エピローグ さらば、最強勇者たちよ

「それじゃ魔王討伐を祝して、カンパーイ!」


 勇者アインの音頭で四人がジョッキを掲げる。


 魔王の城付近の村。その中の料理屋で、五人だけの祝勝パーティが行われていた。


「クゥーッ! これで残りの一生遊んで暮らせるぜぇ!」


 一人だけ酒を飲み、上機嫌な剣士マイト。


 純粋な実力では五人の中で最強だが、ダメ人間を絵に描いたような男である。魔王討伐の旅も、莫大な報酬を出すという契約で同行していた。


「ええ。契約通り、報酬金はきちんと払います」


 仲間に指示を出していた少女アメリが、にこやかにそう答えた。


 彼女はアインの最初の仲間であり、この世界を治める国王の娘、いわば姫である。強い正義感の持ち主であり、自身の立場を敢えて誰にも隠すことなくアインの旅に加わった。


 そして仲間になってわかったことだが、アインがあまりにも猪突猛進な性格のため、自分が支えなければという奇妙な責任感が芽生えたからでもある。


 戦闘は並の兵士に毛が生えた程度だが、王族としてのカリスマと、類稀な指揮能力で彼らを助けていた。


「帰ったら国を挙げて盛大な宴を用意しますから、期待していてくださいね」

「悪いが俺は辞退する。やっと闘いが終わったんだ。これで森に帰れる」


 弓の名手であるローグは、元々森に住む狩人だった。


 彼もまた契約で仲間になっていたのだが、少しだけマイトとは事情が異なる。


「けどまぁ、こうして魔王を倒せたのもみんながついてきてくれたからだ。本当にありがとうな」

「……グスッ……ヒッグ……」


 アインが仲間に労いの言葉をかけると、ハルの頬を涙が零れ落ちた。


 あまりにも突然の出来事に、アインも「え? 俺なにか悪いこと言った?」と他の仲間に目で訴える。


「わた、わたじの、ほうごぞ……ありがとう、ございまじだ……! こんな……まほうっ、しか、どりえのない……へんな、わたしを……ひつようど、じてぐれて……! うれじがったですぅ……っ!」

「ああ、本当に、よくついて来てくれたよ」


 ハルの感謝の言葉に、アインも少しもらい泣きしそうになってしまった。涙や鼻水が全部ジョッキの中に入ってしまって、まさかこれ飲まないよな、と思ったが。


「取り柄がないことねぇだろ。そんなでけぇモン二つもぶら下げてよぉ」

「ちょっと、マイトさん!」


 アメリがセクハラ発言を窘めるが、ハルの方が豊かというだけで、彼女の胸部にも立派な山が二つある。だから嫉妬とかではない。決して。


「いーなー! 俺も巨乳に生まれ変わりてーなー! そうなったら自分で自分の乳揉みしだきまくるのになぁー!」

「お待たせしました」


 酔っ払いがくだを巻く中、店員が切ったキノコを入れたスープを運んできた。


 芳醇な香りが食欲をそそる。


「……見たことのないキノコだな」

「ここに来る途中で生えてたのを見つけたんだ。この店、食材の持ち込みもできるみたいだったからな」

「大丈夫なんですか?」


 アメリは心配そうにスープを覗き込むが、アインはそれを笑い飛ばした。


「こんだけ美味そうな匂いがしてるんだ。大丈夫だろ」


 アインの取り柄は絶対的な自信と、どんな困難も笑って乗り越えてきた点だった。そこに彼ら彼女らも惹かれたと言っても過言ではない。


 だから四人も、この男がそう言うのなら、と一斉にスープを口にした。


「ところで、アインさんはこれからどうするのですか?」

「うん?」


 アメリは重ねて聞いてみた。


「貴方さえよければ、国の騎士団長として推薦しようと考えているのですが」

「そうだな……」


               ※


 五人が食事をしている場から少し離れた厨房で、こんな会話がされていた。


「あれ? ここに置いてたキノコは?」

「それなら、さっきスープの具にして出したけど?」

「あれ見たことない食材だったから使うの止めておこうと……」


 その直後、食堂から何かが倒れる音が聞こえてきた。


               ※


 翌日、アメリの父が治める国で盛大な式が執り行われた。


 ただし、凱旋のパレードではなく、国葬である。


 前日、勇者とその仲間である五人が、とある料理屋で命を落とした。死因は食中毒。


 専門家の調査によれば、五人が口にしたのはテトロダケと呼ばれるキノコで、強力な毒を含んだ珍しい毒キノコであることが判明した。


 こうして魔王を倒した最強の勇者一行は、毒キノコで短い人生に幕を下ろした。

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