第3話 秘め事



ぺらりとページをめくる。


久々に、何か文章が読みたくて本を買った。


文庫本。


特に、出版社や作家なんかは気にしてないない。


題名と目次に出ていた文字の羅列、そして、挿絵がよくポストカードを買っていた作家だったから。


「ねぇ、それ、面白い?」


傍らにいる彼が、こちらに目線も向けずに聞いてくる。


青年というには若すぎて、少年というには大人に近い。


彼は、先ほど私の家に、勉強と暇つぶしに来た。


約束の時間より1時間遅れた理由は、「眠かったから」


別に、こちらから用事があるわけでもなく、彼が単に暇つぶしと勉強に来ただけ。


面倒ならば、来なければいいのにとあきれてしまった。


「まぁまぁかな…」


私も、彼に目を向けずに答えた。


久しぶりに読んでいる恋愛小説は、凄く文章に惹かれるわけでもなかった。


強いて言うならば、読みやすいというくらい。


私が読み進めている部分まででは、特に癖もなく、特に理解しづらい文面があるわけでもなかった。


それこそ、ハードカバーの小説でもないのに、文学らしい文章を読ませられても疲れてしまう。


「あー疲れた」


30分もたたずに彼が伸びをする。


本来は、やらなくてもいい試験勉強をしているわけだから、精神的に負担にもなるだろう。


「でも、勉強しに来たんでしょ?」


もともとおせっかいな気質の私はどうしても保護者のような言葉を口にしてしまう。


彼が来るからと部屋を掃除し、片づけた私からすれば、本を読んでるとは言え手持無沙汰だ。


昨日作ったプリンと、紅茶でもたしなみながら会話を楽しめる空間位欲しかった。


でも、彼に保護者のようなセリフを投げかけている瞬間も、こっそりとした思考を巡らせている今も、目は本に向けている。


私は、貴方に興味はありません。と必死になって表現する。


そうじゃないと、先を期待して、どうしてもどきまぎして態度に出てしまいそうだから。


「みっちゃん…癒してー」


このセリフを聞くのは、2回目。


またか…とあきれるふりをして、えー…と嫌がるふりをして、その内心は、自分に興味を持ってくれたことの喜びと、この先に何があるかという期待感。


彼は私の胸に手をかける。


相変わらず大きいと感心しながら、その形をなぞる。


カーディガンを脱がされる。


否定をしても、わたしの行動はその反対だ。


彼のしたいことの手助けをしている。


今日は、冬の気温にしては暖かかった。


だから、キャミソールに厚めのカーディガンを羽織っていただけ。


それだって、着こんでいただけじゃないから、ボタンを一つ二つ外せば、すぐにキャミソールを着た私の全体像が見えてしまう。


それをすぐに脱がされる。


下着を外されて、本来、好きな人にしか見せないはずである場所を晒す。


先端をつままれれる。


正直な本音と、ほんの少しの拒否を含めて「痛い」と口にするけれど、彼から帰ってくる言葉は「痛いくらいがいい」だった。


そんなの私が、与えられている感覚だから正直不満だ。


それから、2,3度は訴えたが、無下にされてしまった。


お互いに、何度もしてきたように行為が流れていくが、これはまだ二度目だ。


彼は基本的な流れが決まっているのかもしれない。


彼のモノに私が舌を這わせる。


一通りしゃぶると、彼が私の胸を求める。


弱いところを責められて、わたしがあふれると彼はそこのチェックをする。


彼の好みになっているか、とか…


もともとは、わたしの好みでやっていたことだったが、彼の好みにうまく合致した。


彼が私の家に遊びに来る前日は私は、お風呂場で丁寧に剃毛している。


それを彼は気づいているのか…


私が好きなアイドルが、パイパンだからそれにあこがれて。と伝えてある。


それを純粋に信じているのかは定かではない。


彼がわたしの秘部を見て、褒める。


彼の好みに近い状態だったのだろう…。


それで、またわたしの心が跳ねる。


他の人にこんなことされてたら、文句の一つや、二つ簡単に出てきた。


なのに、彼の前では、その言葉すら浮かばない。


わたしの体は、彼の指の動きを受けて、素直にそれを処理する。


口から、声が漏れる。


どうしていいのかもわからない。


上半身を起こして、制止すればいいのか…


素直に処理されている刺激を受け続ければいいのか…


