スタット街脱出劇(2)
「まったく…ん?」
鎧を纏った男たちがこちらにズカズカと歩いてきた。
2人の騎士だ。
ちょうどいい、屋敷について話をしておこうか…あくまで何も知らない一般市民を装ってだが。
「あー、そこな少年、少しお時間よろしいかな?ーーあぁ!?」
騎士の方から話しかけてきたところが、その声が途切れ、野太い悲鳴に変わった。
その騎士は一瞬で、ドサっと地に伏せていた。
その光景を見て僕は絶句する。
「一丁上がりっと…」
見事な一本背負いだった。
ヒュードさんが慣れたようにその男を投げ落としていたのだ。
「貴様!何をする!!」
後ろにいたもう一人の騎士が声を荒げた、当然の反応だ。
「ホント何してるんだいヒュードさん!?」
絶句していた僕も釣られるようにヒュードさんの肩を掴み、その唐突で意味の分からない行動について問い詰めた。
騎士とのいざこざほど厄介なものはない、特に今は。
ヒュードさんは焦る事なく、顔色一つ変えずにこう返してきた。
「ロト坊、実は俺お前の言ってた屋敷を調べにはるばる来たんだよ」
予想外の返答できょとんとしてしまった。
僕が聞きたかったのは、騎士を投げ飛ばした理由なのだが…
屋敷というのは当然件の幽霊屋敷の事だ。
ヒュードさんはどこまで知っているのか。
そういえば、僕が町外れの森に屋敷があると言った時、「そうだな」と返していた気がしないでもない。
「いろいろ怪しい噂があるのに騎士団が何もしねえって話を聞いてな」
なるほど、おおよそは僕が聞いたものと同じかも知れない。
「……何かあるのかい?」
「さぁな?騎士様達が一枚噛んでるってことぐらいしか知らねえな?ーーなあ?」
ヒュードさんは連中にそう投げかけた。
「貴様…こんな事してただで済むと思うなよ」
突っ伏したままの騎士が睨み、甲高い音のなる笛を一つ吹いた。
するとあらゆる所から鎧、鎧、鎧…
どうもだいぶ前からマークされていたらしい。
今更だが、嫌な予感がした。
「ところで……僕に何かご用でもあるんですか?」
先程声を荒げた騎士がこう答えた。
「スミス…という男に心あたりは?キミと同じくらいの少年なのだが」
どうやら昨日考えていた懸念は杞憂ではすまないようだ。
その名は昨日の屋敷以外で名乗った事はない、つまりはイヴさんを拉致した奴らが騎士団となんらかの繋がりを持っているということが確定したわけだ。
「さぁ、何者なんですか?」
「冒険者らしいが、昨日ある場所で重要な物資を強奪したと報告を受けている」
「ある場所に重要な物資ねぇ……」
どうも情報がふわふわしている。
この人達は、事の全貌を把握しているのだろうか?
さてこうしている間にも周りを囲う騎士達はジリジリと距離を詰めてきていた。
「それで……騎士一人に危害を加えたとはいえ、なぜこの中年一人をこれだけの人数で囲っているんです?」
「とぼけないでほしい、用があるのはキミだよ少年。抵抗せずに来て欲しいものだがね」
シラを切ったが、お目当てはどちらかと言えば僕のようだ。
スミスの正体が僕であると特定されているのだと直感せざるを得ない。
気をつけてはいたものの、昨日街に戻るまで監視でもされていたか。
こうなるといよいよ宿にいるはずのイヴさんが心配になってくる。
「どうするよ、ロト坊。お前の言う中年男性が誰だか知らんが、奴さん達はお前に話を聞きたいってツラしてるぞ」
「顔は兜で隠れてて見えないけどね、しかし参ったなぁ」
「……よう、お前。こんな状況だけど、今でもその子をどうにかしたいか?」
「うん」
「ろくでもねえ事情を抱えてるかもしれねえぞ?」
実際騎士がこうも大勢出張ってくるぐらいだ。
相応の事情の一つや二つあるだろう。
「分かってるさ」
「やりたくない事はやらねえってのがお前のモットーだろ?」
「別にやりたくないわけじゃないさ、俄然やる気ってわけでもないけど」
「女を抱えるんだ。覚悟はあるんだろうな?」
「そんなものはないよ」
ヒュードさんの質問には全部即答していったが、最後のこの答えだけは聞いた彼をずっこけさせるものだったらしい。
「……おいおいロト坊、男ならそこはウソでもかっこいい一言をだな」
「いいから、まずはこの状況を打開しないと!」
「まったくつまんねえ若造になっちまったもんだ。ーーじゃあ、ま、やりますか」
そう言うとヒュードは床に何かを叩きつけた。
バフン!!と音がなり、辺りに白く濃い煙が立ち込める。
「ぬお!煙幕とは小癪な!!」
煙幕の効果時間にはまだ余裕がある。
僕はすぐにその場を後にせず、ヒュードさんに僅かに届く声で話を続けた。
「例の屋敷だけどね、キリュウがそこで白骨死体を見つけたらしい。女性のものだよ。霊か何かいるらしい」
「なるほど、噂の正体か何かかね」
「あと、屋敷までの道で魔物が湧いていたみたいでね。直接は見てないからどんなのかは知らないけど、行くなら気をつけてヒュードさん」
「おぉ怖ぇ」
伝えるべき事は大体伝えた。
心置きなく足を動かし始めた時だった。
「おいロト坊!餞別だ。持ってけ!」
彼は何かの袋をこちらへ投げてきたのでキャッチする。
中身を確認する暇はない。重くもないが、普通投げて渡すほど軽い物でもなく、それなりの手応えだった。
「恩に切るよ!」
「あの、ニャー公によろしくな〜」
騎士達を撒き、僕は元いた宿へと急いだ。
タニア婦人への報告は未完了だが致し方ない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます