第57話 束の間の幸せ
十二月下旬。
ついに新しい出版社、BS文庫が設立された。
BS文庫からは十名の作家の新作のラノベが発売され、一月には英里奈の画集も発売される。
十名のうちの一人が遥斗だ。
今日はBS文庫設立、遥斗の新作とアニメ化、英里奈の画集発売を祝うべく、大勢の人が夕璃の家に集まった。
食事をした後は遥斗のアニメが初放送されるので、みんなで見る予定だ。
桜華と美波はケーキ、愛と遥斗は食材、英里奈と夕璃はお酒を買いに出かけた。
エムと芹那は仕事の関係でギリギリにやってくる。
「今日はゆう君の家、パンパンだね。こんな大勢でお祝い事なんて初めてだよ」
「お祝いすることがいっぱいあるからな。いよいよ英里奈の画集も発売間近だしね」
「私の全部をぶつけた画集、私から見せるからそれまでは買っちゃだめだよ」
英里奈は不安が混じった笑顔で釘をさした。
夕璃と英里奈はお酒を買い、家に戻ると他のみんなも買い出しから帰ってきていた。
「いいお酒は見つかった?」
桜華に尋ねられた夕璃は無言で日本酒の銘柄を見せて親指を立てる。
「そういえば遥斗はいるのに愛がまだ帰ってきてないんだな」
「美波ちゃんと愛ちゃんなら桜華ちゃんの家の台所で料理してるよ。八人分の料理だから分けて作らないと間に合わなくて」
遥斗が手際よく料理をしながら答えた。
桜華は皿だしなどを手伝っている。
夕璃と英里奈はしばらく暇を持て余していたが、愛の料理が完成すると何往復も桜華と夕璃の家を行き来して運んだ。
料理が全てテーブルに置き終えたタイミングでエムと芹那がやって来た。
「遅くなりました。初めましての方が多いですね」
エムは夕璃と芹那以外と会うのが初めてなので多少の不安はあったが、すぐに打ち解けて話していた。
「芹那さん。顔色が悪いですけど大丈夫ですか?」
「最近頑張りすぎているからな。でも今日息抜きすれば大丈夫だ」
そう言っていつもより遅い足取りでリビングに向かう。
夕璃の家のテーブルだけでは料理は収まらないので、折り畳みのテーブルも何個か出している。
「今日一番の主役の遥斗、乾杯の音頭とれ」
夕璃は不貞腐れながら遥斗に乾杯の音頭を促す。
「では、今日はBS文庫の設立、英里奈ちゃんの画集発売、そして僕のアニメ化をお祝いして――乾杯!」
「「乾杯!」」
騒がしく、楽しいお祝いが幕を開けた。
それぞれが遥斗のアニメが始まるまで、料理を取りながら思い思いに話している。
「私、遥斗先生の小説読んでます。今日のアニメ楽しみです」
「エム先生、ありがとうございます。怖くてまだ白箱は見ていないんですよね」
エムが馴染めているのを見て、夕璃は安堵した。
料理が半分以上なくなった頃、遥斗のアニメ放送五分前となった。
遥斗は固唾を飲んでテレビに注目した。
そして、いよいよ『それ世界』のアニメが放送された。
三十分、全員が無言でアニメを見守った。
作画は安定していて、声優もキャラと合っていた。
文句なしのアニメが終わった瞬間、遥斗は大きく息を吐いた。
「は〜緊張した。まぁ問題はないかな」
遥斗はやり切ったという顔で今もエンディングを見ていた。
「あぁ、いい作りだったよ。おめでとう」
夕璃は心からお祝いの言葉を放った。
「やっと遥斗もアニメ化作家だな。担当編集として嬉しいよ」
遥斗を褒めたたえる芹那の様子はどこかおかしかった。
「今日はあまりお酒を飲んでいないんですね」
芹那は乾杯からコップに入っているお酒を半分も飲んでいない。
――明らかにおかしい。
そう思った時にはもう、遅かった。
「本当に、遥斗は立派に、なった――」
最後まで言葉を言い終えた芹那は立ち上がろうとして、そのまま床に倒れた。
程なくして救急車が到着し、芹那は入院することになった。
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