episode1 異世界転移
「はあ…、今日も講義疲れたな…、明日もまた1限からだし…」
大学の帰りにカフェに寄り、外のテラスで一人、コーヒーを飲みながら憂鬱になっている男子大学生の俺―――
高校生までは人並み以上の学力や行動力を持っていたはずなのだが、いつからこんなに怠惰で無気力になってしまったのだろうか。
いや、理由はとっくに明白なのだ。大学生になって自由を手に入れた一方で、そこから大きな惰性が生まれ飲まれていった。
元々サボり癖のあった性格も同じ理由で理性が弱くなっていったことによりさらに露呈した。
(このまま特に何もなく人生を終えるのだろうか…)
何のために生まれて、今も尚生き続けているのか。
ただ死んでいないから生きているだけ。与えられたタスクをボーダーラインギリギリのところの範疇でこなすだけの無気力な日々が続いていた。
そんなことに思い耽りながら外のテラス席でコーヒーを嗜むというのが、いつの間にか帰り道のルーティンと化していた。
「ニャーオ」
気が付くといつの間にか足元に猫が一匹鎮座していた。
特に飼った経験などないが、猫は好きな方である。
犬派か猫派かと問われればどっちも好きだといえるほどには好きだ。
俺は足元から離れていかない猫の頭を撫でる。
「よしよし、良い子だ」
人間に慣れているのだろうか、全く嫌がる素振りも逃げようとすることもない。
「のんきな野郎だ。お前は良いよな、何も考えなくても生きていけそうで」
「ニャーオ?」
「あはは、悪い悪い。ただのぼっち大学生によるぼやきだ。まあ、猫には猫なりにの考えていることだってあるよな」
猫にぼやいたところで仕方のないことではあるが、いかんせん俺には話す友達もいない。少しくらいなら許してくれるだろう。
足元にいた猫が俺の荷物であるトートバッグとコーヒーが置かれた机に飛び乗る。
何か食べ物を探しているのだろうか、俺のトートバッグを漁り始めた。
「おいおい、悪いけどお前にあげれそうな食べ物は持ってないぞ?」
中にはパソコンと最近購入したタブレット、それから財布等貴重品が入っている程度であった。
猫は食べ物がないことを察したのか、机から俺のトートバッグを咥えて飛び降り立ち去って行った。俺のトートバッグを咥えて———?
「おい待て!何カバン持ち去ろうとしてるんだよ!」
俺はトートバッグを持ち去ろうとしている猫を追いかけた。
荷物持ち去るとか猫を利用した新手の犯罪か何かですかコノヤロー。
「くっ…、猫速っ…」
高校生時代は足は速い方だったのだが、やはり人類ではネコ科に足の速さでは勝てないようだ。1年以上ののブランクも相まって尚きつい。
というかあの中には重たい物も入ってるんだぞ?猫ってそんなに顎の力強いのか?
約10分間追いかけているが、猫との距離は変化することはなかった。まるで猫はペースを合わせているかの如く。
追いかけることに精一杯であたりを見ていなかったのだが、ずいぶん遠くまで来てしまったのか見慣れない景色が広がっていた。
泥棒猫は薄暗いトンネルへ入っていく。
俺も猫を追いかけ吸い込まれるようにそのトンネルの中へ。
「なかなか暗いな、ここ…」
外からでも感じていたが中に入ってみるとよりその暗さを実感した。薄暗い明かりは遠い感覚でぽつぽつとある程度。相当年季が入ったようなボロボロの造りでもあった。
ただ猫を追いかけることに夢中な俺はそんなこと気にも留めず、ひたすら目の前の猫を見失わないように走っていった。
しばらく走っていると光が見えた。想像以上に長かったがやっとトンネルを抜けるようだ。
俺の体力はすっかり空っぽだったのだが、盗まれているものを取り返さない限り俺の首の皮一枚で繋がっている大学生という肩書も失うことになりかねないため、必死に走った。
猫の方も疲れてきているのだろうか、縮まらなかった距離ももうほぼ目の前というところまで来ている。
もう少し、もう少しで猫まで手が届く———
トンネルを抜けた。
先ほどまでの暗すぎた環境とのギャップとも相まって、より強く光を感じた。
目もあけていられないほどの強く眩い光。
徐々に目が光に慣れ、ゆっくりと目を開けていく。
するとそこに広がっていた景色は、まるでこの世のものとは思えないものだった。
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