第24話 いつでも相手になってやる

 アインの操るリクテンマオーと、日輪ひのわが操る半蔵は激しい攻防を繰り返していた。


「オラァッ!」


 リクテンマオーが勢い良く大剣を振り下ろす。


 しかし半蔵は斧ではなく素手、それも片手で受け止めた。あらゆるものを斬り、貫くビームを纏った刃を。


「その腕ムラマサリバーで出来てんのか!?」

「んなわけあるかい! 斬られた先からゴリゴリ再生しとるだけや!」


 ゴリラだけに? などと思った読者はどこかから斧が飛んでくるかもしれないので注意しよう。


「それよか、脇がガラ空きやで!」


 大斧が円を描くように迫ってくる。


「おっと!」


 リクテンマオーももう片方の手で斧を振る腕を掴んで攻撃を止めた。


 だが止まったのは一瞬だけ。徐々に斧が押し込まれていく。


「パワー負けしてんのか、俺の機体が!?」

「人間の身体にはリミッターがあるやろ。『痛覚』っちゅうリミッターが。幻装少女も同じや。限界以上に動いて勝手に壊れんように普通はセーブされとる」


 とうとう斧がリクテンマオーの鎧に喰い込んだ。


「けどウチの半蔵には関係あらへん。どんだけ限界超えようが、すぐ直してまうんやからな!」

「なるほど、リミッターを解除してるってわけか。カッチョイイな、そういうの」

「なに呑気なこと言うとるんや! このままいけば胴体と下半身がおさらばしてまうで!?」


 実際斧はもう人間でいうところのヘソ近くまで深々と入っている。


「いいや。どうやらこれ以上は無理みたいだ」


 アインの言う通り、そこで斧の動きが止まった。


「!?」


 日輪は斧を引き抜こうとしたが、リクテンマオーの腕が放さない。


「忍者なら、潜入でもして俺らのスキルを事前に調べとくべきだったな!」


 鎧の胸にある鬼の口が開く。


「アカン……ッ!」

「再生のしようがねぇぐらい跡形もなく消し飛ばしてやらぁ! 魔の獄炎!!」


 スキルでパワーが増し、なおかつゼロ距離からのビーム砲。


「すんまへん、凪様……!」


 自らの隊長への謝罪の言葉を残し、機体は破片一つ残さずに消えた。


「さて、と……」


 アインはローグとマイトに音声通信を送った。


「もしもし、こちらアイン。こっちはケリがついた。どっちか救援いるか?」


 二人を心配してのことだったのだが……


「止めておけ。おそらくこの敵とお前の相性は悪い」

「うるせぇ! 気が散るから話し掛けてくんじゃねぇ!」


一方的に通信を切られた。


「俺、一応隊長なんだけどな……」


                   ※


 音声通信を切った直後のローグ。


 最初の一撃以降も何度か関節周りを爆破されていたが、まだ動けなくなるほどのダメージではない。


「……とはいえ、そろそろ仕掛けるか」


 ローグはスキルでロビンフッドの手のひらに収まる程度の球を作り出し、それを放り上げた。


「げっ!? まさか爆弾!?」

「ハズレだ」


 洞窟の天井で球は破裂し、周囲が一気に昼間のように明るくなった。


「照明弾だ。本当に影を移動できるというのならこれで炙り出せるが……そこか」


 すかさず虚空へ向けて矢を放つ。


「うえぇ!? なんで見えるの!?」

「早く『元に戻らないと』避け切れないぞ?」


 次の瞬間、突然なにもないところから幻装少女佐助が現れた。


 しかし矢はリス特有の大きな尻尾を掠めていく。


「お前は影を移動なんて超能力じみたことをやっていたんじゃない。スキルを使って蟻同然のサイズまで一瞬で小さくなっていただけだ。そして俺の機体にくっついて爆弾を仕掛けた」

「そ、それがどうしたっていうのさ!? 見えなきゃ意味なんてないんだからね!」


 事実照明弾の効果は切れ、辺りはまた暗くなっていた。


「いいや、手品のタネさえわかれば、あとはどうということはない」


 だがそう言って数秒間、ロビンフッドは動きを止めている。


(ヘヘーン、ハッタリみたいだね。それならこのままジワジワと……)


 しかし佐助が近づこうとした瞬間、周囲から火の手が上がった。


「え? えぇっ!?」

「少々強烈な爆竹だ。それを俺の周囲に仕掛け、動くものに対して作動するようにした。俺から見ればたいしたことはないが、蟻から見た至近距離の爆竹っていうのはどういうものなんだ?」

「こ、こんなので、私を元のサイズに戻させようとしたって無駄なんだから!」


 しかしローグは静かに弓を構えた。


「言ったはずだ。『動きに反応する』と。その爆竹は、そのままお前の位置を示すマーカーだ」

「あっ……!」


 光の矢は正確に超小型の幻装少女を貫いた。


「うわ~ん! バカンス楽しみにしてたのに~!」


 自分しかいなくなった洞窟の中で、ローグはポツリと呟いた。


「リアルで行け」


                  ※


 自分以外のなにかに痴女幻装少女が反応しているのを見て、『刃の心』の隊長――凪は即座に距離を詰めた。


 遅れてマイトも残った片手で日本刀を構える。


(でも、『超感覚』の世界の中では私に追いつくことは出来ない!)


 凪は刀の間合いに入る直前で、再びスキルを使用した。


 だが彼女は見落としていた。MUSASHIマーク2の足の動きを。


(砂!?)


 スキルを使うのとほぼ同じタイミングで砂浜を蹴り上げ、視界を遮ったのだ。


(くっ……!)


 凪の幻装少女――風魔は咄嗟に跳び上がり、砂の目隠しを回避する。


 しかしその直後に待っていたのは、迫ってくる刀だった。


(この体勢じゃ、カウンターは狙えない……!)


 無理矢理身体を捻り、攻撃を掠めたところで時間切れとなった。


 動くものすべてが通常のスピードに戻る。


 同時に、レオタード状の装甲が破れ、豊満な胸が外気にさらされた。


「やっぱ、引っ剥がすなら刀の方が便利だな」

「……最低の趣味ね」

「欲望に忠実なだけだ」


 開いた胸元を隠そうともせず、刀を構える風魔。


 それは本気の表れでもあった。


(私が砂を避けようと上か左右に移動すると踏んで三分の一の確率を当てたということね。運の良い男。でも次はそうはいかない。正面から突く!)


 三度走り出す風魔。


 今度はMUSASHIの全身に気を配るが、また目隠しを仕掛けてくる気配はない。


(獲った!)


 またもスキルを発動する。


 だが次の瞬間、信じられないことが起こった。


 波も木々も、なにもかもスローモーションで動く中、MUSASHIマーク2だけは通常となんら変わらない動きをしている。


(そんな……!?)

「スキルなんざなくても、スローな世界ぐらい入れんだよ」


 スキルの効果が切れた直後、辺りは波の音しか聞こえないほどの静寂に包まれた。


「……私も、まだまだ鍛錬が必要みたいね」


 次の瞬間、黒豹の装甲はズタズタに切り裂かれ、地に倒れた。


「いつでも相手になってやる、とか言わねぇぞ。面倒だから」


BATTLE FINISH!


                   ※


 再び砂浜に集まった六人の男女。


「完敗ね。流石は、『曹魏』以上に注目されている若手部隊なだけはあったわ」

「なに、俺らも久々に良いタイマン張らせてもらったよ」


 それぞれの隊長が固く握手を交わす。


「だからってわけじゃないが、このビーチ、お前らにも週一ぐらいで貸すよ」

「ええんか!?」


 三人共この提案には驚いていた。


「七億も金を用意してたんだろ? そんだけ溜める苦労は理解してるつもりだ。それを棒に振らせるのは忍びねぇと思ってな。シノビだけに」

「……しゃあねぇな。レンタル料はそれなりにいただくぜ」


 最後のダジャレは外したが、マイトもため息交じりに同意した。


「好きにしろ」


 ローグは言わずもがな。


「やったね、お姉ちゃん!」

「……えぇ、なら、お言葉に甘えさせてもらおうかしら。それと、この恩は必ず返すわよ」


 ここに、『リバイバーズ』と『刃の心』の協力関係が築かれた。


「よし、じゃあ今日はひとまず帰るか。鬼指揮官への言い訳を考えながらな」


 アインはマイトと肩を組んで踵を返す。


((……やったぜ))


 それを見送る三人からは見えないが、肩を組む二人は悪い笑みを浮かべていた。


 実は今回不在だったウィンター――斎藤兵司に事前に調べさせ、『刃の心』のメンバーがゲームでもリアルでも女性のみで構成された部隊であることを聞いていたのだ。


 つまりビーチを貸すというのも、水着美女とひと夏の思い出を作ろうという下心からだったのである。


                   ※


 数日後、『刃の心』にビーチを貸す日、アインとマイトの眼に入った光景は予想外なものだった。


「遅いっ! 常に全神経を集中させなさい! 一瞬の油断が死に繋がるわよ!」

「どないしたぁ!? もっと本気で打ち込んでこんかい!」


 数名の幻装少女に指導される、数十機の幻装少女。


 そしてあちこちから聞こえてくる、爆発音、剣戟、銃声。


 ほとんど軍隊の演習のソレだった。


「「……なんか、思ってたのと違う……」」

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