、もちろんです」
「そんな魔獣の対処方法は?ミュウ」
「討伐のみ……です……」
「正解。さてここからはアカデミー卒業後に受ける話だわ、心して聞いてね」
アカデミー卒業後の話、それはいわゆる実践前とも言える話であり普通ではまだ聞くような事ではなかったがリタは止めることなく続けた。
「新しい隊の編成は魔獣討伐戦線『第四小隊』よ」
「マジ?」
「第四!?」
「うそっ!」
「ーーッ!」
四人が驚く、なぜなら第四小隊の第四部隊はいわく付きとも言われ俗に言う『死の部隊』だった。
「四人はこの第四大隊の下にある小隊に新たに配属されるわ」
「ちょっ、ちょっと待ってくれよ先生。どいうことですか?第四って……あの『死の部隊』になぜ俺達が配属?」
「これは直々に大隊隊長であるフィルカルサ隊長による指名だわ、でも彼は私の後輩だから大丈夫よ」
「大丈夫って、そういうことを聞きたいわけじゃないです先生。なんで配属先がそこなんですか?」
「アカリの言う通りです。僕達はたしかに魔獣討伐を目的として志願しました。しかし第四部隊の配属は主に規約違反や隊を乱した者が行く所ですよね」
第四部隊。それは『死の部隊』とも言われ主に魔獣討伐戦線にて隊を大きく乱すものや問題児などが集められ魔獣戦線の最前線で戦う部隊、当然全員が問題児の集まりでほとんとが部隊として機能してはおらず個人での戦い方になっており死人が必ずと言っていいほど出ている、アカデミー外でもひときわ有名な部隊であり誰も入りたがる人はいない部隊だった。
「たしかに嫌でしょうね、しかし分かっているでしょ第四部隊は個人で戦うが故に最凶の部隊でもあることを」
リタが言う最凶とは本来は魔獣は隊を形成して安全に戦うことを目的としている。しかし第四は真逆で命をかえりみずに個人で戦う。その結果個人で魔獣を討伐出来るほどの実力者の集まりでもある。
「……ですが」
「それに言ったでしょ、新たな隊を編成するって。それが第四小隊よ」
「それは意味があるんですか?」
「あるから集めたのよ、貴方達四人を」
リタは微笑み、その笑みは四人を安心させるより恐怖と心配さを引き立たせ今にも逃げ出したい四人だったがこの世界に逃げ場はない。アカデミーを出た所で壁の中の生活だけ、元より魔獣討伐を目的としてアカデミーに入った四人は今はリタの言う事に従うしかなかった。
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