第22話 両方やればいい
「期間限定ミッション、お疲れさまでした!」
五人は基地のプレハブ小屋に集まっていた。
「おう、後半は死ぬかと思ったぜ」
開催時期が七月ということで、真部流高校は期末テストに入っていたのだった。
そして実はというか予想通りというか、赤点の危険があったアインだったのだが、まさかのAGFで勉強会を行っていたのだ。
結果、アメリがほぼ全般、ハルが理数系、そしてマイトは自分が作ったテスト問題の答えを教えた(良い子、じゃなくて良い先生はマネしないでください)おかげで、ひとまず赤点は回避できたのだった。
「ここなら移動の必要もありませんし、なにより“飴”もありましたから」
彼らは勉強の合間に、例の金色の龍――後に運営から『皇龍』という名前が公表されたのだが、それの討伐を繰り返していた。
もっとも、特攻武器であるムラマサリバーを当てれば、あのバリアすら破って即死したため一回五分と掛からなかったのだが。
「そんなことより……」
「おい、いま教師が期末試験をそんなこと呼ばわりしたぞ」
ローグの言及も無視してマイトは話を続けた。
「俺らの機体を大改造しても余ったあの装備の素材だけどよ、武器にして他所の部隊に高値で売りさばかねぇか?」
「それはダメです」
アメリが即座に、キッパリと否定した。
「あの武器は小規模部隊である私たちの数少ない優位性なんです。それを失うわけにはいきません」
「別に俺らの武器と同じ性能のモンじゃなくても、劣化品売りつけてやりゃいいじゃねぇか」
「そ、それは……出来ないというか、やりたくないと言いますか……」
おっかなびっくりではあるが、この提案を拒否するハル。彼女にも彼女なりの、メカニックのプライドのようなものがあるのだろう。
「なんだよメンドクセーなぁ。あんなもん残してたってボックスの邪魔だろうが」
「そんなことはありません。いずれ部隊の人員が増えたときに支給できるように……」
「まぁまぁ、落ち着けよ二人とも」
議論が過熱し始めたところでアインが割って入った。
「要するに、アメリはこの部隊のアドと将来が大事。マイトは金が欲しい。だろ?」
「まぁ、そうですが……」
「なら簡単だ。両方やればいい」
「……ま、それもそうだな。で? 具体的にはどうすんだよ?」
「それは……アメリ、なんか良い知恵ない?」
今度は試験とは別の方向で頭を悩ませなければならなくなった、指揮官なのだった。
※
「おーおー、かなり集まってきてるな」
数日後、リバイバーズは掲示板で少し特殊な部隊戦の挑戦を受け付けていた。
まず挑戦する部隊はいくらかの金をエントリー料金として出す。
そしてリバイバーズに敗北すればその金は戻らないが、勝てば払い戻しに加え、『皇龍』一戦分の勝利報酬を贈呈するというもの。
「私たちの皇龍との戦闘映像もいくつか添付していたので、信憑性もそれなりに得ることが出来ました。それにこれなら他に報酬を得ているであろう『ユニバース』や『ラウンズ』から狙われることはないでしょう」
「だが良かったのか? 数の不利が過ぎる気がするが」
もう一つの条件は、この部隊戦が一回のみということ。
つまりリバイバーズは、一度に大量の部隊と闘うことになるのだ。
「いいだろ別に。どうせ負けてもプラマイゼロなんだからよ。まぁ負けねぇけど」
「それに新機体の初お披露目なんだ。派手な方が良いだろ」
「だ、大丈夫でしょうか……? もし、私の生産や改造に不備があったら……」
「それは言いっこなしですよ。……さぁ、そろそろ時間です」
実はここまでの会話、全て格納庫での音声通信である。
そしてまもなく、その部隊戦開始の時間となる。
「よーし、新生リバイバーズ……って言うにはまだ早いか。とにかく、AGFの闘いを変えるっつー力、見せつけてやろうぜ!」
