第20話 昔倒した魔王より強い

 『o7214545(仮)』改め『リバイバーズ』がやって来たのは地下鉱脈のようなフィールドだった。


 天上は暗く、周りを天然の高台に囲まれ、迷路のように入り組んだ道と化している。


「これなら近接戦闘型の方が良かったかもしれません」


 開口一番にアメリがため息交じりにぼやいた。


 今回のジャンヌは遠距離砲撃型になっている。


「いまの内に変えておきますか?」


 アルフレッドに追加されたコンテナにはジャンヌの他の装備が入っていて、戦闘中に換装が出来るようになっている。


「いえ、まだエネミーがどんなタイプか不明ですから、このままで」

「つーかよ、これ探すだけで疲れそうなんだけど。メンドクセー」

「いや待て。……なにか来る」


 ロビン――ローグは上空を見据えていた。


 他の四人も暗い天を見上げる。


 その直後、なにかが金色に光った――金色のなにかが高速で飛来してくる。


「ど、ドラゴン……!?」


 地鳴りを立てて着地したのは、金色の鱗を纏った四足歩行の巨大なドラゴン。


ゴアアアアアアアアアアアアアアッ!!


 その咆哮はそれだけでダメージを受けそうなほどの大音量で、彼らを戦慄させた。


 たった一人を除いて。


「金ぴかのドラゴンか。倒しがいがありそうだ。昔はこういうのと闘わなかったからな!」


 単身ドラゴンに突っ込んでいくリクテンオー。


「アインさん!」

「そもそもあんな遅ぇとなに一つカッコつかねぇよ」


 しかし金色の龍は黒い幻装少女を敵と見定めたのか、大きく口を開いた。


 そして次の瞬間、その中が光り――


「!?」


ドラゴンの口から放たれた青白い光線に、リクテンオーが飲み込まれた。


「アインさんっ!!」


 咄嗟に助けようとするハルをアメリが制止する。


「待ってください! ハルさんまで巻き込まれてしまいます!」

「でも……っ!」

「あぁ~ビックリした」


 しかし光線が収まると、特にダメージを受けた様子もないリクテンオーがそこにはいた。


「アレ喰らって生きてんのかよ。主人公補正か?」

「背中向けてムラマサリバーでガードしたんだよ。だがクソッ、問題が発生した」

「まさか、いまので操作系統に不具合が……!?」

「マントが焦げた」


 よく見ると赤いマントの先が黒く焦げている。


「こんなときに服装に気を遣ってる場合ですか! もう……! ローグさんとハルさんは、私と一緒に砲撃を! ただしあの光線、ビームが来ると感じた瞬間には即回避行動を! マイトさんは高台に登って、背中か背後から攻撃してください!」

