第53話 自分の道

 一日を部屋で寝っ転がって過ごすことになるところだった桜華のもとに美波が訪れた。


「どうしたの、美波?」

「夏休みなのにまだどこにも出かけてなかったから遊びに来ちゃった」


 桜華は歓迎して美波を部屋に入れた。


「さくらもバイトがない日は何もしてないよ。またどこか旅行でも行きたいね」

 

 リビングでそんな他愛のない話をしていると、突然美波が閃いたかのように声を上げた。


「そうだ!旅行じゃないけどどこか遊園地に行こうよ」

「いいね。遊園地ならすぐ行けるし楽しそう」

「どうせなら二人じゃなくて愛ちゃんとか英里奈とか芹那さんとか誘って、たまには女子だけで行こうよ」

 

 美波の提案に桜華は疑問を持った。

 美波なら二人っきりで行きたいと言うと思っていたからだ。


「美波がいいなら他の人も誘おう。でも芹那さんは厳しいかも。今BS文庫のことで忙しいから。あと英里奈も誘って大丈夫かな?」

「最近は誰とも会わずに絵だけ描いてるんでしょ?少し息抜きさせないと」

「そうだね。じゃあ英里奈と愛ちゃんを誘おう」

 

 まず二人は英里奈に連絡した。

 

 すると明日だけなら空いていると返信が来た。

 二人も明日は予定がないので英里奈に合わせることにした。

 


 次に愛を誘うために隣の夕璃の家を訪ねた。

 

 呼び鈴を押してしばらくすると、少し顔色の悪い夕璃が出てきた。


「よう、二人とも。どうした?」

「どうしたは夕璃でしょ。顔色が少し悪いよ」

 

 桜華が心配の声をかけた。


「昨日ハルマさんっていう同人活動をしているイラストレーターと結構お酒を飲んじゃって若干二日酔いだ」

 

 夕璃は二人に二日酔いなら自業自得だと呆れられた。


「ところで今、愛ちゃんいる?」

「愛なら今日遠足で神奈川に行ってるぞ」

 

 桜華と美波は少し考え、遠足の次の日に遊園地は疲れるだろうと思い誘うのを断念した。


「たしか私も中学の遠足で神奈川行ったことある」

「美波もあるのか。俺は小学生の時に遠足で七里ヶ浜に行ったことがある。ビーチバレーやスイカ割りをした気がする。そういえば海の絵を描いている人もいたな」

 

 美波と夕璃は子どもの時の思い出に浸りながら遠足の話をしていた。

 


 少し夕璃と話した後、二人は桜華の家に戻り明日行く遊園地を決めたりなど計画を練っていた。

 

 桜華は美波が他の人も誘おうと言ってからずっと引っかかるものがあったが、自分からは聞けずにいた。


「桜華なんか考え事?」

 

 そのことで一人唸っていた桜華を見て美波も何かに気づいた。

 

 ここまで来たら聞くしかないと思った桜華は意を決した。


「前の美波ならさくらと二人っきりで行きたいって言うと思ったから他の人を誘うのが意外で」

 

 桜華の言葉に美波は目を逸らし、少し頬を赤らめながら答えた。


「私ね、新しく好きな人ができたの」

「違ったらごめんなんだけど、その人も女性?」

 

 遠慮気味に尋ねる桜華を美波はクスッと笑った。


「いいよ、遠慮しなくて。新しくできた好きな人も女性だよ」

 

 桜華は美波に好きになった経緯を聞いて驚いた。


「さくらが寝てた時にそんな人とお風呂で会ってたんだ」

 

 美波の好きな人とは以前、箱根旅行の時に朝に温泉で出会った春浦千聖だ。


「あの時出会ってからより千聖さんの雑誌を読むようになって、千聖さんの言葉を読む度に好きになっていったんだ。それにライターって仕事、すごく素敵だと思う。だから私は大学を卒業したら千聖さんのところで働こうと思うの」

 

 桜華が気づかないところで美波は成長しながらありのままの自分を受け入れて、前に進んでいた。

 

 美波もようやく自分の道を見つけて、歩き出したのだ。


「ライターいいと思うよ。さくら、恋も仕事も応援してるね」

「ありがとう。桜華のことは友達としてになっちゃうけど、ずっと大好きだよ」

 

 純粋な小悪魔のような笑顔で、躊躇なく大好きと言われた桜華は顔を真っ赤にして心の底で悶えていた。

 

 もし夕璃と出会っていなかったら――きっと桜華は美波を恋愛的な意味で好きになっていたのかもしれない。

 

 だけどそれはまた、別のお話。

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