第27話 未来に向かって歩き出す

 本当にその決断が正しいのか、本人の美波でさえわからない。


 だが前に進むためには必要なのだ。

 ――正しいかはわからないけど、迷っちゃダメだ。


 美波はもう一度、今度は顔をあげてハッキリと言った。


「私は今日、桜華に告白する。結果がどうなろうとも四年間の想いを全て伝える」


 美波のハッキリとした意思がこの場の全員に伝わった。


「桜華なら決して美波を傷つけたりはしないだろう。この一年も満たない間に随分と変わったな」

「夕璃が相談に乗ってくれて、みんなからいろんな意見が聞けたからだよ」


 美波の衝撃的な告白から程なくして桜華がやってきた。

 

 既に完成していた豪華な料理が大量に並んでいる。


 夕璃が扉を開けて桜華をリビングに案内し、桜華がリビングに入った瞬間、大量のクラッカーが桜華を祝福する。


「「桜華、誕生日おめでとう!」」


 桜華は一瞬驚いたものの、すぐに満面の笑みを浮かべた。


「みんなありがとう!」

「ほら、主役はここに座れ」

 夕璃が桜華を座らせた。


 最初にプレゼントを渡すことにした。


「この料理は私からのプレゼント。プレゼントは渡すけどにぃは渡さないからな」

「ははは……でも本当にすごく美味しそうな料理だね。ありがとう」

 

 プレゼントを渡す際にも毒舌な愛に、桜華は苦笑しながらもお礼を述べた。


 次は芹那がお酒を冷蔵庫から取り出し、桜華のグラスに注いだ。


「これは二十歳になった祝いだ。やっぱり二十歳のプレゼントは酒だよな」

「お酒すごい興味あったから嬉しい。一応、ありがとね」

 

 普段桜華にとって恋敵の芹那が敵意なしにプレゼントをくれたため、桜華は少しぎこちなかった。


「俺からは食後のあと出てくる誕生日ケーキだ。誕生日おめでとう」

「ありがとう夕璃。四ヶ月後には夕璃の誕生日だからその時一緒にお酒飲もうね」

「お、おう。酔いすぎて変なことするなよ」


「全く君ってやつはどうして大勢の前でイチャイチャできるんだ」

 いい雰囲気の二人に遥斗は呆れてながらプレゼントを桜華に渡した。


「お誕生日おめでとう桜華ちゃん。僕からは腕時計をプレゼントさせてもらうよ」

「ありがとうございます。大切に使います」


 そして最後に――


「誕生日おめでとう!私と美波で服を選んだの。気に入ってもらえるといいけど」

 

 そう言って英里奈が桜華に服をプレゼントした。


「すごく可愛い服!ありがとう、英里奈と美波。大切に着るね」


 全員がプレゼントを渡し終わると、美波が深く深呼吸をして桜華を真っ直ぐ見つめた。


「桜華、誕生日おめでとう。桜華に言うことがあるの」


 美波の鼓動が徐々に加速していく。


「ん?どうしたの?」


 ――もう自分の気持ちには背を向けない。


 美波は心の中でそう呟くと重い口を開いた。


「私はね、桜華の。ことが恋愛的な意味で好きなの。四年前、桜華が教室で話しかけてくれたあの日からずっと。私はこの感情が最初は悪いものだと思っててずっと隠していたけど、もう自分から逃げない。桜華を好きっていう感情に嘘はつけない。桜華――私と付き合って」


 ――言えた。

 一瞬美波は安堵するがすぐに桜華の返事に不安になる。


 桜華は長い時間驚きを隠せず唖然とし、そして涙を流した。


「嬉しい……美波がどれだけ自分を傷つけて、悩んで、それでも自分の感情と向き合ってさくらに言ってくれたことが嬉しい。けど桜華は……付き合えない。でも美波のことは今までと変わらず、ずっと大好きだよ。さくらは美波が誰を好きになろうと嫌いになんてならないよ」

 

 桜華の言葉に美波は涙を流し、二人は抱き合った。

 

 号泣して嗚咽する美波を、桜華は優しく包み込む。


 ――私のこの感情は異常でも、悪いものでもなかったんだ……!


 桜華に受け入れられて美波の心にあった重いしこりが、すとんっと落ちていった。

 

 四年間重いしこりを抱え続けた美波は、桜華に自分の感情を受け入れてもらったことで報われたのだ。


 泣き止んだ美波の表情は過去一番に澄みきった笑顔だった。



 その後はみんなで楽しく愛の作った料理を食べた。


「はい美波、あーん」


 二人は以前にも増して仲良くなり、イチャイチャし始めた。


「桜華も、あーん」


 料理をお互い食べさせ合っている。


「口にソースがついてるよ。さくらが拭いてあげる」

 

 今日はこの二人のイチャイチャを永遠に見せられそうだが、四年間のしこりがなくなった美波のことを思うと、今日くらいならと夕璃は自分に言い聞かせた。


 それに主役の桜華が楽しんでいるならなによりだろう。


「初めてお酒飲んだけどすごい美味しい。いくらでもいけちゃいそう」

 芹那にもらったお酒を桜華はノンストップで飲んでいる。


「度数は低いがちゃんと水も飲まないと明日二日酔いするぞ」

「それを分かっているならなんで芹那さんはこの家で二回も二日酔いしたんですか」

 

 桜華に注意しながらも、自分が守れてない芹那に夕璃はツッコミをいれる。


 あっという間に愛の料理を完食して、それぞれが飲み物を飲みながら休憩していると、珍しく桜華が芹那に話しかけた。


「あの、芹那。編集者のバイトって募集してたりする?」


 桜華は酔っているのではなくとても真剣だった。

 前に夕璃は自分の担当編集者になりたいと言われたことがある。

 

 桜華は大人になり、自分の道を歩もうとしているのだ。


「ああ。バイトなら募集しているが編集の仕事は普通の仕事よりきついぞ」


「分かってる。それでも編集者になりたい。だから芹那さん、HG文庫でバイトをさせてください」


 その時、初めて桜華が芹那に敬語を使い、頭を下げた。

 

 桜華の本気を受け取った芹那は編集長に相談してみると言って了承した。



 今日はご飯を食べたあとすぐ解散になり、早い時間にそれぞれが帰路についた。


 美波と桜華と英里奈は帰り道に本屋に寄った。

 桜華が最近発売した夕璃の『俺ラノ』の四巻を買うためだ。


 英里奈は画集などを見ていたため、暇を持て余した美波は買いたいものがあるわけでもないが雑誌を見ることにした。


 そこである雑誌を見つけた。

 それはLGBTQについて様々なことが書いてある雑誌だ。


 開いてみるとLGBTQの取材をしたライターのコメントが書いてあった。


『私もLGBTQの中の一つのレズビアンです。最初は同性愛はいけないことだと思っていました。でも取材をしていくうちに私と同じような人にたくさん出会いました。そして、いつしか自分に自信がもてるようになり、同性愛はいけないことでもなんでもない。と思えるようになりました』


 こんな一文が美波の心を惹いた。


 美波は雑誌をレジに持っていった。



 ―次の日―

 

 春といえどまだ早朝は少し寒く、手桶を持つ手は震えていた。


 桜華の母、琴美は目的のお墓の前に着くと水をかけてやり、花を供えた。


 ライターで線香に火をつけ、お墓に置いた。

 手を合わせる前に琴美はお墓に向かって呟いた。


「桜華が昨日で二十歳になったわよ。姉さんの約束どおり、次桜華に会った時姉さんのことを全て伝えるわ」


 そう言ってしばらく手を合わせて、琴美は帰って行った。

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