第13話 間に合え
「もしや、後方にいる幻装少女が大将機であると考えているのでは? つまりあの機体が狙っているのは、ハルさんとローグさん」
「っ!」
アインはリクテンオーをすぐに起き上がらせ、元来た道へ引き返そうとした。
「待ってくださいアインさん! なにを……!?」
「二人を助けに行く」
一切の迷いもなく、ハッキリと告げた。
「ハルさんたちを大将機だと思っているのなら、私たちにとっては好機です! いまのうちに一気に攻め込むべきです!」
「じゃあ見捨てろって言うのか? それともアイツらにあのイヌを倒す見込みがあるのか?」
「それは……」
アメリも本音を言えば、違うルールなら先刻の
そしてロビンとアルフレッドに勝機があるかと問われれば、難しいと考えていた。
ローグのトラップであの幻装少女の動きを阻害することに成功し、ハルが暴走すればあるいは……という程度だ。
おそらくあのオオカミ幻装少女は『曹魏』のエース機。
あの機体と一対一で勝てるとしたらマイトぐらいだろう。
「俺が止めてればこうはならなかった。もうゴメンなんだよ、そういうのは……!」
(そういえば、以前ハルさんにも似たようなことを……)
彼の気持ちもわからないではなかった。しかし……。
「たしかに、ローグさんたちでは厳しいかもしれません。ですが、もしアインさんがあちらに行けば、たった二機で敵陣に攻撃を仕掛けなければいけなくなってしまいます。それはリスクが高すぎます」
敵はこれまで闘ってきたNPCやプレイヤーより格上。そんな相手に二対四で闘うというのは明らかに不利だ。
そんなことをして、もしアメリが倒されでもしたら元も子もない。
「っ……!!」
アインにも、それはわかっていた。
「……では、こうしましょう。アインさんは二人の元へ。そして、なんとか一人であの機体を押しとどめてください。そうすれば、当初の予定通りローグさんたちが私たちの援護に回れるので、数の不利も打ち消せます」
この指示がかなり無謀なものであることを、アメリは重々理解していた。
純粋な実力も、機体の相性も圧倒的に不利だからだ。
しかし当の本人はニッと笑った。
「……任せろ」
「……ただ、問題は足のおそ……機動性の低いリクテンオーが駆けつけるまで、二人が持ちこたえられるかどうか……」
「わざわざ言い直さなくていいっての。まぁそれについては考えがある。ちょっとうしろ向いてくれ」
「……?」
訝しみながらも自身の機体の背中を見せた。
「じゃあこれちょっと借りるわ」
そう言うとジャンヌの翼型のスラスターを外した。
「え!? ちょっ、あの……!」
「安心しろ。代わりにリクテンオーのマント貸してやるから」
「なんで等価値みたいに言ってるんですか!? 別にいりませんから!」
「そっか。じゃあこれどうやって動かすんだ?」
訊ねながらリクテンオーでスラスターをガチャガチャ動かしたり叩いたりしている。
「そんな古いテレビじゃないんですから……」
「クソッ、さっさと動けこのポンコツ!」
そう言って強めに叩いた瞬間、スラスターの先端から炎が噴き出した。
「おおおおおぉぉぉぉぉ……!」
リクテンオーはスラスターを抱えたまま、うしろ向きに吹き飛んでいった。
「……あれ? これって、私ちょっとマズいのでは……?」
※
「随分と、俺の仲間をイジメてくれたみたいだな」
そして現在。
(イジメてたつもりはないけどな。そうでもしなきゃロクにダメージも入らなかっただけで)
「だったらどうした? お前なんか無視してコイツをさっさと倒すだけだ」
「いいや。お前は俺を無視することはできねぇ」
そこで区切ってリクテンオー自身を指差した。
「なんせ、俺が大将機だからな!」
「え!?」と言いかけたのを、ハルは慌てて飲み込んだ。アイン自身を狙わせようとしていることを悟ったからだ。
「どうだろうな。お前が大将機だったとして、なんで他の仲間を助ける必要がある?」
「え? それは……その……なんだ。そうしたかったからだ!」
(その言い訳は流石にムチャですよ!)
「そっか。そうしたかったのなら仕方ないな」
(信じちゃうんですか!?)
