第51話 友情

 夕璃達は慧と待ち合わせしていた駅に着いた。


 改札を抜けると慧が待っていた。


「久しぶりです。桜華と愛も来ちゃって大丈夫でしたか?」

「むしろ大歓迎だよ。愛ちゃんは初めましてだね」

「坂田愛です。初めましてです」


 慧の家に行くまで夕璃は慧に、愛と出会った経緯や、一緒に暮らしていることを話した。


 駅から徒歩十分ほどで慧の家に着いた。

 慧の家は五階建てマンションの三階にある。


「いつからここに住んでいるんですか?」

「高校生の時からだよ。唯衣がこの家から離れたくないって聞かなくてね」


 慧を除く三人は、唯衣と高校生の時から一緒に住んでいたことに驚いた。


「高校生の時から同棲してるってアニメでしか聞いたことないけど、すごく憧れちゃうな」

 桜華は慧に羨望の眼差しを向け、夕璃は自分との境遇の違いに落胆していた。


 三人は慧にリビングへ案内され、そこには唯衣と遊んでいる小さな女の子がいた。


「あ、みんないらっしゃい。ほら咲絆、ぱぱとままのお友達にあいさつして」


 咲絆は唯衣の後ろに隠れてしまったが、すぐに顔だけ覗かせてあいさつをしてくれた。


加隈咲絆かくまさき、二ちゃい」

「あいさつできて偉いぞ。よしよし」

 慧は咲絆の頭をくしゃくしゃと撫でる。


「私はさくらだよ。ぱぱはそこの夕璃って言う名前のお兄ちゃんとお話があるから、咲絆ちゃん一緒に遊ぼっか」


 桜華の言葉に最初はどうするか迷っていた咲絆だが、唯衣が「ままのお友達だから大丈夫だよ」と言うと、笑顔で桜華を自分の部屋に連れて行った。


「愛も桜華と行ってきな」

 愛はわずかに緊張した面持ちで頷き、桜華の後を追った。


「愛ちゃんは小さい子供に会うのは初めてのようだけど、桜華ちゃんは慣れてたね」

「桜華は妹がいるからだと思います」


 リビングには慧と唯衣と夕璃の三人だけになった。


「とりあえず座って座って。今お茶出すね」

「ありがとうございます」

 唯衣に促され、夕璃は椅子に座った。


 しばらくするとお茶が出され、夕璃の前に二人が座った。


「それで大事な話ってなんだ?」


 慧の問いに一呼吸間をおき、夕璃は話した。


「先日兄が帰国しました。しかも知らない間に結婚してて子連れで」


 その話を聞いた二人は、驚きと喜びが混じった表情で顔を見合わせた。


「そっか。はるはるはもう、自分の道をちゃんと歩んでるんだね」


 中学生から高校生までの約六年間、彼ら三人は毎日のように同じ時間を過ごし、同じ高校に入り、文字通り三人は同じ道を歩いていた。


 唯衣は自分がきっかけで春彦が立ち直れなかったらと心のどこかで思い続けていたので、春彦が結婚していることを聞いて慧よりも安堵の表情を浮かべていた。


「ちゃんと春彦にお礼が言えるんだな。春彦はいつまで日本にいるんだ?」

「二ヶ月くらいいます。アメリカに帰る直前に結婚式をやる予定なので、お二人にはサプライズとして来てほしいです」

「もちろん行くさ。あいつ、俺達といつも一緒にいたから高校時代の呼べる友達いなさそうだしな。俺達が行ってやんないとな」


 慧の冗談混じりの言葉に唯衣は微笑んだ。


「はるはる、ちゃんと私達の顔覚えてるかな?」

「俺達が一緒にいた時間は長いし、中高の思い出なんだ。春彦はきっと忘れてないよ」


 二人が春彦に大きな信頼を置いていることに夕璃は改めて兄の凄さを実感し、とてつもなく友情に憧れた。

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