事の発端(4)
「――坊?」
仮に戦争になるなら、いやでも救援を求めるほど財政的に苦しい王国から仕掛けてくるものなのだろうか――
「ロト坊?」
というかそもそも下出に出てくれているのだから、やはりこれを除ける必要性を感じない、ここだけ聞いた情報に不備があったのかな?いやそれとも――
「ロットン・グラスバレェェェ!!」
不意打ちのようなあまりに大きな声に軽く耳鳴りを覚えた。
「うわぁ!!――突然耳元で叫ばないでくれ、どう考えても聞こえるでしょ!」
「じゃあなんで何度呼んでも反応しないんだヨ。今度は一体何考えこんでたんだヨ?」
「……強いて言うなら、この世界の未来について??」
そう、僕は重大な事を考えていた。と傲岸に主張していいはずだ。
世界情勢の探究は、生きていく上で大切な事なのだから…多分
「そんなつまらない事より目先の事考えろヨ。道こっち」
僕の主張をつまらない事と一蹴するキリュウは、長い尻尾で進むべき方向を差している。
視線をそっちに移すと、木々が乱雑に生茂っていて、申し訳程度に道が整備されているように見える林の道だ。
「これはほんとに街の中なのかい?」
日が沈んでいるせいでもあるだろうけど、目の前に続く林道はとても不気味だった。
変な噂が立つのも仕方ない。
「街の門はくぐらなかったヨ」
基本的には街は外壁に覆われている、街の端の好きなところから飛び出せるわけもなく、街の外へ行くには限られた門を通る必要があった。
「まあそれはそうなんだけどさ……というか流石に街の外に出てたら気が付くよ」
「どうだか…それにしても、呆れるほど広い街だヨ」
ここ、スタット街は数ある村や街の中でも立派な方だ。
確かに詳細な地図がただで配布されている規模の街ともなると、そう多くはない。
町の中心の掲示板辺りに地図が描かれている程度ならよくあるのだが
改めて例の地図を広げてみる、場所は間違っていないようだ。
「まあ立ち往生しても仕方ない、行こうか」
足を動かそうとしたその時だった。
「――もし、そなた」
どこからか、声をかけられた気がした。
僕はキリュウを見るが特にこちらに話しかけた様子はなく、目を合わせてくるだけだった。
「そこの、小僧。お前さんじゃよ」
今度は後ろに振り向いてみる。
人影と言えば、ローブのフードを被って向こうを向いている女性ぐらいだった。
「その先にいくのかえ?」
僕が返答をする前に質問してくる。
口調の割に声は高い…というより若々しい。
顔をこちらに向けることはなく、依然として向こうを向いたままだった。
「え、ええ…それがなにか?」
僕は、軽く警戒しながらそう返した。
屋敷の関係者だろうか?
あまり街中で武器を手に取るものじゃないけれど、僕は腰に帯剣しているシルバーレイピアに少しだけ意識を向けたりもした。
「ならば用心することじゃな、人生を変えるほどの大きな転機がそなたに訪れるかもしれんからな」
「……はぁ」
突然転機と言われてもピンとこない、なんのこっちゃ。
「くっふっふ、応援しとるぞ」
女性はそう告げると向きを変えることなくそのまま歩いて行った。
果たして僕に話しかけて来たのは本当にその人だったのだろうかとすら考えてしまう。
「――な、何者だったんだ?」
「フフ、ロト坊、応援だってヨ」
「なにをさ。それにしても転機って…」
「人生を変えるって言うくらいだから、ひょっとしたら探偵を止める事になるかもしれないヨ?」
「まさかぁ」
僕は気を取り直して林に入っていった。
********************
特に迷う事もなく、帰り道を見失うこともなく進んで10分ほどたった頃だろうか。
「なげえヨ」
「確かに、それにちょっと肌寒いな」
まだそう寒い時期ではないのだが、日が沈むにつれ、そこそこ気温が下がるらしい。
僕は軽くコートを整えてみる。
ところで、先ほどからガサガサと音がし、所々から妙な気配がする。
僕は右肩の方にヒソヒソと話しかけた。
「キリュウ」
「ああ、さっきからいる。赤い目だヨ」
猫の目は暗闇に強い、彼がこの状況で赤い目と伝えてくるなら、夜は鎮まりかえってくれる魔物ではなく、夜行性の魔物の可能性が高い。
もしくは夜目を利かせる魔法かなにかを使っている人間だが、感じる気配とキリュウの素振りから魔物っぽい印象を感じた。
「やっぱり魔物なのか…ここはまだ街の中のはずなんだけどな」
騎士が調査を済ませているという情報がいよいよ怪しくなってきた。
外部の人間の僕が一度入っただけでも分かるんだ。
いつ騒ぎになってもおかしくないだろう。
「で、どうするんだヨ」
「幸い僕らが見つかってるわけではないみたいだし、このまま慎重に進もう。無駄な戦闘は避けるべきだ。」
赤い目…クモ型の魔物とかだと厄介極まりない。
帰りなら調べてもいいけど、目的地はまだこの先だ。
「帰りもめんどくさそうだヨ」
その通り帰りは帰りで面倒なのだが…
さっきの人物の話を思い出す。用心しろとは言われたものの、転機という言葉はあまりこの状況には合わない気がする。
コソコソと進み続けて行くと、やっと目的地に見えてきた。
日は完全に落ちきり、街中とは違い街灯の光もない。
肝心の屋敷の第一印象は…
「でかっ」
「なんでこんな立派なもん放置されてんだヨ」
数えるのに時間がかかる窓の数、屋根の装飾や、玄関の扉の豪華さ。
色あせた壁や、ヒビの数々からだいぶ経年劣化が進んでいるみたいだけど、全盛期であればきっとこの玄関だけでもお腹いっぱいに堪能できそうだった。
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