アインのハッタリを信じたウルズは自身の幻装少女、夏候惇の姿勢を低くした。
「だったらお前を倒すだけだ!」
そしてまた目にも止まらない速度で迫る。そのスピードは高機動型ジャンヌの比ではない。
狙いはさっき通り抜ける時に攻撃した太もも。そこをさらに攻撃して脚を奪おうとしていた。
「おっと!」
しかしリクテンオーは持っていたジャンヌのスラスターを盾代わりにして防いだ。ダメージを受けていた脚を狙ってくることは読めていた。
爪は鈍い金属音を響かせてスラスターを貫いたが、そのまま抜けなくなる。
「ローグ! 俺ごとコイツをここから引き剥がせ!」
ここまで息を潜めていた専属傭兵は「了解」と短く答え、自らのスキルを使った。
リクテンオーと夏候惇の足元に四角いマットが現れ、次の瞬間には彼らがやって来た方向へとあっという間に滑っていった。
「あ、アインさん一人で大丈夫でしょうか……?」
「さあな。俺たちは俺たちに出来ることをするだけだ。……そういえば、あの男用の武器というのは、この状況を覆せるものなのか?」
「あっ、そうでした! アレを使えばなんとかなるかもしれません! こっちのコンテナは射出機能もあるから、ここからでも届けられます!」
しかし数秒後、ハルは泣きそうな声で助けを求めた。
「ご、ごめんなさいぃ……。さっきの攻撃でコンテナが歪んじゃって、展開が出来ません……」
「わかった。どの辺りを爆破すれば良い?」
※
「抱きしめたいな! とか言ってみたりしてな!」
リクテンオーは爪がスラスターに刺さったままの夏候惇の背に片腕を伸ばした。
「させるかよ!」
しかしスラスターに蹴りを入れて無理矢理爪を外し、振りほどかれてしまう。
うしろ向きに高速で移動するという無茶な姿勢を取っていたリクテンオーは、その衝撃でゴロゴロと転がったあと、ようやく体勢を立て直した。
「うわっ、とっ、たっ……。ベアハッグで決めてやろうと思ったのに。っていうか、お前片腕吹っ飛ぶダメージ受けてるのに最初より速くねぇか?」
「俺の『起死回生』は、そういうスキルだからな」
「……なるほど。俺の『逆境』のスピード版ってわけか」
これまでもスキルでリクテンオーの動きが俊敏になったように見えていたが、厳密にはそうではない。力技で早く動かしていただけだ。
「それで? 自分でスキルを明かしたってことは、それだけ勝つ自信があるってことか?」
(もうバレたと思って隠す理由がなくなっただけだよ)
「さあな。少なくとも、これ以上お前と無駄話をする気がないのは確かだ」
夏候惇は再び姿勢を低くし、超スピードでリクテンオーに迫った。
「読めてりゃどんだけ速くても関係ねぇ!」
アインはまたダメージを受けている脚を狙ってくると予想し、相手の幻装少女を地面に叩きつけようと腕を降ろした。
だが夏候惇はその腕を踏み台にし、リクテンオーの顎にサマーソルトキックを浴びせる。
「俺も読めてた」
「っの!」
これが人間同士の闘いならいまの攻撃でKOされていただろうが、あくまでも機械による闘い。
抑えようとした方とは逆の腕で捕まえようとするが、これは尻尾で叩き落とされた。
「お前も結構堅いな。うちのタンクほどじゃないけどな」
「別に俺は痛いのが嫌だから防御力に極振りなんてしてねぇよ」
「それ別のサイトじゃねぇか」
「KADOKAWA発行だからギリギリセーフだろ」
軽口を叩き合っているが、それで攻撃が緩むわけではない。
さらにスキルである程度スピードも増しているが、掠りもしていない。
(地形が地形だから、この前マイトに使った技は使えねぇ。っていうか使ってもこのサイズ差じゃすり抜けられる。そもそも見た目が小一か幼稚園児だから攻撃しづれぇ!)
別に『曹魏』への加入条件がロリコンというわけではない。
幻装少女の外見が幼女なら相手も攻撃を躊躇うだろうという彼らの隊長コウの考えで、『曹魏』の幻装少女は全て幼女で統一されているのだ。
(とにかく動きを止めねぇとどうにもならねぇ! ここはイチかバチか……! イヌならこれで止まるだろ!)
