母に恋をするのはおかしいだろうか?

俺の母さんは最強だ。

それは俺が小学生の頃に怖い大人達、いわゆる誘拐されそうになった時、たまたま母さんが買い物から帰っている途中で俺が連れ去られそうなところを目撃した。

「僕ちゃん、俺らといい所いかない?」

車の窓を開けニヤニヤしながら俺に話しかけてきた誘拐犯、その頃はまだ幼いのもあり疑うことをしなかった。

「え?本当に!?」

心を踊らせて車に乗せてもらおうとした所に現れた。

「ちょーと!!キーくんなにしてるの!?」

「お母さん?」

買い物袋を両手に持ちおっとりとした雰囲気の母さんは驚き急いで俺の所に駆け寄って車に乗るのを止める。

「おや?母親か?」

車から降りてくる男性、しかし一人だけじゃなかった。中から二人出てくる。

「お、いい女じゃん」

「人妻か?意外と美人だね〜」

母さんを舐め回すように見る三人組、しかし母親は無視をして俺の手を握りそのまま帰ろうとする。

「そう帰るなって〜」

「旦那よりいい思い出作ろうぜ〜」

道を塞ぐように二人が前に出て止め、そして後ろには一人という完全に挟まれた状態だった。

「すみません、私は旦那一筋なので…」

母さんは苦笑いしながら断る。

「いいね〜、逆に唆るわ〜…」

後ろの男性が母さんの肩に触れようとした瞬間。

「ーーぶへっ!?」

触れようとした男性の頬に母さんの回し蹴りが綺麗に決まりそのまま気絶する。

「なっ!?」

「は、はぁ!?」

驚く二人、もちろん俺も驚いた。

「旦那以外に触れられるのは嫌いなので、ごめんなさいね」

母さんは涼しい顔して言う、しかし男性二人は逆に楽しくなったのか笑い始めた。

「はは、悪くないね」

「こりゃあいい、楽しめそうだな」

ポケットからナイフを取り出す、俺は危険だと思い母さんに逃げるように言った。

「キーくん、お父さんには黙っておいてね」

母さんは笑顔で俺にそう言うと数分も掛からず母さんに一切触れることなく男性二人は倒される。

「ーーな、なんだよお前は…」

一人は気絶したがもう一人はまだ意識はあった。

「あら、浅かったかしら?」

母親はその一人に近づきその場にしゃがむ。

男性は母さんの恐ろしさにナイフを構える。

「ち、近づくな!」

「もう、こんなの危ないよ」

ナイフを取り上げる母親はそのまま真っ二つに折る。

「ーーーっ!?!?」

一瞬なにが起きたか分からなかった男性だがナイフが折られたことにより完全に戦意を喪失する。

「こんなことしちゃダメだからね」

可愛く怒る母さんだが男性からしたら恐怖でしかなかった。

「ご、ごめんなさい!」

土下座して謝る男性を見て母さんは安心したのか俺と手を繋ぎそのまま家に帰った。

それが数十年前の話、今の俺は普通に高校生として過ごしている。

「ーー…くん、キーくん?」

ゆっくりと目を覚ますと目の前には母さんの顔が近くにあり驚く。

「ーーうわっ!びっくりした」

俺は飛び上がるように起き上がった。

「やっと起きた、キーくん朝ごはんよ」

「う、うん分かった」

「じゃあ支度して来てね」

母さんは笑顔で部屋から出ていく。

「はぁ…、いつも顔を近づけるのやめてくれないかな…」

俺は驚きでまだ心臓がドキドキしていたがそれと同時に母親の事にもドキドキしていた。

「正直、嫌ではないけど…」

それには理由があった。

「俺が母さんを好きだなんて言えるわけない」

俺は母さんに惚れていたからだ。

「変な話だよな、俺が自分の母親に惚れるなんて…」

マザコンと言うのは少し違う、俺は確かに母親の事が好きだ。その感情は男が女を、女が男を好きになる事、いずれは恋人となるそんな感情だった。

そうなったきっかけは数十年前のあの時だった。

「おはよ〜」

「おう、おはよう」

「おはようキーくん」

俺が誘拐されそうな時に助けてくれたあの母さんの姿がカッコよく惚れた、もちろんその時は母さんは俺のヒーローだと思っていたがその頃から母さんを意識するようになり気づいたら好きになっていた。

「いただきます」

「今日は早く帰ってくるのか欽司きんじ?」

「んー、今日は友達と少し遊んでから帰る」

「キーくん、友達は大切にね」

「分かってるよ」

もちろんそれはおかしい事は知っている、だからこの事は当たり前だが母さんにも父さんにも話してない、そして父さんは誘拐されそうな時の事は話していない。父さんにとってはごく普通の家庭だと思ってる、けど母さんは強い、凄く強い。それは憧れでもあると同時におっとりとした雰囲気に隠れた強さのギャップというものはなんとも美しくカッコイイと思う俺は不思議と母さんの顔を見ていた。

「どうしたのキーくん?」

母さんは俺の視線に気づく、慌てて視線を逸らしてご飯を食べる。

「い、いや何でもない」

「なんだ欽司、母さんに惚れたか?」

ニヤニヤする父さん。

「(惚れてるんだけどね)」

俺は苦笑いする。

「いやだぁ〜キーくん、ダメだよ。母さんはお父さん一筋だから〜」

照れる母さん、そんな母さんも可愛いと思ってしまう俺。

「はっはっはっ、残念だったな欽司」

「(息子が母親に惚れた、なんて言えるわけないだろ)」

父さん一筋というのは知っているが改め母さんの口から言われるとなんかガッカリしたが逆に母さんを惚れさせようと阿呆みたいな思考に走る俺はおかしいだろうか?

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