私は、あくまで、悪役令嬢です
華洛
第1話
「セーンパイ。またゲームしてるんですか?」
「面白いんだよ。これ」
「むー。私と一緒にいるより楽しんですか?」
「アハハ、ハ。そんな事無い。愛里咲と一緒にいる方が楽しいよ」
愛里咲の抗議を受けて、画面をOFFにしてスマートフォンを胸ポケットへと入れる。
頬を膨らませて抗議する動作も可愛い。
彼女の名前は、有栖川愛里咲。1年後輩の少女。
一言で表すと可愛い。うん。とりあえず可愛い。少しギャルぽくて遊んでいる感じがする子だけど、そんな事もなく、純真で、真面目で、可愛い後輩。
そろそろテスト週間に突入。終われば夏休みが始まる。
通っている学校は、赤点が2つ以上あると夏休み半分は補習となるため、私の家で愛里咲に勉強を見ることになった。
明日は休みでもある。愛里咲は家に泊まる予定をしている。
それで、必要品を買いにショッピングモールに買いに来ていた。
「センパイのしてるのって面白いんですか?」
「面白いよ。最近になって悪役令嬢エヴァ視点でプレイできるDLCも配信されたからね。なんと、エヴァでプレイ中は、ヒロインのフェイトと恋人にする事もできてね! それでね――」
私は「FATE FORTUNE」のゲームの素晴らしい所を、愛里咲に語った。
流行の乙女ゲーム。スマホで出来て、ガチャ要素がないのが良いところ。ただ、追加シナリオのDLCは幾つもあって、今の時点で全部合計すると2万近くなる。
それでも追加シナリオの質はコンシューマーゲームのファンディスク並にはあるので、高いとはあまり感じない。玉石混交で安いよりも、一定の質をキープしてくれてるというのもある。
愛里咲にヒロイン、悪役令嬢、攻略対象者の4人について語っていると、音楽が鳴る。
「あ、センパイ。ちょっと電話がかかってきたので失礼します」
「うん」
頭を何回か下げて、少し離れた場所に移動して通話を始めた。
愛里咲は私と違って交友関係が広い。付き合いは大切にしないとね。
私は壁にもたれ掛かり胸ポケットに入れたスマホの画面をONにしてプレイをする。
ヒロインルートは攻略対象者達とパーティーを組めるけど、悪役令嬢ルートは完全ソロプレイで、敵のレベルも高く設定されているのでやり応えがある。
――ゲームに集中しすぎていた。
私の目の前に同じ学校の制服を着た人物が立ったので、愛里咲かと思い顔を上げると、そこには知らない人が居た。
ネクタイの色からして上級生……ッ。
激痛が奔った。
目の前の人は左手に包丁を持ち、私を刺したためだ。
そして右手で首を絞め、刺した包丁を勢いよく抜くと、また刺してきた。
口から血を吐く。
平日とはいえ夕方のショッピングモール。
それなりの人たちがいる。
悲鳴があがり、周りが騒々しく騒ぎ始めていたけど、もう私にはあまり聞こえない、
何回も、何回も、何回も、執拗に刺される。
もう痛みさえない。
最後に見たのは、見たことないほどに憎悪に染まった、私を、殺した、ヤツの顔だった。
-*-*-*-*-*-
「エヴァ様。大丈夫ですか!」
「フェ、フェイト……?」
「はい! 凄くうなされてたので、心配しました」
「ごめんね。ちょっと夢見が悪かっただけだから、心配しないで……」
本当、最悪な夢を見た。
これも、ヴァラウス帝国学院に、私を転生させた悪戯神ロキによって、同じように転生させられて来た新ヒロイン、ルージュの所為に決まっている。
私の名前は、エヴァ・カタストロ。
乙女ゲーム「FATE FORTUNE」に登場する悪役令嬢に強制的に転生させられてしまった。
しかも、ゲームにはない実は悪魔王とかいう、最悪な設定まで追加された状態。
つまり私は、悪魔で、悪役令嬢ということになる。
エヴァとして悪役令嬢を演じて過ごせば、DEADEND。
悪魔と発覚すれば、DEADEND。
そのため、薄氷を踏む思いで日々を送ることになってしまった。
DEADENDになれば、悪神ロキを愉しませる事になる事は目に見えている。
だから私は、絶対に悪役令嬢としては過ごさないように決めた。
更に念のため「FATE FORTUNE」のヒロインである、フェイト・ヴァルフォルトを幼少の時に知り合い、専属メイドとして雇い、交友を深めることにした。
フェイトは本当に好い子だ。
流石、乙女ゲームのヒロイン。
外道神ロキが、何か仕掛けている可能性もあったけど、それはなく、本当に可愛くて愛おしい存在だった。
攻略対象者とも、一定の交友をしていて、乙女ゲームの√によるDEADENDは完全回避したと思っていた。
そう。ヴァラウス帝国学院に入学するまでは!
フェイトの立場に収まる、新しいヒロイン。
リリィ・ヒロイニックとかいう、私を滅しようとするロキの狂信者で道化でイカれた変態女。
フェイトと同等の能力を持ち、ロキにより最高位の魅了魔法を与えられた存在。
そして、その顔は、存在は、――前世で、私を殺した、相手だった。
流石の私も前世で、私を殺した相手とは仲良くすることは出来ない。出来るはずが無かった。
DEADENDを完全に回避したと思ったところで出された、私に対して最悪なジョーカー!!
