第34話 本当の家族
桜華は突然、自分には兄がいて、生みの親は殺されて琴美は生みの親ではないことを聞かされた。
最初は困惑していたが、ようやく落ち着いて状況を理解してきた。
「じゃあ、お母さんがさくらに厳しくしていたのはお母さんのお姉さんの遺言だからってこと?」
「そうよ。桜華にはお姉ちゃんの分も幸せになってほしかったから、お姉ちゃんみたいにはならないようにって。今まで厳しくしててごめんね」
琴美の気の強さや冷淡な態度は元々の性格ではなく、桜華を厳しく育てるための不器用な演技だったのだ。
今まで自分が琴美の厳しさに反抗したり、些細な喧嘩で健人と距離を置いていた自分が馬鹿らしくなり、後悔した。
「厳しくして本当に、ごめんね……。本当の家族でも――」
「違う!」
泣きながら謝る琴美の言葉を桜華が制止した。
「違うよ……厳しくしてくれたのはさくらのためって気づいたの。それに――さくら達は本当の家族だよ」
「あぁ。たとえ本当の親でなくても俺達は間違いなく本当の家族だ」
そう言って健人は桜華の前に行き、抱きしめた。
「うん。中学生の時、些細な喧嘩で謝らなくてごめんなさい。お母さんもさくらのために厳しくしてくれたのに反抗したりしてごめんなさい」
「いいのよ。桜華は理由なんて知らなかったもの」
琴美も桜華の前に行き、抱きしめた。
三人は抱き合って大粒の涙を流した。
バラバラだった家族はこうして、一つになっていった。
三人はしばらくすると落ち着いて、琴美がある提案をした。
「これから、お姉ちゃんのお墓に行かない?」
「うん。さくらがちゃんと大きく成長したことを報告しないと」
そう言って三人は支度を始めた。
「じゃあ俺はこれで。桜華、先帰るね」
ここから先は桜華の家族の話なので夕璃は帰ろうとした。
「夕璃君も一緒に来てほしいの」
琴美はなぜか夕璃を誘った。
「桜華のお母さんがいいっていうなら、わかりました」
そして四人は春花のお墓に向かった。
「ここがお姉ちゃんのお墓よ」
お墓には牧野春花と彫られていた。
桜華は桶に入っている水を掬ってお墓の上からゆっくりかけ、雑巾で丁寧に拭いた。
そして琴美が線香に火をつけて、みんなに配った。
健人、夕璃、琴美の順番で線香を置いて、手を合わせた。
いよいよ桜華の順番がやってきた。
桜華は線香を置いて手を合わせた。
「覚えていないけど、赤ちゃんの時さくらを救ってくれてありがとう。さくらは生まれてきてから今までずっと幸せだよ。そしてこれからも、さくらは幸せだよ。次は彼氏でも連れてくるね」
最後に桜華は夕璃をちらっと見た。
桜華が線香をあげ終わり振り返った時、誰かが近づいて来ているのに気づく。
明らかに春花のお墓に向かって来ている。
「お母さん、あれ誰?」
「やっと来たのね」
「お待たせしてすみません」
近づいてきた黒髪長身でメガネをかけ、スーツを着ている男は琴美と健人に会釈した。
そして男は桜華を見て、今にも泣きそうなくらい目が潤んでいた。
「あぁ、母さんの死は無駄じゃなかったんだ……。あ、申し遅れました。中村瑞輝です。よろしく」
桜華はその名前を聞いてハッとした。
「あなたがさくらの、お兄さん?」
「そうだよ。桜華は赤ちゃんだったし一緒にいた時間はほんのわずかで多分記憶はないだろうけど、僕は間違いなく桜華の兄だ」
どことなく童顔なところが桜華に似ている。
「桜華、何か言うことがあるんじゃない?」
琴美は桜華の背中を押す。
「さくらを、お母さんを守ってくれてありがとう。さくらはこれまでもこれからも幸せだよ」
桜華の幸せという言葉を聞いて瑞輝の溢れそうだった涙が零れ落ちた。
「そうか……本当に、よかった」
それから桜華と瑞輝は少し言葉を交わし、連絡先を交換した。
「じゃあ僕はこれで。幸せでい続けてね、桜華」
「うん!」
瑞輝は春花のお墓に線香をあげて帰って行った。
「そろそろ俺達も帰るか。二人とも家に送ろうか?」
健人が車の鍵を出して駐車場に向かおうとしたその時。
「さくらはしばらくお母さんとお父さんと過ごしたい」
「いいよ。久しぶりにみんなでご飯食べよっか」
こうして、桜華達はギクシャクしていた時間を取り戻すように、仲の良い家族になり、桜華の中で家族はかけがえのない存在になった。
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