第23話 本気出す

 俺の名はマイト。現在の本名は柴昌香。


 俺はこれからアインと一世一代の大勝負に打って出ようとしていた。


 なんで急に地の文が一人称になったのかだって? ※で場面転換するまでの間だ。我慢しろコノヤロー。


「アレ? 二人でお出掛けですか?」


 俺たち機体をイジ繰り回していたバーサーカーメカニックのハルが声を掛けてきた。なんでアバターもリアルみたいな巨乳にしなかったんだよ。なんでメダなんたらットみたいな外見なんだよ。


「おう、ちょっとオークションで土地買ってくる。まぁ季節的にも絶対後悔させねぇからよ」


 アインの言う通り、このAGFっつーゲームは土地を部隊戦とやらで広げる以外に、直接金で買う方法もあるらしい。


 そう。俺のスキルを報酬金倍にしたのも、いままで真面目に戦闘に参加してたのも、騙くらかして他所の部隊の金全部巻き上げたのも、全てはこのときのためだ。


 おまけに、こういうとき絶対に止めてくる口煩ぇアメリは新装備の特訓だとかでいまはいやがらねぇ。やったぜ。


「それはいいですけど、たしかちょっと前のアップデートで土地に関することがあったような……」


 逆疑似太陽炉がなんか喋っているが気にしない。


 俺たちはオークション会場という名の戦場へ足を運んだ。


                   ※


 オークションと言っても、いつぞやのような非合法バトルのようなものではなく、ちゃんと運営が取り仕切る正規のものである。


 プライバシー保護、それと上位部隊が幅を利かせないようにするために、司会、それと同じ部隊のメンバーを除いて他のプレイヤーはシルエットしか見えない。ついでに声もヘリウムガスを吸ったような加工された音声になる。


「はい、それでは茶畑は三千万で買い取りとなりました」


 いまのところオークションはそこまで加熱してはいない。


 全員わかっているのだ、八月になろうとしているこの時期なら、『アレ』が来るということを。


「それでは今回の目玉! 南国リゾートビーチです!」


 オークション参加者が一斉にざわついた。


 球体型のモニターにでかでかとその外観が映される。


「青く広い海と澄んだ空、白い砂浜、ヤシの木の林もおつけします! 今年の夏は、我が家でリゾート気分を味わいましょう! まずは五千万から!」

「五千五百!」

「六千万!」

「七千万!」


 アインとマイトは互いに顔を見合わせて、悪巧みをする子供のような顔をした。


 このときのためにプレハブ小屋生活に身を置いて金を溜めていたのだ。


 チマチマしたことをせずに一気に突き放す。


「二億だ!」


 マイトの提示した金額に場がどよめく。


「一気に高額がつきました! 二億! これ以上の額を出される方はいらっしゃいませんか!?」


 会場に沈黙が流れる。


 二人とも確信した。勝った、と。


 が――。


「三億」


 対抗してくる者たちが一組だけいた。


「なっ……!?」

「チッ! 三億五千万!」

「四億」

「四億三千万!」

「四億七千万」

「チクショォ! 六億!」

「七億!」


 しかしここでけたたましい警告音が鳴り響いた。


「えー規定により、五億を超え、なおかつそれ以上の額が払えるとなった場合、後日部隊戦を行って勝利した部隊に買い取りの権利が与えられます。なお部隊戦の詳細は両部隊で話し合いの上、決定してください」


 この司会の言葉で全員色めき立った。


 直後アインたち二人と競り合っていた相手のシルエットが外れる。


「お、女……!?」

「いや、一応俺も女なんだけど」


 アインの言う通り、その正体は大人の美女三人だった。


「闘っていただくのは、『リバイバーズ』と『刃の心』です!」


                  ※


 数日後、件のビーチに六人の姿があった。


 三つはこれから闘う美女三人組。


 対するはアインとマイト、それにローグを加えた三人である。


 ちなみに他のメンバーはというと――


「ビーチを買うために五億? そんな直接湘南なり沖縄なりハワイなりに行けば済むものを、部隊のお金大半を使ってまで買うための勝負に助力することは出来ません!」


アメリには当然の如く断られ、ハルも彼女の剣幕に気圧されて不参加。


 ついでにアインは弟にも声を掛けたが、「受験生の夏休みバカにしてんのか?」と至極真っ当な断られ方をした。


 渋々ながら了承したのはローグのみ。


 一人忘れてる? 気のせいだろう。多分。


「確認させてもらうぜ。勝負は三対三。相手部隊の誰かとすぐにかち合う距離ってこと以外、全員スタート地点はランダム。一人でも最後まで生き残っていた部隊の勝ち。これでいいんだな?」

「ええ、構わないわ」


 三人のリーダー格と思しき女が頷く。


「オイオイいいのかよ? こちとらテメーらの部隊全員で掛かってきてもいいんだぜ?」

「ハッ、有象無象を捻ったぐらいで調子乗んなや」


 マイトのいつもの煽りに関西弁の女が喰いついた。


「よしなさい日輪ひのわ。私たちの実力を見せれば済む話よ」

「す、すんまへんなぎ様」

「ヒュー。お姉ちゃんカッコイイー」


 美女三人のやり取りをローグはジッと見ていた。だが別に好みの相手だったとかそういうのではない。


 気にしていたのは彼女たちのコスチューム。アメリのように露出が少ない代わりにボディライン丸見えなのだが、あっちがパイロットスーツ風なのに対して、こちらは全身タイツ風。


(ビジュアルがほぼ『あの忍者』だが、規制に引っ掛からないのか?)