五人のモニターに『エリア移動します』という文章が表示された。
※
かなり広範囲に広がる荒野。それが今回のフィールドとなっている。
リバイバーズに挑むプレイヤーの一人が、同じ部隊の仲間に話し掛けていた。
「なぁ、やっぱり話が上手過ぎないか? たった五人の部隊をこんな何百人も集まって、倒せた部隊に『皇龍』の報酬をくれるって」
「いまさらそれ言うかよ。まぁ嘘でもいいさ。料金もそんなに高くなかったし、報酬出さないなら運営にチクればいいし」
しかし彼は不安そうに周囲を見渡す。
「まぁそれもそうだけど……。でも変じゃないか? もう戦闘は始まってるのに、いくらフィールドが広めだからって、まだ一機も敵が見えないって。……おい、なんか答えろよ」
視線を戻すと、さっきまで話していた相手の幻装少女が倒れていた。
それどころか周りにいた味方まで全員倒れている。
彼ら彼女らの足元にはビー玉のようなものが転がっていた。
「……え? ……アレ?」
そしてこの男も、三秒後には同じ末路を辿ったのだった。
※
「銃の方が速度、威力、射程距離、携行性で優れていたから使っていたが、その問題さえ解消すればやはり弓の方が扱いやすいな。特に音が出ないのが良い」
数キロ先にいた集団を一通り倒すと、ローグは『ロビン』改め『ロビンフッド』が持つ弓に視線を移した。
弓自体は普通ないし少々大きめのものなのだが、肝心なのは『矢』――というより『弾』の方である。
八メートルしかないロビンフッドが指で挟める程小さい球体なのだが、それにはこれまた小さい穴が開いており、そこから矢状のビームが形成される。
当然普通の矢や弾丸よりも威力も貫通性も段違いとなっている。
「試し撃ちは充分だ。そろそろアメリの作戦を遂行するぞ」
「うるせぇ。お守りしてやんねぇぞ」
ローグが背後を取られないように、マイトが護衛についていた。
そして案の定、新しいターゲットに狙いを定めるローグとは正反対の位置から、幻装少女が集団で迫ってきていた。
「騙された恨み晴らしてやるぜローグゥ!」
「……懲りない連中だ。そもそもあの騙し討ちを提案したのは俺じゃない」
「へっ、そうやって斜に構えるからあちこちに敵作るんだよ」
「とりあえずくたばれマイトォ!」
「……は?」
どうやらローグとマイトに恨みを持つ連中が集まったようだ。
「しょうがねぇな。正直勝ち負けなんざどうでもいいが、金はびた一文返してやる気はねぇんだ。大人しく斬られてくれや」
そう言うとマイトは新機体『MUSASHIマークⅡ』の持つ日本刀とビームサーベルを構えた。
「ビームサーベルだと!?」
「やっぱ武蔵といえば二刀流だろ」
「だがこの距離じゃどのみち届くはずが……」
しかし次の瞬間、ビームの刃が彼らのいる場所まで伸びてきて一人が貫かれた。
さらにそのまま鞭のように横にしなり、あっという間に全員が両断される。
「楽だな、コレ。装甲だけ壊せねぇのはオッパイメカニックに注文つけとかなきゃいけねぇけど」
※
「クソッ! アレにエネルギー切れの概念はねぇのかよ!?」
また別の集団の一人が、サブマシンガンを連射しながら叫んでいた。
何十機もの銃弾を受けながら平然としているその巨体は、アルフレッドの改良機『アルフレッド・ノーベル』。
両肩にアンテナのような装備が追加され、そこから皇龍と同様のバリアを発生させているのだ。
「い、行きます!」
アルフレッド・ノーベルはバリアを発生させたまま突進し、逃げ遅れた幻装少女数機を踏み潰していった。
「チクショウ! 退け、退けぇ!」
「申し訳ありませんが、そこから先は立ち入り禁止です」
一目散に逃げようとする幻装少女たちの前に、細いビームが柵のように立ちはだかった。
