第23話 思い出の1ページ
憧れの二人に出会ってから夕璃は小説に、英里奈はイラストに没頭した。
一月に発売される三巻はすでに出来上がっていて、一巻と二巻を越える出来栄えだ。
約二ヶ月間小説に没頭した夕璃は久しぶりに休んで明日、愛を連れて東京巡りをする。
それに明日は十二月二十五日。
今日は平日で芹那にも仕事があり、桜華も冬休み前最後の大学だったため家に押しかけられることはなかったが、明日はみんなが家に集まりまた大騒ぎになること間違いなしなので愛と早朝から出かけることにした。
夕璃は逃げるような理由で愛と出かけるのに少し罪悪感を抱きながらも、愛にこれからは楽しい思い出がたくさんできるようにしてやりたいと思った。
―次の日―
「都会の電車は人がいっぱいでうぜぇです」
「この時間は通勤する人が多いからな」
二人は朝の地獄の通勤ラッシュを耐え抜き、夕璃が女子ならまずここだろという安易な考えで原宿にやってきた。
駅を出るとすぐ正面に有名な竹下通りがあり、二人はそこに足を運んだ。
竹下通りには派手な服や奇抜な食べ物などが多く売っており、初めて来た二人は圧倒された。
「はではでな服がいっぱいです」
「イマドキの女子はこういう派手な服が好みらしいぞ」
「イマドキの女子、怖ぇです」
二ヶ月間愛と過ごして愛は人が変わったかのように夕璃に懐いて、刺々しい口調も面影すらなくなった。
「欲しいものがあったらなんでも買うぞ」
「じゃああれ飲みてぇです」
愛が指したのはタピオカ専門店だった。
夕璃は抹茶のタピオカミルクティー、愛はいちごのタピオカミルクティーを買った。
「この黒いのぷにぷにしてて不思議な食感です。でもすげぇ美味しいです」
二人はミルクティーを飲んだあとの残ったタピオカを吸うのに苦戦しつつも飲み干した。
「次はあれ食べてぇです」
次に指したのはクレープ屋だった。
夕璃はチョコクリームのクレープ、愛はいちごチョコクリームのクレープを頼んだ。
「くれーぷ初めて食べたです。テレビでしか見たことなくてずっと食べたかったです」
目をキラキラさせながら念願のクレープを頬張る愛の頭を撫でながら、夕璃もクレープを頬張った。
徐々に楽しくなってきた愛は夕璃と繋いだ手を離さずに、夕璃を引っ張ってあちこちの店を回った。
竹下通りを一通り散策し終わった時には夕璃は疲れていたが、愛は次はどこに行くのかとわくわくしていた。
少し休憩した後、二人は電車で渋谷に向かった。
まず最初に訪れたのは今どきの服屋やインスタ映えするスポット、プリクラなどの女子の全てを詰め込んだかのような有名なビルにやってきた。
そこで夕璃は愛の服をたくさん買った。
その後、女子ウケ間違いなしの壁一面ネオンサインがあるインスタ映えしそうなスポットを見つけ、二人はそこで写真を撮り、思い出を残した。
愛の服選びが思ったより時間がかかってしまい、最後の目的地で新宿御苑に着いた時には日が暮れていた。
新宿御苑は周囲三.五キロメートルの都会に存在する巨大な庭園だ。
自然が豊かで四季によって咲く花が変わる。
春には満開の桜が一面に咲いて、とても東京とは思えないほどの美しさだ。
一時間かけて庭園を一周した。
途中で景色を楽しみながら抹茶を食べて休憩したりもした。
「やっぱり自然は落ち着くです」
「新潟や坂道先生が恋しいのか?」
「おじ様にはちょっと会いてぇです。けど今の生活の方がずっと楽しいです」
「愛が楽しいならよかった。これからは俺が楽しい思い出でいっぱいにしてやるから」
「はい!です!」
新宿御苑の壮大な景色にも引けを取らない満面の笑みを愛は浮かべた。
―同時刻―
夕璃の家の前には三人のよく知る顔ぶれが揃っていた。
「なんで今日に限って居ないのよ!」
桜華が怒りを露わにしながら呼び鈴を連打する。
「さてはあいつ、これを見越して愛と出かけたな」
「私とゆう君が最初に会った時はあんな敵意剥き出しだったのに」
芹那と英里奈は呼び鈴を壊しそうな勢いの桜華を止めながら、愛の変わりようにため息をついた。
「今日は諦めるしかないか。大晦日なら必ず家にいるはずだ」
「せめて、年越しはゆう君と過ごしたいな」
桜華が落ち着くと三人は不在の夕璃を恨みながらそれぞれ帰路についた。
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