もう何度目かわからない突撃してくる夏候惇に、アインは大声で叫んだ。
「チンチン!」
「突然なに言ってんだ!?」
当然止まるはずもなく、ツッコミ混じりのドロップキックを受けてしまう。
「あ、やっぱ往年の名作マンガよろしく『おすわり!』の方が良かったか?」
「そういう意味じゃねぇよ! そもそも夏候惇はイヌじゃねぇ、オオカミだ!」
「え、そうなの?」
そんな時、ハルから音声通信が送られてきた。
「アインさん、無事ですか!?」
「なんとかな!」
「それじゃあ、スキルの効果も出始めてるんですね!?」
「ああ、残り耐久が四分の一ってところだ!」
事実リクテンオーの鎧は半分以上原形を留めていなかった。
「いまからアインさん用のサポート装備を射出します。これは相当のパワーがないと扱いきれない武器です! でも、いまのリクテンオーなら!」
「前口上は良い! そろそろマジでやられそうだから!」
「ご、ごめんなさい! いま射出しますから、それを腕に接続してください!」
通信越しに爆発音のようなものが聞こえた数秒後、ハルたちがいた方向からなにかが飛んできた。
「!?」
「……なるほど。俺好みの武器だ!」
飛来する「それ」にウルズは驚愕し、アインはコクピットの中でニヤリと笑った。
ミサイルのようにも見えるが、それは「拳」。それもリクテンオーと同じようなサイズの巨大な「拳」だ。
「とうっ!」
リクテンオーはタイミングを合わせて飛び上がり、その拳の根元に自身の腕を突っ込んだ。
そして華麗に着地――はせずにその大きな拳に引っ張られるようにウルズから離れていく。
「今日こんなのばっかじゃねぇかああああぁぁぁぁ……!!」
ポカンとしながら眺めていたウルズだったが、すぐ我に返った。
「アイツらの所には行かせるかよ!」
この距離ならば、まだ追いつける。
しかしそう思った矢先、背後から爆音が聞こえてきた。それも
「っ!!」
咄嗟に横に飛び退いたが、コンマ数秒前にいた場所に巨大な弾丸が突き刺さり、その衝撃で吹き飛ばされてしまう。
「不可視の狙撃手か……!」
さっきまで闘っていた黒い幻装少女はもうほとんど見えなくなっていた。
しかしそれでもウルズは自身の幻装少女を立ち上がらせ、死に物狂いで走り出す。
(間に合え……っ!!)
※
「あの初撃でお前たちがただのザコではないと理解していた……! 士気高揚のスキルがほとんど意味を成していないことも理解している……! だが! 仮にも我が部隊でも上位の実力者たちだぞ……! それをこんな……!」
『曹魏』の隊長コウは狼狽していた。いま自分が見ている光景は悪い夢だと思いたかった。
ウルズほどではないにせよ、残っていた三人の仲間も部隊内で指折りの実力者。それがたった一人に手も足も出ずに撃墜されたのだ。
「前に無双した時の連中よりは腕が立ちそうだったが、所詮“本物の命を懸けた斬り合い”もしたことのねぇガキどもなんざ、俺の相手じゃねぇよ」
MUSASHIは汚れを落とすように刀を一振りした。
「なっ、なにを言っているんだ貴様は!?」
曹操の機関銃を乱射したが、その全てが弾かれ、避けられた。
「お前はそんなにたいしたことねぇな。ハルと良い勝負ってところか」
(こ、ここは退くしかない! その間に、ウルズが大将機を墜とすはずだ!)
だがうしろを向こうとした瞬間、曹操は背中から撃たれた。
「なっ……!?」
見ると背後には白い幻装少女が。
「貴方が大将機ですね。ここで終わらせます!」
「くっ……!」
二機の幻装少女に挟まれるコウ。
なんとか抜け出す方法がないか策を練るが、焦りから正常な判断ができない。
「コウ! 避けろ!!」
その時、ウルズから音声通信が入った。
見ると白い幻装少女の背後からなにか異様なものが飛んできていた。
それは右腕がゴツイロケットのようになって、手足をばたつかせている黒い幻装少女。
「……は?」
だが他の二機にとっても同じだったようで、唖然として黒い幻装少女を見ている。
その黒い幻装少女は真っ直ぐ白い幻装少女に迫り、
「曲がれコノヤロオオオオオォォォ!!」
直前で強引に軌道をコウの方へ変えた。
「なっ、なにイイイィィィィィッ!?」
BATTLE FINISH!
※
「ふっ、完敗だよ」
部隊戦終了後、今度はコウが握手を求めてきた。
「俺たちもまだまだ精進が必要なようだ」
「こっちこそ、色々と学ばせてもらったよ」
アインはこれに快く応じた。
が、なぜかコウはなかなか手を放そうとせず、妙に手を握る力も強い。
「あー……もしかして、思いっ切り握ってる?」
「な、なんのことだ……!?」
「じゃあホイ」
これがリアルならコウの右手は複雑骨折していただろう。
「ギャアアアアア!!」
「見苦しいことやってんじゃねぇ!」
さらにはウルズが後頭部を叩いた。
「今回はお前らの勝ちだ。約束通りうちの部隊の金は全部くれてやる」
「くっ、こんなもの、また増やすだけだ! 次はこちらがルールも地形も全て決定し、全軍で貴様らを叩きのめす!」
「それ敗けフラグだろうが」
言い争いながら『曹魏』の面々はその場を去っていった。
「さぁ、私たちも帰って反省会ですよ」
二、三度手を叩いてアメリが自分に注目を集めた。
「おいおい、体育会系の部活かよ」
マイトは飛躍的に増えた資金を数えるのに夢中だ。
「アメリの言う通りだ。俺たちはこれから先、もっともっと強い連中と闘っていくんだからな」
そう言うとアインは拳を高々と掲げた。
「俺たちの闘いは、まだまだこれからだアアアア!」
「なんで打ち切りマンガみたいなこと言ってるんですか!?」
幻装戦記リバイバーズは、もうちっとだけ続くんじゃ。タイトルもまともに回収できてないしね!
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