第10話微2

無事、誰かに冷ややかな視線を向けられることもなく家に到着した。

玄関を開けて、階段を昇る。

靴は・・・スリッパだったが、外を歩いているので脱がせた。

素足でも十分部屋が汚れそうだったので、風呂まで抱き上げて運ぶことにした。

俺の上着を着せていたので、幸い俺自体は汚れる心配はなかった。

それにしても不思議だ。

いくら、ガキたちから助けたとはいえ、俺に黙ってついてきて、家の中に入れられて抱えられている。

普通の女だったら、暴れていたっておかしくないはずだ。

なんで、こんなになすがままなんだろう。

抱えた少女を風呂に下ろす。

「いろいろ汚れてるから、風呂に入れ。話はそれからだ。俺の上着だけは返してもらうな。風呂に入ってる間にお前の着替えを出しておいてやる。タオルはそこのを使え。」

早口でそれだけ言って、風呂の扉を閉めた。

上着は…洗濯だな。

着替えは、トレーナーとハーフパンツで平気だろう。

俺もそうでかいほうではないけど、あの少女よりは確実にでかいからな。

あのYシャツは、失礼だが、風呂から出たら破棄させてもらおう。

あの様子じゃ、洗濯しても汚れが完全に落ちそうにはなかったしな。

俺の上着を洗濯機にエ○ールと一緒に投入して、ドライ洗いにする。

買ってきた弁当は完全にさめていたので、レンジに入れた。

部屋を暖かくするために暖房を入れて、テレビをつけた。

そうしてるうちにレンジが小気味のいい音を鳴らす。

「あちゃー」

割りばしまで温めてしまったようだ。

別に、どうってことはないが。

ふたを開けて、あたたかくなった弁当にほんのり暖かい箸をつける。

風呂の様子はどうだろうと思い、テレビの音量を下げた。

「・・・ん?」

風呂から水の音がしない。

シャワーの音とかしそうなものなんだけどな。

さっきから結構時間がたってる気がするんだが。

一瞬、女の子の入浴を覗くっていうのは、気が咎めたが転んで頭でも打っていたら大変だと思い、声をかけてからドアをあげることにした。

「おい、大丈夫か?あけるぞ」

返事がない・・・ただのしかば

「ねじゃ困るぞ!!!」

漫画だったら、確実にガラッというSEの文字が。

「・・・ぁあ?」

俺、こんな反応したの今日、何度目なんだろう。

風呂場の床にぺたりと座りこんでいる。

なにをするわけでもない。

服すら脱いでいない。

もしかして…

「使い方わからないのか?」

うなづいた。

ぇ、いまどき、シャワーの使い方わからない奴っているのか?

使い方わからないっていっても、俺が入れるわけにはいかないしな。

よし、一応日本語は通じるようだから説明してみるか。

俺は、お湯の出し方から体の洗い方、洗うシャンプーがどれだとかまで、説明してみた。

結構、長い説明だから、どれだけ理解できているのかが不安だが。

「できそうか?」

うなづく。

この辺でちょっと俺の中に疑問がうかんできた。

少女は、俺の手からシャワーを受け取ると、そのまま湯をかぶり始めた。

脱ぐっていうのを教えるの忘れたみたいだ。

「ちょっとたんま」

こっちを向いた。

不安そうだ。

自分の行動が間違ってるって思ったんだろうな。

いや、間違ってはいるんだけど。

「俺が、ここから出た後にその服を脱いでから浴びるんだ」

より不安そうな顔になった。

脱いだらだめとか教えられたりとかしてたのかな。

言ったことは理解しただろうと思って、風呂場を出ようとした。

だけど、それは叶わなかった。

服をつかんでる。

さっきの不安そうな顔は俺がここを出ていくってことだったのか。

「離しなさい。さっき教えた通りにすれば大丈夫だから」

なんだか、動物を拾ってきてしつけをしてる気分だ。

無事に放してもらえて、扉を閉めるとちゃんと水の音がし続けている。

曇りガラスだから、中がうっすら見える程度だが、ちゃんとシャワーを浴びてるような様子がなんとなくわかる。

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