第8話書きさし
ただ、私は「底」に居た。
そこにいることで、何故か安心感を覚えて。
それで、そこに居る時間は、本当の私の世界に居る時間よりも長く、そして濃いものになった。
「無題」
この長い髪が、どんどん重くなって私を動けなくしている。
学校でしている友達とのおしゃべりだって、雑音のようにウザイ。
自分が自分で居る時間なんて、ほんの一時すらない気がしてならない。
自分の存在価値すらない。
学校の友達のように、恋に頬を染める事すらない。
ねぇ、なんでこんなに私の心は乾いている?
その日私は、制服のまま街を歩いていた。
危ないってことくらい分かってる。
ここは、歓楽街からもそう離れていないし、そういう目的の人だってきっと少なくは無いはず。
逆にそのくらいでよかった。
自分は大丈夫というわずかな自信といつ何が来るか分からない不安、それにここでは、という期待。
「ねぇ、お嬢さん。いくつ?」
来た。
いろんな感情が混ざって私の心は跳ね上がる。
やっぱり、不安と期待の混ざり合ったもの。
これは、いつ経験しても同じだった。
「16歳です」
高い声を作って、可愛く振舞いながら振り返る。
これが、警察だったら本当に終わりだ。
笑い事じゃないけれど。
「こんな所、歩いてちゃ危ないよ~?」
少しほろ酔いの親父が何を言ってるんだか。
16歳が全員ガキってわけじゃない。
確かに、年齢的にも肉体的にも、精神的にだってまだ子供だけど、全部が分からないほどのガキじゃない。
「おじさんと安全なところに行こうか?」
1番危ないのは、このジジイの危ないところ。
「えーおじさん、危ない人じゃないの?」
「そんなことないよ。そうだ、何でも買ってあげるよ?」
安全な所に行くなんていっておきながら、結局はそうやってお金で釣ろうとする。
こっちは、池の中の魚。
でも、本当に「何でも買ってあげる」で引っかかる魚なんて居るのか…。
「本当?なんでも?」
「本当、本当。」
こういうジジイは必死すぎて笑えてくる。
だけど、そこは押さえなきゃいけない。
「じゃあ、ついて行っちゃおうかな?」
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