第7話花魁的な話が書きたかった
目の前にあるのは、妖艶な笑み。
まず、飛び込んできた印象はそれだった。
そこに存在するのは、和装の女性。
和装というには、だいぶ着崩しているように思える。
あのような着付けの仕方は見たことがない。
本来は、子供に使うはずの兵児帯が大胆に胸からのぞいている。
上で括りあげた長い髪は黒く美しい。
質素であるが、よく作られているであろう花櫛。
丁寧に漆塗りされているかんざし。
それが、激しい動きでもゆるむことなくしっかりと髪を彩っている。
それが、目の前で舞っている。
舞踊用の扇を持ち、長く黒い髪を躍らせている。
私はそれを美しいと思った。
いままで、文化には触れ合っていた私だ。
さまざまな舞を見てきた。
今、目の前にあるそれは、今まで見てきたどの女よりも美しかった。
自分の中を廻っている血液が躍動するのを確かに感じた。
私が見惚れていると、女がこちらに気づいた。
白い肌に上気したほほの桃色がとても色よく艶やかだった。
「お初にお目にかかりんす 。」
その声は、甘くつやがあった。
ただの猫なで声とは違う。
本能をふるい起す時間を思い起こさせる声。
「ぁ、はじめまして」
「いかがでありんしたかぇ?」
いまどき、あまり聞かない花魁言葉に驚いてしまい、言葉につまってしまった。
「花魁言葉に驚かれんした?」
「す、すみません。あまり聞かないので。それにとても舞が美しかったです。」
「ありがとうございんす 。でも、わっちは、花魁じゃありんせん」
花魁言葉は、意外にも理解のしやすいものだった。
最初は、この女と話すのはだいぶ苦労だと思ったが、これだったら普通に会話ができるだろうと思えた。
これだけ、流暢に花魁言葉を使えるのに、花魁でないというのはなぜなのだろう。
たしかに、花魁というのは、物語の中の登場人物だけで終わる人だと思っていた。
いわゆる、空想上の、というやつだ。
「なんで、花魁言葉を使っているのですか?」
「花魁の言葉 って響きが素敵でありんすぇ。でありんすから 、好きで使ってありんす 。」
納得した。
たしかに、日常の言葉を話すにしても、花魁の言葉で話すだけでなぜが不思議な気分になる。
いままで、生の声で聞いたことがなかった私でもその気分を味わえているのだから。
それよりも、言葉は花魁でも、着物の着方はいままでみたことない。
物語の挿絵の花魁も、このような着付け方はしていなかった。
近くで見ると、女が来ている着物は、着物でもなく、浴衣でもなかった。
おはしょりを作るわけでもなく、襦袢を身につけてるわけでもない。
さらしのように、兵児帯を使い、着物のむなものとから縛り目を出している。
腰部分は、普通の帯。
後ろをみても、着物や浴衣のように結びを作ってるわけではなかった。
何よりも隠す美しさがある着物と違う部分は大きく見えている胸元だった。
「そんなにじろじろ見ないでくんなまし。」
注意されてしまった。
さすがに、気になってよく見すぎたらしい。
「ごめんなさい。いままでに見たことのない着付け方だったので」
正直に言うしかない。と思った。
これ以上、じろじろ見たら、それこそ変態扱いだ。
まぁ、見られても仕方のない着付け方だとは思うが。
「別に怒ってはいんせん。
いろいろ、聞きたいことがある様子でありんす 。
どこかで休みんせんかぇ?」
一瞬、床の誘いでもきたのかと思った。
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