そうやって、迷っているうちに彼の観察も愛撫もいったん幕を引く。


寂しいような、安心したような…でも、次が待ち遠しくなる状態。


最初は、騎乗位。


濡れていても、痛がりやすいわたしには、ならすための体位に近い。


彼のモノに手を当てて、位置を調節しながらゆっくりを腰を下ろす。


顔が紅潮していくのがわかる。


わたしの体は、絶頂に達するという感覚をまた理解していない。


でも、本や映像コンテンツでは、入れただけで絶頂に達するという表現もある。


もしかしたら、本来私はそういう状態なのかもしれない。


だけど体が理解していない。


そう思うと、自分の体のまだ有り余る感覚を憎まずにはいられない。


彼のモノをすべて収めると、包んでいるのはわたしのはずなのに、包まれているような感覚に陥る。


安堵に近いそれを感じているのもつかの間に、次の刺激が送り込まれる。


前に「騎乗位じゃないと、動き方がわからない」と言っていたように彼は、この体位が一番得意らしい。


頭まで、突き抜けるような…自分では処理しきれない刺激が与えられる。


断続的に、何度も…


翻弄されて、どうしていいかわからなくなる。


いままで、ある程度慣れているようにふるまっていただけに、彼との性交渉をしてから、自分がどれだけ本来は初なのかを考えさせられてしまう。


思考なんて放棄してしまいたくなる。


しがみついて、彼に送り込まれるそれに身をゆだねて…


でも、彼の細い腕で持ち上がるほど軽くはないわたしは、自分の体重をどれだけ自分でうまく分散させて、彼に負担にならないようにするかを考えてなければならない。


彼にまたがった状態で膝をつく。


腹をめいっぱいへこませて、胸を彼に押しつける。


なるべく、自分が、人間であるように見せたい。


背中をそらせている時は、胸の揺れがよく見えるようにおなかをへこませる。


でも、彼の刺激で、緩んでは…の繰り返し。


あまりにもわたしがへばってしまうと、今度は私が下になって、横になれるように配慮してくれる。


彼のが当てがわれて、挿入される。


子宮口までが短いわたしは、一気に奥まで突かれると鈍く痛みが走る。


でも、彼はそんなに痛いと感じることもない。


刺激的で、ふわふわとして、あたたかくて、肌を重ね合う喜びと、…わたしを見てないと感じる振れない場所。


それが、もどかしい。


今回、初めて痛いと感じた。


それは、自分がだめなのか…なにかの原因なんてわからない。


でも、それ以外は何をされても、どう動かされても、どこかにしがみついてないとだめなことばかり。


彼にしがみついて、ゆすられて…


「気持ちいいね」


ふと発せられた言葉にわたしは、なんて答えていいかわからなかった。


曖昧にうなずいて…


彼にどっちなんだと。


気持ちよくて、思考もまとまらない。


呂律さえ意思どおりにならない。


本当は、「ほんとに、気持ちいい?」って本心なのかを聞きたい。


そしたら、わたしでも気持ちよくなってもらえるって安心できるのに。


それが、できない。


彼が半身を起して、グラスを手に取る。


暖房のせいか、動くせいか…喉の湿気が奪われるから。


また、彼の体温に触れられた。


肌と肌とが触れ合う。


どうしても…唇を見てしまう。


綺麗な薄い唇を…


前回は、触れてもらえなかった場所。


きっと、本当に愛した人にだけ触れる場所なのだろうと、その日の全てを終えてから思った。


だから、自分は、肌に触れても、粘膜が触れても、唇だけは触れられることなどないのだろうと。


諦めにも似た確信。


固定概念になるまで、前回からその時まで思ってた。


心待ちにしないように。


ねだれば、嫌われると思いこみ。


お願いしても、馬鹿にされ、却下されると思いこみ。


だから、自然に受け入れられたかすごく不安になる。


抱きしめられるだけかと思っていたのに、瞳に掬われて、触れるだけの口づけ。


お子様程度の…


触れかたはお子様程度なのに、舌の滑らかな感触を味わう。


滑らかな舌の感触を味わう。


吸われて、刺激が増す。


どうしていいのかもわからずに…


でも、すぐにそれは離れて、あとを濁す。


わたしの思い込みは、崩れ去る。

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