                  ※


BATTLE START!


「……で、俺は林の中か」


 アインがいるのは全長二十メートルのリクテンマオーがすっぽり隠れるヤシの木々の中。


「さて、じゃひとまずここら一帯を綺麗さっぱり……ん?」


 いきなり「魔の獄炎」で焼き払おうとした瞬間、ベキベキという木の切り倒される音が聞こえた。


「おうおう、ホンマすぐ見つかったわ」


 身の丈ほどもある大斧を地面に立てる、リクテンマオーとほとんど変わらないサイズの幻装少女。


 ぱっと見は人間だが、手足に黒い体毛をリストバンドやブーツみたいに纏っているところや胸部装甲のデザインからおそらくゴリラだろう。


「さっきの関西女か」

「日輪、幻装少女半蔵。行くで!」


 下段で斧を構え、正面から走ってきた。


「鈍足パワータイプの脳筋戦法か。俺と同じじゃねぇか!」


 アインは嬉々とした表情でビームを纏ったムラマサリバー長谷部を振り下ろした。


 斧で受け止めるより先に相手の幻装少女半蔵の片腕を両断する。


「ッの……!」

「さっき調子乗んなって言ってたな。俺たちだって伊達に曹魏や金ぴか龍を倒してきたわけじゃねぇんだよ」

「さっきのはアンタらが弱い言うとったんやない。ウチらが強いっちゅう意味や!」


 すると半透明になっていた半蔵の腕がみるみるうちに実体を取り戻していった。


「ウチのスキルは『再生』! どんだけダメージを受けてもソッコーで回復するで!」

「え、それズルくね?」


                   ※


 一方のローグ。彼は薄暗い洞窟にいた。


「お前が俺の相手というわけか」

胡桃くるみだよ! 幻装少女の名前は佐助。よろしくね!」


 そう言う彼女の幻装少女は五、六メートルほどのリス型獣人系。武器は小太刀の二刀流である。


「からのサヨナラドロン!」


 しかしその直後、一瞬にして消えてしまう。


「一旦引いて仲間と合流する気か? なら俺も……」


 だが洞窟から出ようとした瞬間、ロビンフッドのアキレス腱から爆発が起きた。


「……!?」

「ざ~んねん。あの二人はなんとかなるだろうから、私は君を倒しちゃうよ!」


 再び幻装少女佐助がなにもないところから現れた。


「……スキルか」

「その通り! 部隊名でわかると思うけど私たちの部隊って『くノ一』がテーマなんだよね。んで私のスキルが影から影へ自由自在に動き回れる『影移動』なのだー!」

「確信犯だろ。だが仕方ない。ならこの洞窟を破壊して、お前諸共生き埋めになるだけだ」

「うわわわわ! それは止めときなって!」


 胡桃は大慌てで首を振り、手で制した。


(あの動揺が本物なら影の中を移動できるというのは嘘か。影の中に潜れば被害を免れるはずだからな。問題はどうやって奴のスキルの正体を見破り、倒すかだ)


                  ※


 残るマイトは砂浜で黒い幻装少女と相対していた。


 と言ってもリクテンマオーのような重々しさではなく、レオタードのようにスラリとした身体を覆う薄い装甲。頭部にはネコ科の耳もついている。


 持っている武器はMUSASHIマークⅡのソレより少し短い日本刀。


「クロネコか、豹か。ま、どっちでもいっか。斬ることに変わりはねぇ」


 マイトはビームサーベルの切っ先を相手に向けた。


「凪、風魔! 参る!」


 先に動いたのは黒豹。撹乱するように右に左に動きながら迫ってくる。


(それなりに速ぇが、ま、余裕だな)

「参らせねぇよ!」


 マイトはビームの刃を伸ばした。


 動きを予測して伸ばしたソレが確実に相手の鳩尾を貫く――


「うおっ……!?」


はずが、次の瞬間にはMUSASHIの背後に移動し、ビームサーベルを持っている腕を斬られていた。


「剣の達人同士の闘いで、動きがスローモーションに見えるという話があるでしょう? 私のスキルは五秒間だけそれを可能にする『超感覚』。貴方に私を斬ることは出来ないわ」


 風魔が日本刀を逆手に構えた。


「悪いけど、すぐにあの子たちのところに行かせてもらうわよ」


 だがマイトは、片腕を落とされていながらもヘラリと笑っている。


「そいつは無理だ。なんせこっからは、俺も本気出すからな」

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