そして少し遅れて現れた幻装少女に、彼らは言葉を失った。
それはアメリの新たな幻装少女『ジャンヌ・ダルク』。
新たに目を引くのは、鳥類獣人系の幻装少女にのみ可能だった飛行能力を可能にする、高機動型より生物的な見た目をした白い翼型の換装武器。
その神々しさから、天使のようにも見える。
しかしその見た目に反して、冠された名は『空域殲滅型』。
「敵性集団半数をロックオン。フェザービット、一斉掃射!」
宙を舞う羽根の先からビームが発射され、さらに自身も追加された二挺のビームライフルで敵を次々と屠っていく。
残ったプレイヤーたちは無数のビーム攻撃とバリアを纏った突進から必死になって逃げた。それが誘導であるとも気づかずに。
ある程度敵を追ったところでアメリはライフルを降ろして羽根を収納し、息をついた。
「流石に、これだけのビットを正確に操作するのにはまだまだ訓練が必要ですね」
「でも、大丈夫でしょうか? ローグさんたちも作戦通りに動いてたら、アインさんは……」
「ええ、でもあの人のことですから、きっとなんとかしてしまうと思いますよ」
「……そうでしたね。いまも昔も」
※
「オラァッ!!」
アインは背後も左右も崖がそびえ立つ袋小路で大量の敵を相手取っていた。
しかし苦戦する様子はなく、新たな愛機でバッタバッタと敵を倒していく。
その名も『リクテンマオー』。
以前よりも鎧が派手になり、胴体部分は鬼の顔のような意匠がこらされている。
「やっぱ剣は叩き潰すよりぶった斬るだよなぁ! 『難華凄威剣ムラマサリバー長谷部』の切れ味、とくと味わいやがれ!」
ムラマサリバーは改造によって刃の縁にビームを纏っていた。それで疑似的に切れ味を得ているのだ。
一点だけ問題が生まれたが。
「元からダサかった名前が輪をかけてダサくなってんじゃねぇか! なんだよ『長谷部』って!?」
「それは、今日帰りに寄ったコンビニの店員が長谷部さんだったからだ!」
そのままアインは剣にワイヤーを巻きつけて投げようとしたが、
「あ」
いかんせん場所が狭かったせいで横の壁に突き刺さってしまった。
「いまだ! やれぇ!」
誰かが叫んで一斉に襲い掛かってくるが、アインは余裕の笑みを崩さない。
「悪いがお前らはとっくに追い詰められてんだよ。『コイツ』から逃げられないようにするためになぁ!」
アインはリクテンマオーの上体を軽く反らせた。
すると胴体の鬼の口がガバリと開く。
ついでにオッパイも丸見えになる。
「ブレスト……はマズいか。ユニ……はもっとダメだな。ファイヤー、炎……よし、『魔の獄炎』!!」
鬼の口から皇龍にも引けを取らない強力なビームが発射され、逃げ場のない幻装少女たちは跡形もなく撃破された。
「これで、多分全滅だな」
「そりゃいいが、お前『獄』って漢字で書けんの?」
マイトが音声通信を送ってきた。
「えーっと……『極』?」
「せめて自分の技名ぐらいちゃんと書けるようにしておいてください」
アメリからもため息交じりの音声が送られてくる。
「あ、それとハル。ちょっと頼みがあるんだけどよ」
「な、なんですかアインさん?」
「おニューの必殺技もデザインも文句なしなんだが、撃つ度に胸が丸出しになる仕様はなんとかならねぇ? あのゲームに参戦したとき俺らのせいでレーベル一つか二つ上がるだろ。リンゴの規制にも引っ掛かりそうだし」
「あっ、ごめんなさい! 失念してました!」
「心配の方向性がズレてます!」
なにはともあれこの一戦で『リバイバーズ』の存在はAGFに広く知れ渡った。
そして上位部隊からも一目置かれることとなる。
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