幻装戦記リバイバーズ~最強勇者一行が転生してVRMMOメカ少女ゲームで再会しました~

ゼンタロー

プロローグ 最強勇者一行

最終話 魔王、最期の時

「とうとうここまで来たぜ魔王……悪い! 名前なんだっけ?」

「ヘルだ!」


 我々が住む世界とは異なる世界。魔王の手下である魔物が跋扈し、人々が虐げられている世界――イースピック。


 そして世界を救うために、仲間を集め、魔王とその配下に立ち向かう勇者がいた。


 その勇者の名は、アイン。さっき魔王の名前を忘れていた男である。


 傍らには弓を構える少年、杖を持ったへっぴり腰の眼鏡少女、一目見ただけで高い身分の生まれと分かる美しい少女の三人がいる。


 いままさに魔王城の奥で、最後の闘いが始まろうとしていた。


「みなさん、作戦プラン通りに……」

「オラアアアアアアッ!!」


 高貴そうな少女の話を無視し、アホもとい勇者アインは剣を振りかぶって一直線に魔王に斬りかかった。


 当然そんな攻撃が通用するはずもない。


 魔王は手をかざして障壁を発生させ、攻撃を止める。


「あの、聞いてましたか!?」

「放っておけ。いつものことだ」

「……ではローグさん、お願いします」


 弓を構えた少年、ローグは「了解」とだけ短く答えると、すぐさま矢を放った。


 しかしそれは魔王の足元に突き刺さっただけ。


 さらに二本、三本と続けて矢を放つが、どれも周りの柱や壁に当たった。


「ふん、どこを狙っている? というかもうちょっとちゃんと狙え! あとで修理が大変になるから!」

「いいや、狙い通りだ」


 もう一本放たれた矢は最初の矢とほとんど同じ軌道を描く。


「そもそも弓矢ごときで我を倒せると」


ドガアアアアアアアアン!


「グアアアアアアアアアアアアッ!!」


 矢同士が当たった瞬間、大爆発が起きた。


(矢が、矢が爆ぜるだと……!? ということは、他の矢も……!)


「これで牽制は成功しました」

「ああ。ついでにバカも一匹仕留めた」

「え?」


 見るとアインが真っ黒になって倒れている。


「ギャグ時空じゃなかったら死んでますよ!? うぅん……ハルさん。あの人の場合は“あのままの方がいい”かもしれませんが、回復お願いします」

「は、はいっ!」


 ハルと呼ばれた眼鏡の少女が杖を掲げた。


「ヒール!」


 その言葉と共に杖の先端が光り、アインの傷がみるみるうちに消えていった。


「よっしゃあ! 助かった!」

「こっちにも付加を頼む」

「はいっ! アディション、ボム!」


 入れ替わりの要求にも懸命に応えるハルの姿を見た魔王ヘルは口元を歪めた。


「どうやらその娘が貴様らの生命線のようだな。ならば!」


 魔王は黒い火の球をハルに向けて放つ。


「っ!? 止めろ!」


 慌ててアインが叫んだが、もう間に合わない。


「ヒッ……来ないで! 来なっ……来るなっつってんだろおおおおおおおおおおおおお!!!」


 突如ハルが豹変したかと思うと、メジャーリーグのスラッガーのように杖をフルスイングして火球を魔王の顔面へと打ち返した。


「ぶほぁっ!」

「ハルはピンチになると魔法少女から魔法狂戦士にジョブチェンジするから止めろって言っただろ!」

「じゃあ最初からそう言えええええええ!!」


 血が流れる鼻にティッシュを詰め、涙目でツッコむと、魔王は真剣な面持ちで彼らを見据える。


「だが、やはり城内にいる我が親衛隊を倒しただけのことはある」

「あの連中なら俺たちは相手をしていない」


 ローグの言葉に魔王は耳を疑った。


「ええ。消耗を減らすため、私たちの仲間の一人が闘ってくれています」

「愚かな! たった一人の人間では時間稼ぎも……」

「おーい。こっち終わったー?」


 あまりにも能天気な声を響かせながら、もう一人の男が入ってきた。


 アインたち四人より少し年上で、血塗れの剣を担いでいる。


「さすがだな、マイト!」

「バカな……!? 四天王級の魔族だぞ!?」

「チッ、まだかよ。おいアメリ。“あれ”は特別報酬枠でいいよな?」


 剣士マイトは指示を出していた少女、アメリの方を向いて魔王を指差した。


「貴方という人は……。わかりました。さきほどの五倍の報酬金を出します」

「へっ、よっしゃ! 行くぜぶらっぱぁ!?」


 マイトが走り出そうとした瞬間、ハルの振り回している杖が顎にクリーンヒットしてしまい、その場で気絶してしまう。


「クサレ魔王があああああああああ!! 死に晒せええええええええええええええ!!!」


 当のハルはやたらめったらに杖から魔法の弾を放ち、あちこちに攻撃していた。


「あぶなっ!?」

「チッ……!」

「きゃっ!? 落ち着いてくださいハルさん!」


 他の三人も避けるのに手一杯になってしまっている。


「おのれ……我が配下がこんなふざけた連中に敗れただと……!? こうなれば、楽に殺せそうな貴様からだ!」


 このカオスな状況に苛立ちを隠せなかった魔王は、今度はアメリを標的にして火球による攻撃を仕掛けた。


「……っ!」


 アメリは反射的に目をつぶり、顔を背ける。


「させねぇ!」


 しかしアインがその間に立ち塞がった。


「ぐっ……!」


 アインが庇ったことでアメリに外傷はない。


 しかし彼の防具は破壊され、全身にはおびただしい火傷が。さらには武器である剣も折れてしまっている。


「アインさんっ!」

「お前を失うわけにはいかないんでな、“姫様”……ガフッ!」


 血を吐きながらも、勇者は笑っていた。


「それに、よく知ってるだろ。俺はここからが本番だ!」


 次の瞬間、アインの身体を黒いオーラが包む。


「なっ……!?」

「俺もハルほどじゃないが、魔法を扱える才能があるらしい。でもガラじゃなくてな。一つしか覚えてないんだ」


 アインは最初に斬りかかった時の数倍のスピードで魔王に詰め寄った。


「貴様っ……!」


 再び魔王は手から障壁を発生させる。


 しかしそれは一瞬でかき消された。


 アインが障壁を殴って破壊したのだ。


「……!?」

「デッドリー・ブースト。ダメージを負えば負うほどパワーが増す、強化魔法だ!!」


 オーラが全てアインの右腕に収束していく。


 咄嗟に魔王は後ろに下がろうとするが、ローグが魔王の背後に設置しておいた矢を次々と起爆させ、それを許さない。


「終わりだああああああああああああああああああああああああああっ!!」


 魔王に渾身の一撃を叩き込む。


「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 拳は魔王の身体を貫き、断末魔と共に魔王は消滅した。


「よっしゃあああっ!」

「やった! やりましたっ!」


 アインは勝利の雄たけびを上げ、アメリも瞳を潤ませながら歓喜した。


 こうして魔王は滅び、世界の脅威は去った。


 ちなみにローグとハルの攻撃で崩壊しそうになる魔王の城から全員で命からがら脱出するのは、また別のお話。

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