第10話 出来る気がする
「それでは第一回
巨大格納庫の隣に設置された小さいプレハブ小屋。それが彼らの基地だった。その中でアイン、ローグ、ハル、マイトの四人がパイプ椅子に座り、モニターの前に立つアメリに注目している。
「あのぅ、部隊のメンバーはこれ以上増やさないんですか?」
おずおずとハルが挙手して訊ねた。
「あぁ。このぐらいの数で動くのがなんかしっくり来るし」
「私も五人程度の方が、一番指示を出しやすいと思うので」
二人がこう言うのは前世での旅が理由だが、誰もそんなことは知る由もない。
そして質問した本人もどことなく安堵したように見える……気がする。
「まずはこの部隊の最終目標についてです。みなさんにも個人的な目標や目的があると思いますが、ひとまずこの部隊の長、つまりは隊長であるアインさんの掲げる『AGF最強の部隊になる』ことを目指します」
「え? お前一番偉かったの?」
「そうだよ!?」
咳払いをしてアメリは話を続ける。
「そして当然ですが、これは生半可な道のりではありません」
そこで言葉を区切ると、モニターに二つのロゴが映し出された。太陽系を現したものと、中に剣が描かれた円。
「現状AGFのトップ、戦国時代風に言うなら最も天下に近いのが、この『ユニバース』です。人員も所有する土地面積も最大。実力も折り紙つきの常勝無敗軍団です」
アメリはモニターを切り替えて四人にある映像を見せた。
シルエットしか見えないが、炎に巻かれる瓦礫の中を悠々と歩く九機の
「つまり、コイツらが俺たちにとってのラスボスってことだ」
「……そっちは?」
ローグは剣のロゴを指差した。
「こちらはナンバーツー部隊『ラウンズ』。最大の特徴は一切他の部隊に攻撃を仕掛けないこと。なので土地の規模こそ『ユニバース』には及びませんが、挑まれた勝負は全戦全勝。さらにはあちらの隊長の人徳とカリスマ性で部隊の人数も『ユニバース』に肉薄しています」
「この人たちを、いつか『部隊戦』で倒さなきゃいけないんですね……」
『部隊戦』というのはその名の通り部隊同士による戦闘である。これに勝てば部隊の土地が増え、負ければ減るという、最も一般的に行われる部隊の規模を拡大する手段となっている。
「彼ら以外にも、武闘派集団の『アースガルズ』、AGFの古参部隊『マアト』など、多くの部隊がAGFの頂点を狙っています」
「おい、一つ気になったんだけどよぉ」
アメリの説明に一区切りついたところで、マイトが声を上げた。
「その『ユニバーサル』だとか『ナイトオブラウンズ』ってのはその部隊の名前なんだろ?」
「その通りです。あと二度とナイトオブらないでください」
「ここの部隊の名前は?」
それを聞いてアメリはバツの悪そうな顔になった。
「それが、恥ずかしながら『(未定)』です……」
「俺とアメリしかいなかったときに冗談で『アインとアメリの愛の巣』ってしようとしたら本気で怒られた」
「当たり前です!」
「んじゃ俺らのキャラ名の元ネタ的にアベン……」
「それ以上はダメですっ!! 消されます!!」
マイトの地雷原にヘッドスライディングをするかのような発言は、かろうじて回避された。
「とりあえず部隊名についてはみんなで追々決めていきましょう」
「まあ名無しってのも締まらねぇし、このあいだ仮名ってことで俺のプレイヤーIDを部隊名にしておいたけどな」
「そんなことしていたんですか!? ちなみにアインさんのIDは?」
「o7214545」
「セクハラじゃないですか!」
「なんでだよ!?」
自分がそういうものに過剰に反応しているだけなのかと思ってアメリは他の三人の方を見たが、マイトはニヤついているし、ハルに関してはおそらくだが照れている。
「どうでもいいから話を進めてくれ」
「は、はい。とにかく、最終目標は『ユニバース』の打倒ですが、まずはこの『曹魏』という部隊の攻略を目指しましょう。ここは比較的新しく結成された部隊ですが、破竹の勢いで勢力を拡大しています。いわば期待のルーキーです」
二つのマークが消えた代わりに大きく「魏」と達筆な文字で書かれた国旗のようなものが映された。
「要はRPGでいう所の最初の街のボスってわけか」
アメリは四人を見渡した。
「当面はこの部隊の闘い方の研究、ミッション報酬で装備の強化を行い、私たちと同じような新しい部隊と戦闘を重ねて実力を底上げし、その上でこの部隊に挑みましょう」
「え? そんなことしなくても、さっきその『曹魏』ってとことの部隊戦決まったけど?」
アインのその一言に、他の四人の表情が固まった。
「あの、アインさん、いつの間に……?」
「『この部隊の最終目標に……』って話してる間に、テキトーによその部隊の中から目についたやつに部隊戦申し込んでみたらすぐOKが出た」
「最初の方じゃないですか!」
「そ、それで、いつ闘うんですか?」
「一週間後」
「一週間後!?」
「明日とかじゃないだけまだマシだろ」
アメリは眉間を抑えながらマイトの言葉を何度も自分に言い聞かせた。
「……わかりました。こうなったら、今回は最短で攻略しましょう」
「大丈夫だ。このメンツならそんじょそこらの部隊には負けねぇさ」
「根拠はあるのか?」
「ない! でも俺たちなら出来る気がする! というかやる!」
どこから来るかわからない自信だが、不思議とアインの言葉に不安はある程度拭われた。
「それに、部隊戦の細かいルールも地形もこっちが決めていいって気前の良いこと言ってきたしな」
一口に部隊戦と言っても、相手を全滅させたら勝利や、拠点やターゲットを破壊されたら負けなど、ルールは様々だ。
「それ充分根拠じゃねぇか?」
「問題は、どこまで俺たちに有利な勝利条件とフィールドを作れるかだ」
「アメリさんの腕の見せ所ですね」
「はい。ここでもし負けても失うものはほとんどありません。ですが、全力で勝ちに行きましょう!」
そこでアインがアメリに代わって前に出た。
「いいかお前ら。これは大事な一歩目だが、まだまだ通過点だ! 俺たちは、最強部隊になって! 人気出て! 書籍化されて! アニメ化して! 『あのゲーム』に出るぞおおおおお!!」
「いきなりなに言い出してるんですかあああっ!?」
「も、もし『あのゲーム』に参戦出来たら、MでSな機動戦士とか、汎用人型決戦兵器の仕組みを見られるってことですよね!?」
「それにボディライン丸見えのスーツ着た女パイロットを拝めるし、あわよくば謎の全裸空間にも入れるってことだろ?」
アインの爆弾発言にアメリは目が飛び出しそうになったが、ハルとマイトは目に見えてやる気を出していた。
「大丈夫でしょうか……? その、色々と……」
「さあな」
こうしてなんやかんやで一週間が過ぎた。
「雑だなオイ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます