間章1 奴らについて

間章 奴らについて

「どうだった?」


「すっかり寝てるヨ、死んだように」


「やめたまえ、縁起でもない」


 自分の部屋に入り少し経った頃、キリュウにイヴさんの様子を見てもらってきたところだった。

 ひとまず眠れるぐらい安心できる状況だと認識してくれているらしい、いい傾向だ。


「それで、いい加減説明してもらえるんだヨな?色々と」


「ああ…うん、そうだね。順を追って話そうか、キリュウと別れてから何があったかだ」


 僕は事のあらましを簡潔に説明した。

 あんまりじっくりやると途中から話を聞き流し始めるので飽きないように。

 キリュウは僕が携帯している爪とぎをカリカリしながら相槌をうっていた。


「ふーん。んで、何モンなんだヨ?」


「イヴさん?」


「いや小娘は良いヨ。興味ねぇ。その拉致ってた奴らヨ」


 興味ないってどうなんだ…

 まあいい、イヴさんの素性ももちろん重要だが、今はむしろ僕らがどんな奴らに手を上げたかだ。


「ああ。ここからは推測…いや、憶測になる。ズバリ、謎解きの時間だ」


 僕はポケットから黒縁の眼鏡を取り出してかけ、手帳と万年筆を取り出した。

 キリュウは相変わらず興味なさげな態度を装っているものの…


(分かるぞ?尻尾が少しだけど揺れ始めているのは隠せないんだね?)


 興味が無いわけでもないらしい


「奴らは6人組。素性を明かしたわけじゃない、まあ聞きもしなかったから当たり前なんだけど……僕が思うに6人だけで成り立ってる組織ではないと思う」


「もっと大きいって事かヨ?なんか思い当たる名の知れた犯罪集団とかいるのかヨ?」


「いや、目ぼしいものは思いつかなかった。ーー犯罪集団って、そりゃ僕が最初にやっつけた巨漢は凶悪な顔つきだったけど」


「じゃあどうしてヨ?」


「そうだね。リーダー格の人物に注目したい。ここからはキリュウも認知していた情報だ」


「つまり?」


「キリュウ。彼らはリーダーをなんて呼んでいたか覚えてるかい?」


「……なんだっけ?」


「隊長だよ。カモン隊長だったかな?あれは隊という一つの纏まりにすぎず、もっと上にいくつかの隊を統括している組織がある事が伺える。山賊とかってあんまり隊長って肩書き使わなそうじゃない?」


「いや、安直すぎねえかヨ?」


 まあ、これはイメージが先行した憶測だという意見はわかる。当然続きがある。

 僕は人差し指を立てて見せ、キリュウの反論を静止させた。


「まあまあ、聞きたまえ。盗賊団とか人身ブローカーの類だったら、あんな場所使わないと思うんだよ」


「そうかぁ?いかにも怪しさ満点の誰も寄り付かないそうな場所じゃねえかヨ。何か悪さするにはうってつけだと思うがヨ」


「あの場所に限ればね。でもあの幽霊屋敷があるのはこのスタット街。普通に出歩くだけでも騎士団が何人か見受けられるような安心感たっぷりの街だ。あんな所まで拉致した人間を運ぶなんて相当勇気がいるよ。現に噂になってたわけだし」


 まあもっとも、街門を通らず、あの屋敷に直行できる抜け道があれば話は別だ。

 後ほどその辺りを調査する必要はある。


 ……そういえばなんで噂が浮上したんだ?

 フランソワーズさんは、若い女性と言っていた、情報がバッチリ一致している。

 あんな所まで拉致する事には成功しているような隊なのに、どうしたら一般人にそんな情報を掴ませる事になるんだ。

 まあ実際イヴさんも逃げ出してきたぐらいだし、案外おっちょこちょいな奴らだったのかな?


「どうしたんヨ?」


「あ、いや。なんでもない」


 とりあえず次に進もう、話を脱線させてもしょうがない。


「もう一つの根拠は彼らの連携の取り方だよ。奴らのまとめ役が僕を追い詰めた時、指示の出し方は迅速かつ的確なものだった。よく訓練されていた筈だよ…キリュウが来てなかったらどうなっていた事やら」


「ハッ、ワレ様に感謝するんだヨ」


「はいはいありがと、例は弾むよ」


「言ったな?」


「そう恐らく普段から、集団での行動や戦闘を想定しているんだ…まるで…」


「無視かヨ…まるで?」


「騎士団みたいだった」


「はぁ!?」


「騎士団の調査ではあの幽霊屋敷は異常なしって報告だったらしいんだ。…騎士団じゃなくても、騎士団や国に承認されている組織の裏で動いている人達とかだったら、黙認されている何かだったら、この事件の舞台がスタット街でもおかしくはないかなって」


「じゃあ、なんだヨ。ワレ様達は騎士公を叩きのめしたっていうのかヨ」


「さあ、本当にそうなのかは分からないよ?憶測だからね」


「…また面倒な事に首突っ込んだヨなぁお前も」


「まあいつもの事だよ。でもなんだかこの件に関していえば。大きな力が動いているような胸騒ぎがしてさ」


「…はぁ、なんか疲れたヨ。もう寝る」


「はは、そうだね。僕も疲れたや、今はまだ考える事しかできないし、また明日色々調べてみるよ…あ、もう今日か」


 話しながら整理した内容も大体は手帳に書き込めた。

 とりあえず今この時間にできることも無さそうだし、話を終えるには丁度いいだろう。


「ところでヨ?」


「うん?」


「例は弾むって言ったヨな?」


 終わるはずが予想外なものが蒸し返された。


「な、何がお望みで?」


「ロイヤル猫缶」


「…わかったよ、買ってくるよ。どうせついでがあるだろうし」


(猫扱いされたくないくせに、こういうところは猫なんだから…)


「なんか言ったかヨ…?」


「さてね」


「……ところでヨ」


「もう寝るんだろう?今度はなに?」


「ロト坊、お前…あの小娘……いや、いいやなんでもねえヨ」


 そういうとキリュウはベッドに登り毛布に包まってしまう。


「そ、そう?」


 キリュウが放ったらかした爪とぎをバッグに片付け、ようやく僕もベッドに寝ころがった。

 明日も忙しくなりそうだ。

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