第9話微1
-マイペースな人魚姫(仮)-
-歌い方を忘れた小鳥(仮)-
大学から帰る途中に、今日の晩飯をコンビニで買う。
高校の頃、家にいたときは父親も母親も忙しかったので兄弟の分含め自分で飯を作っていた。
いまでも、その時の腕がなまらないように土日に作り置きなんか作ってる。
俺がいなくなって、あの家どうなってるんだろうな。
そんなことを考えながら、温めてもらった弁当が冷めないうちに家に着くように足早に歩みを進めていた。
いつもどおりショートカットをするため、公園に入った。
まだあたりは日が差しているので、遊んでいるガキ連中がいた。
「こいつ変だぜ!」
ふと、耳に入った言葉。
きっと、捨てられた動物でもいるんだろうと、たいして気にもしない。つもりだった。
だけど、その日はなぜか気になった。
捨てられた動物なんて拾ってどうにかできるわけでもなかったし、ガキにちょっかい出して近所だったら親に目をつけられかねない。
自分でもどうかと思ったが、注意をするくらいどうってことないだろうと、ガキ達の輪に向かった。
「おい、なんか言えよ!」
「汚いから放っておこうぜ」
「だって、俺のお菓子とろうとしたんだぞ!金出せよ!」
あきらか、言葉がおかしい。
動物に、言えという言葉は使っても金を出させるガキは昨今でもいないだろう。
もしかして、浮浪者か?それは動物なんかよりも面倒くさいな・・・
「おい、お前らやめ・・・てぇ?」
自分でも変な言葉が出たと思う。
そこにいたのは、動物でも浮浪者でもなかった。
元は白かったであろう衣服に身を包んだ人だった。
それが何かを抱えるようにうずくまっている。
「なんだよ、にーちゃん!」
茫然としていた俺に、ガキの一人が声をかけてきた。
静止の言葉を言ったはずの俺が静止していたようだ。
「あ、いや・・・ぇえ?」
俺は、自分で自分の心を落ちつけるすべを持ち合わせていなかった。
いや、持ち合わせていたとしてもおそらくそのときはすっぽ抜けていたんだと思う。
「とにかく、これはどういう状況だ?」
自分が状況を整理するためだったが、うまい具合にガキたちに質問する言葉をおれは口から発していた。
「どうにもこうにも、俺らが買ってきたおやつ、こいつに奪われたんだ!」
・・・もしや、俺は浦島太郎か?
この女の子を助けたら竜宮城につれていってもらえるとかあるのか?
「だから、とっちめてたと?」
「ったりめーだろ!」
状況は一応理解できた。
うん。ガキたちが囲んでた状況のみは理解できた。
ここは、子ども相手にどうかと思ったが、金で手を打つのが早いだろうな。
「よし、1000円やるから、おやつ買ってこいよ。その間に、俺がこいつをとっちめてやるから」
そういうとガキたちは、目を輝かせてくれた。
ありがたいかぎりだ。
このあたりはいまだに駄菓子屋がある。
ガキたちも金のかかるコンビニよりも、消費税などのかからない計算の楽な駄菓子屋に行くことのほうが多い。
1000円もあれば大分豪勢に買えるだろう。
俺は、財布から1000円札を出して、一人に渡した。
一人千円とか言い出しかねないかとひやひやしたが、俺の手から1000円を受け取ると、みんなで連れ立って自転車に乗って行った。
「で、なんで、子供たちからおかしを奪ったんだ?」
目の前でうずくまってる。
目の前のそれは周りに俺しかいないのを確認すると、俺に顔を向けた。
その瞬間、俺はぎょっとした。
てっきり汚いおっさんなのかと思っていたが、あげた顔は女の子のそれだった。
俺の顔を見るなり、ぺかっと笑い、お菓子の袋をあさり始めた。
一つとりだすと、俺に差し出してくる。
「お礼・・・か?」
うなずく。
これは、もらってもしょうがない気がしてきた。
「いや、いいよ」
そういうとしょぼーんとして、袋にお菓子をしまった。
立ち上がり、どこかに行こうとする。
もう、ここまで驚けば、ふつうはそんなに驚かないものなのかもしれないが、俺はその日何度目か数えるのもおっくうになるだけの驚きをした。
その少女は、男性ものの大きなYシャツを着ているだけで、下は下着だけだったからだ。
「ちょ、ちょちょちょ!!!ちょ、まって!」
俺が、声をかけると、笑顔で振り向きさっきのお菓子を再度差し出してきた。
「いや、違うから。お菓子じゃなくて」
再度、しょぼーん。
そんなにお菓子を食わせたいのか?
「なんで、そんな恰好でいるの!?」
そばにより、問い詰めるかのような勢いでいう。
まっても返答は返ってこない。
困ったような表情をしているだけだ。
あぁ!俺、いまこの状態見られたら確実に変態だ!!!
しょうがないので、俺は自分の上着を羽織らせると手を引いた。
思ったよりも、素直についてきてくれているので、人さらいで逮捕されることはなさそうだった。
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