第3話 筆頭魔導士
「いやいやいや、聖女様!?」
「私も行くって私たちと!?」
「それこそ一番ダメなやつです!」
3人娘の流れるような突っ込みはさすがというべきか息ぴったりであった。そんな突っ込みを受けたディアナはしかしにっこりサラッと受け流した。
「いや、にこって笑っても騙されないよ。人手が足りないって言っていたのに筆頭魔導士が抜けたら大打撃じゃないか」
「えぇ、それはそうなのですが、私も筆頭魔導士と呼ばれる所以がありまして」
まぁ、それも今日は遅いのでまた明日ですね、とディアナは微笑んだ。
「とにかく、私もご一緒させていただきます。ちょっと気になることというか、確かめたいことがあるんですよね」
「聖女様がそういうのであればあたしたちが止めることはできないけど」
「それでいいんですか、聖女様ぁ」
呆れた、というようなヒューノたちの視線を受けながら、ディアナはにこにことどこか上機嫌だ。
「さて、それでは私は準備をしなければならないので失礼いたしますね。皆さまも早くお休みになってください」
では、と言いおいてディアナは3人を置いてさっさと行ってしまった。
「聖女様、本当についてくる気だと思う?」
「えぇ、おそらく本気でしょうね」
「でもあの聖女様と一緒にいられるのはちょっとワクワクするかも」
たしかにな、とヒューノは頷きながら踵を返した。
「ま、明日になれば分かるだろ。聖女様の言う通り、とりあえず今日は休もう」
「それもそうね」
「さんせーい」
3人はあらかじめ決めておいた場所にテントを張り、見張りの順番を決めてから各々体を休めた。
そして夜の間は何事もなく、次の朝を迎えた。
3人は手早く朝の準備を終えると、またディアナの元へと向かった。
ディアナはというとちょうど部下たちに指示を出し終えたところのようで、3人に気が付くと手招きをして呼んだ。
「皆さま、おはようございます。では早速始めましょうか」
3人が挨拶をする隙も与えず、ディアナは勝手にさくさくと準備を始める。
「聖女様、それってもしかして
ディアナが手に持った筒を傾け、自分の周囲に砂のようなものを撒いているのをみたコトハが声をかけた。
「えぇ。コトハさんはよくご存じですね。今回みたいに即席で大規模魔法陣を使うときはこっちの方が楽なんですよね」
「その魔力砂、ってなんなの?」
「簡単に言えば魔力を帯びた砂です。小さい魔法陣なら手書きしてもいいのですが、規模が大きくなると準備に時間がかかります。そんなときにはこうして砂に魔力を通して……」
ディアナが手をすっと前に伸ばすと同時に魔力がふわりと放出された。そして魔力に触れた砂がさらさらと動き出し、ディアナを中心として魔法陣を描き出した。
「へぇ、戦闘中には使えないがこういう場面では便利な道具なんだな、ってなんだこの規模は」
驚くを通り越して呆然とした3人の前に描き出されたのは、ディアナを中心に直径10メートルほどもありそうな大きさの魔法陣だった。
「私たちを抜いてもざっくり150人くらいいますから、自身の魔力消費を抑えようと思ったらこの規模になってしまいました」
呆然とする3人を前にディアナは平然と微笑んだ。そしていつの間にかそばにいた副官にみんなを集めるよう指示を出すと、空間魔法であろう、宙から自分の背丈ほどもある真っ黒な杖を取り出して集中を始めた。
魔法陣の中央に長く黒い杖を突き刺し、手を添え伏し目で集中する姿は神聖で、まさに祈りを捧げる聖女様そのものである。
「……魔法陣の規模からみれば当たり前だが何だこの魔力量は」
「それを知覚できるヒューノも大概だと思う。私にはここまで大きすぎるともうわけ分かんない」
「これが筆頭魔導士、ですか」
ディアナが集中を始めてからどのくらい経ったのか、おそらくそれほど時間はかかっていないが気が付けば魔導士団の面々に加え、村人たちも集まってきていた。
「あの魔法陣ってもしかして」
「あぁ。久しぶりに筆頭のあれが拝めるぞ」
「そもそも筆頭があれを出すって相当な事態なのか?」
「知らん。だがやはり筆頭の魔法は美しいなぁ」
「魔法マニアめ」
魔導士団の間ではそんな会話がなされていた。
魔法にはあまり縁がないであろう村人たちも、あまりにも規模が大きい魔法陣に目が奪われている。
「これより、聖都魔導士団聖魔導士部隊筆頭魔導士により大規模転移魔法が行使される。対象は我ら聖魔導士部隊と有志部隊、非戦闘民の皆さまである。転移先はハレノクニ中央門前。全員が一斉に転送される」
「この人数を一斉転移ってうちの筆頭は無茶苦茶だね」
「そこはさすが筆頭、だろう」
副官のルークから簡単な説明がなされたあと、準備が整ったのか視線を上げたディアナが微笑みながら口を開いた。
「転移は一瞬です。転移後は現地の隊長の指示に従ってください。それでは、≪転移≫」
ディアナの魔力を受けて光を帯びていた魔法陣が一際輝いたかと思うと、その場にはディアナとヒューノたちを除いて全てが消え去っていた。
「うわぁ、なんか、もう……うわぁ」
「語彙力どっか消えてんぞ」
「こんなの見せられたらこうなるって」
「そりゃ、そうだな」
顔を見合わせたコトハとヒューノはそろってため息をついた。
「……ふぅ。さて、これで無事に送り届けるというミッションは達成しました。これで心置きなく皆さんについていけますね!」
一仕事を終えたディアナはやり切った感満載の笑顔で3人を振り返った。
「え、えぇ。たしかに皆さん無事に送り届けられたと思うのですが」
「何か問題でも?」
「これ、きちんと説明しましたか?」
「もちろん、ちゃんとハレノクニに残っている部隊の隊長には連絡を入れておきましたよ。いきなり転移してきたらびっくりするじゃないですか」
「いや、そうではなくてですね」
どこか歯切れの悪いリリアの様子に、きょとんと見返すディアナ。
「いきなり飛ばされたらびっくりすると思うんです。その、一般的な村人なら」
「ふむ?」
「どうみても先ほどの皆さん、呆然としてわけが分からないまま飛ばされたようにしか見えないのですが」
「あ」
困ったような微笑みを浮かべたまま、リリアはおそらく、と続けた。
「気が付いたら見知らぬ土地にいるとか、普通はパニックになりますよ」
「あああああ」
今度こそ合点のいったディアナが頭を抱えて崩れ落ちるさまを見た3人は、そろってまたため息をついた。
「ついて来たかったの分かるけどさ」
「筋はちゃんと通さないとだめです」
「聖女様って意外とポンコツ?」
コトハの追い打ちに一層深く落ち込むディアナであった。
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