「了解」

「はいっ!」

「おう」


 アメリは早口で指示を飛ばし、自身も攻撃を開始した。


「あぶなっ!?」


 射線上にいたリクテンオーは慌てて隅の方に逃げたが。


 弾丸の雨が金色の龍に降り注ぐが、怯むどころか微動だにしない。


「いくらなんでも、ここまでダメージが通らないはずは……」

「おい、なんか妙だぞ」


 高台から隙を伺っていたマイトから音声通信が送られてきた。


「さっきから弾があのデカブツの手前で止められてやがる」

「手前で……!?」


 そこでアメリは最悪の想定をした。


「ローグさん、スキルでペイント弾は作れますか!?」

「ああ」


 ローグが作り出したのは八メートルの幻装少女が両手でやっと持てるサイズのピンク色のボール。


 だがドラゴンは攻撃がやんだと判断したのか、アメリたちに向けて突進してきた。


「こ、こっちに来ますよ!」

「好都合だ。距離的に届かせられそうになかったからな」


 ボールをドラゴンより少し上へ投げると、ちょうど頭上に来たところでローグはそれを銃で撃った。


 するとピンクの液体が飛び散ったが、ドラゴン自身には一滴も付着しなかった。


 ドラゴンを囲むようにペイントが伝ったのだ。


 そのおかげで視界を遮られたドラゴンの突進を三機は躱すことが出来たのだが。


「やはり、あのドラゴンにはバリアが張られています!」

「バリア!? 古典的なファンタジーモンスターのくせに、やることが幻装少女よりハイテクじゃねぇか!」

「それでどうする? あのドラゴンを倒す算段はあるのか?」

「……現状、あのバリアを突破する手段はわかりません。ここは身を隠して、弱点を探りましょう……!」


 ペイントが流れ落ち、ドラゴンの視界が晴れた頃には、五機の幻装少女の姿はなかった。


                   ※


 五人はドラゴンが入ってこれそうにない高台の隙間に隠れていた。アルフレッドだけはキャタピラを捨ててなおギチギチになっているが。


「よし、リタイアするか!」


 前向きに後ろ向きな発言をするマイト。


「まだ諦めるには早すぎます。やれることは全部やって、その上で諦めてください」

「だってアレ絶対昔倒した魔王より強ぇだろ」

「お前はそもそも魔王と闘っていないだろ」

「あ、そうだ。お前ら“アレ”覚えてるか? あのメチャクチャでけぇ巨人倒したときのやつ」


 アインの話しているのが前世の旅で倒した巨人だということはすぐにわかった。


「“アレ”か。たしかに俺のスキルで代替は出来る。だが上手くいくのか? バリアがあるんだぞ?」

「いえ、悪くないかもしれません。もしもあのドラゴンのバリアが完全な球状ではなく半球状なら、あるいは……!」

「じゃ、じゃあ、“囮役”は誰が……?」

「こういうときは言い出しっぺがやるもんだろ!」


 そう言って言い出しっぺは拳を反対の手で包んだ。


                  ※


 細道を闊歩するドラゴンの視界に、黒い獲物が映った。


 それは当然リクテンオー。ただしなぜかうつ伏せで倒れている。


(よーし、来たか)


 アインは内心ほくそ笑んでいた。


 今回のドラゴン、そして前世で巨人を倒したという作戦はこう。


 まず一人が死んだふりをします。


 トドメを刺そうとした敵が近寄ってきます。


 その手前で事前に用意しておいた落とし穴に引っ掛かります。


 抜け出せなくなった敵をみんなで袋叩きにします。


 おしまい。


 ただし今回は前世の改良版である。


 上にはバリアが張られているので、狙うは下。


 ただの落とし穴ではなく、無数の針山が敷かれた串刺し落とし穴である。


(ローグが一晩どころか一瞬でやってくれました。スキルで。……まぁともかく、あのドラゴンの足が全部乗ったら作動するんだったな。残り何メートルだ?)


 バレないように少しだけリクテンオーの首を回して確認すると、金色のドラゴンは大口を開けていた。それもまだ距離があるにもかかわらず。


(あ、ヤベ)


 アインはすぐさま起き上がって逃げ出した。


 その直後、リクテンオーがいた場所にビームが直撃する。


「アイツビーム撃ってくるの忘れてたああああああ!!」

「いや一番忘れたらいけない問題じゃないですか!」


 思わず物陰に隠れていたアメリもツッコミを入れる。


 だがドラゴンはビームを照射しながら徐々に頭を上げていく。


 それに伴って少しずつビームがリクテンオーに迫ってきた。


 足の遅いリクテンオーでは確実に逃げ切れない。


「チクショオオオオオオォォォ!! あとで絶対装備キャストオフ出来るようにしてやるウウウウウウ!!」


 あと少しで青白い光に灼かれる。そう思ったとき――


「ええええいっ!」


ドラゴンの背後からアルフレッドが突進した。


 バリアでダメージこそ受けないものの、不意の攻撃にドラゴンの頭部はあらぬ方向を向き、高台の一つを破壊する。


「私だって……! 私だって……!!」


 しかしハルは攻撃をやめない。そのまま落とし穴が作動する場所まで押し出すつもりなのだろう。


 そしてついにドラゴンの足元にあった地面が消え、真っ逆さまに消えていった。


「よーし、おい株爆上げ狙撃手。この穴の中に生コンクリートぶち込んでくれや」

「お前本当に教師か?」

「だが、お手柄だなハル」

「えへへ……頑張ったかいが……」


 しかし次の瞬間、穴の中からドラゴンが出てきた。それも飛びながら。


「あ、そうだ。巨人じゃなくてドラゴンなんだから飛べるよな」

「それも忘れたらダメじゃないですか。……いえ、これは私も忘れてました。ごめんなさい」


 そのドラゴンの目線の先にあるのは、さっき自身を穴の中に突き落とした張本人。


 金色の龍の口が大きく開かれる。


「え……?」


 青白い光が、アルフレッドを包み込んだ。

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