第25話 親バカども
あれから三時間ほど飲み食いが続き、深夜になると愛は寝てしまった。
今まで缶ビールを飲んでいた芹那と遥斗はワインに変え、語り合いながら酒を嗜んでいた。
「さくらもお酒飲みたいなー」
「今年で俺たちも成人なんだからもう少し我慢しろよ。だいたいこの中で誕生日が一番早いのは四月生まれの桜華だろ」
「私なんて二月生まれだからまだ一年以上先よ」
美波はため息をつきながらお酒を飲めるのを待ち遠しく思っていた。
その後も未成年組はお茶やジュースを飲みながら朝までバカ騒ぎをしていた。
日が出たばかりの早朝に桜華と美波と英里奈は帰宅したが、ワインをぶっ通しで飲み続けていた二人はまた酔いつぶれて寝ている。
「なんでこいつらは酔いつぶれるって学ばないんだ……」
仕方なく夕璃は二人に毛布をかけた。
しばらくして睡魔が襲ってきて、夕璃もベッドに入った。
だがすぐには寝れず、コミカライズが決定した時のことが何度も頭をよぎった。
嬉しい反面、遥斗と同時に決定したことに少し焦りがある。
二人の小説が発売されたのも同時で、レビューなどもだいたい同じだ。
ずっと離せずにいたこの差に、夕璃は焦っている。
「愛にも小説では勝てないし俺もまだまだだな……」
夕璃は最後にそう呟いてゆっくりと目を閉じた。
ぐっすりと寝ている中、夕璃は誰かに体を揺さぶられ重たい瞼をゆっくりと開いた。
「小学生が朝早くから起きて朝食の準備をしているというのに、いつまで寝ているつもりだ?」
夕璃の目の前には相変わらず浴衣姿のカクがいた。
「げ!坂道先生、来ていたんですか」
「失礼な奴だな。昨日行くと愛に言ったぞ」
「昨日って突然すぎるんですよ。それと明けましておめでとうございます」
夕璃はもう一度ベッドに入るわけにもいかず、仕方なくリビングに行くことにした。
リビングには頭を抱えて、うなされている芹那と遥斗の姿があった。
カクに無理やり起こされたせいで二日酔いが悪化したようだ。
「早く、みそ汁をくれ……」
「昨日どれだけ酒を飲んでいたんだ」
カクは二日酔いに苦しむ二人を見て呆れた。
愛が急いで二日酔いに効くといわれているみそ汁と朝食を作っている。
夕璃とカクは出来上がったものからテーブルに運んだ。
全員がテーブルの前に座り朝食をとった。
最初は顔色が悪かった二人も徐々に元気を取り戻した。
だが完全に治ったわけではないので、二人には寝室で休んでもらい、愛とカクにはリビングでゆっくりしてもらった。
久しぶりに再会し、積もる話もあるだろうと思ったからだ。
夕璃が一人で皿洗いをしていると、愛が夕璃めがけて走ってきた。
「にぃ、初詣に行きたいです」
「そうだな。皿洗いが終わったら坂道先生も一緒に初詣に行こう」
夕璃は急いで皿洗いを終え、支度をした。
「俺たち初詣に行くけど遥斗たちはどうする?」
「僕はまだ休みたいからここに残るよ」
「私もそうさせてもらう」
遥斗と芹那は行かないので三人で初詣に行くことにした。
三人は電車で柴又にやってきた。
京成柴又駅から
正月には屋台が多く出ていてお好み焼きやチーズドック、わたあめにチョコバナナなど、子どもやカップルでも楽しめるような食べ物が多くある。
駅から降りて参道を歩こうとしたその時、目の前によく知った顔ぶれがいた。
「え、夕璃じゃん。偶然だね。明けましておめでと」
「さっきぶりだねゆうくん。明けましておめでとうございます」
「あけおめ」
そこにいたのは着物姿の桜華と英里奈と美波だった。
桜華は淡いピンク色、英里奈は水色、美波は淡い黄緑色で、みんな花柄でかわいらしい印象だ。
「明けましておめでとう。やっぱり初詣はここだよな」
柴又は夕璃達の地元に近く、小さい頃から初詣は毎年ここだった。
「お久しぶりです。本当に今日来たんですね」
「おう、久しぶりだな。それより少年、女友達が多すぎやしねぇか」
「ははは……よく言われます」
新たに三人加わり、六人で帝釈天に向かった。
初めて訪れた愛とカクは和風の建物が並ぶ参道に圧倒されている。
朝食をとったばかりなので食べ物は帰りに見ることにした。
帝釈天に着き、六人はお賽銭を取り出して投げた。
健康を願う者、今が続くようにと願った者、今までにない衝撃に出会えるようにと願った者、変わりたいと願った者、勝ち取りたいと願った者、みんなと同じ舞台に立ちたいと願った者。
それぞれが違う願いを込めた。
みんなおみくじにはいい思い出がないので引かず、すぐに元来た道を戻っていった。
「にぃ、わたあめとチーズドック食べたい」
「いいよ。今にぃがわたあめ買ってくるからね」
「じゃあ俺がチーズドックを買ってくるからな」
愛は夕璃に買ってもらった甘いわたあめと、カクに買ってもらった伸びるチーズドックを食べることができてご満悦のようだ。
その後、昔ながらの駄菓子屋に寄って愛が欲しいと言ったものは全て夕璃とカクが買った。
「あの二人、娘を溺愛する親みたい」
英里奈は苦笑しながら夕璃とカクを見つめた。
「ほんっと親バカどもなんだから」
ため息交じりに桜華はそう呟いた。
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