その時の絶望感は、鬼畜神ロキの愉しそうな高笑いが、聞こえてきそうだったよッ。
今までしてきた努力は全て無駄だった。
そしてリリィの最高位の魅了魔法により、私は学園でほぼ孤立状態。さながら「FATE FORTUNE」の悪役令嬢エヴァと同じ立場となった。
唯一の味方が、同級生でヒロインのフェイトだけというのは、皮肉が効いてるよ。
そして、運命の日は、早くもやってきた。
-*-*-*-*-*-
ヴァラウス帝国学院は火に包まれた。
エントランスに居るのは、忌々しい新ヒロインのリリィ。
手には対悪魔用の聖剣が握られていて、私の血がついている。
「ああ! ロキ様。もう少しで、悪魔を、私の大事な物を奪う悪魔を滅する事が出来ます。感謝いたします!!」
「ふざけ、ないでよ。私を、一回だけじゃなくて、二回も殺そうと、するなんて、このイカレ女!!」
私がなんとか死なずに居られるのは、悪魔化した事で、生命力が伸びているためだ。
頭には山羊の角のようなのが渦巻き状に生え、背中からは3対6枚の蝙蝠ののような翼が生えた状態。
リリィのお陰で、皆の前でこの姿を晒すことになった。
もうDEADENDは、避けようがないかもしれない。
「何回でも殺す。愛しい愛しくてたまらない妹を盗ろうとする悪魔は、姉の私が殺す」
「いもう、と?」
今まで気にしてなかった。
リリィの顔は、どことなく有栖川愛里咲に似ていた。
「まさか、愛里」
「お前が! 妹の! 名前を口にするなぁぁぁぁああ!!」
リリィが剣を振ると、閃光が奔る。
魔方陣を出して防ごうとするけど、なんとか相殺が限度。壁に身体がぶつかる。
対悪魔用のスキルを固めすぎじゃない!?
もう対悪魔特攻型神子と言っても過言じゃない。巫山戯るなとは言いたいけどねっ。
「まだ、まだ、愛里咲は、お前の事を。でも、もう解放される。お前の頸を刎ねて、愛里咲の前にもっていって、昔のように、私だけのものに――」
イカレ女の言葉を全ては信じる気はないけど、もしかして、愛里咲も、この世界に転生してきている――?
あの、下衆神ロキのこと。十二分にありえる。
そして、このイカレ女を制御するエサなのだろう。
どうりでアレを信仰してると思った。
狂った女が一歩一歩、私の所へやってくる。
私の全ては対策済みなのは分かっている。
悪魔でいる事が、バレた以上、もう、私に残された道は、DEADENDしかない。
もう、諦めがつき、死を覚悟した瞬間。
天井が崩れ、土埃からフェイトが現れた。
……ああ、どうせ殺されるなら、リリィじゃなくて、フェイトの方がいいや……。
「エヴァ様……」
「――フェイト。見ての通り、私は悪魔。だから、ひと思いに殺してよ。リリィに殺されるぐらいなら、まだ貴女の方が」
フェイトは私が言い終える前に、手を翳した。
すると聖剣により受けたダメージは、完全に消え去った。
それに驚いたのは、私とリリィだ。
「悪魔だから、なんですか!? 私は10年以上、エヴァ様の側で一緒に過ごしました。エヴァ様がどんな方なのかは、私が一番知ってます!!」
「フェイト……」
「それよりも、今は一番許せないのは、私の大切な人。エヴァ様を殺そうした貴女は絶対に許さない!」
「ソレを庇うなら、お前事、その害虫を殺す!」
フェイト・ヴァルフォルト。乙女ゲーム本来の正ヒロイン。
リリィ・ヒロイニック。神により産み落とされた偽ヒロイン。
2人のヒロインが炎に包まれる校舎のエントランスで、盛大にぶつかるのだった。
-*-*-*-*-*-
「リリィは逃げちゃったか――」
「……はい」
勝負はフェイトが勝った。
当たり前と言えば当たり前。
リリィは私を殺す事に特化しすぎていた。他が疎かになりすぎたのが敗因だろうね。
私はフェイトに抱きついた。
「ありがとう。凄く嬉しかった。悪魔と分かっても私を慕ってくれたことは、私はずっと忘れない。だから、――フェイトとは此処でさようならしないとね」
「! 待っ」
フェイトを空間を操作して遠くへ飛ばした。
私が悪魔だとバレた以上、一緒にするのは危険すぎる。
これは私の問題。フェイトを巻き込んで、苦労させる訳にはいかない。
そして私には目標が出来た。
転生してきてるであろう、愛里咲に会いたい。
愛里咲を探していれば、リリィともまた会える。
リリィとは必ず決着をつける。前世、そして今世を含めた全ての事に対してだ。
「学院生活――楽しかったな。前世し出来なかったから、今回はきちんと卒業したかったなぁ」
未練だなぁ。
私は炎により崩れていく校舎を後にするのだった。
私は、あくまで、悪役令嬢です 華洛 @karaku_f
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