第7話 深まる絆
三人は都内から電車で一時間ほどかかる、埼玉県越谷市の日本一大きいショッピングモールに来ていた。
主に三つの施設に分かれていて、それぞれに名前がついている。
飲食店や映画、さまざまな専門店が入っている――kaze。
多種多様なアパレルショップが立ち並ぶ――アウトレット。
スーツやカバンなどが売っている紳士、婦人向けのアパレルショップにエステやサロン、フードコートなどのサービス店が多く入っている――mori。
三人はまず始めにアウトレットを訪れた。
埼玉県は桜華と美波の実家があるので学生時代はよく訪れていた。
「日本一の大きさのショッピングモールが埼玉県にあるなんて知らなかった……」
ショッピングモールのマップを見て唖然としていた。
英里奈の驚きっぷりに桜華と美波は自分の事のようにドヤ顔で胸を張っていた。
「早くしないとこんな大きいところ全部回りきれないよ!」
英里奈は「早く早く!」と二人に催促して、先に小走りでウキウキしながら行ってしまった。
「「え?全部回るの?」」
何度も訪れたことのある二人だが一日に全部回ったことはない。
二人は顔を引き攣らせた。
三人が最初に目をつけたのは、ピンクを基調とした、中高生が好んで行きそうなインスタ映えするお店だった。
大きなピンク色のネオンの前で制服を着た高校生が自撮りしている。
一番興味を示しているのは桜華だった。
「桜華って昔からピンク色好きだよね。永遠の中学生って感じ」
「ひどい!もう立派な女子大生です!」
「たしかに。金髪の低身長っていうのがさらに幼く見える」
二人に笑われながらからかわれた桜華は頬を膨らませながら店内の服を見ている。
だが、かわいい服を見つけ手に取るとぱっと笑顔になった。
「本当に子どもみたい」
「桜華はほんと世話が焼けるから」
桜華を保護者のような温かい目で見守っている二人。
二人も何か自分に合うものはないかと服を手に取って見る。
桜華はじっくりと店内を物色し、最終的に二着の服を手に取り、悩んでいた。
「買いたい服は決まったの?」
「うん。でもどっちを買おうか悩むんだよね」
二人は桜華の元に行って悩んでいる服を見る。
一方は黒のボウタイリボンの付いたピンクのシャツ。
もう一方は薄手のピンクのニットだった。
「どっちもすごく可愛くて私は好きだけどなー」
英里奈は何度も二着の服を見比べた。
「下は決まってるの?」
「うん。これにしようと思ってる」
美波の問いに桜華はスカートを突き出して答える。
ベージュの膝上丈のフレアスカート。
「そしたらこのスカートに合うのはこっちじゃない?」
美波は薄手のピンクのニットを指した。
「わかった!じゃあこっち買ってくる」
桜華は服を抱えながら、小走りでレジに行った。
それから様々なアパレルショップを見て回った。
英里奈は白と黒を基調にした少し大人びたシンプルなお店で服を買った。
白の半袖に青とベージュのチェックのシャツ、そしてデニムのショートパンツ。
とても明るく爽やかな印象の服を選んで買った。
今三人は帽子屋に来て、それぞれ似合う帽子を探していた。
「やっぱり桜華は麦わら帽子が似合うよ」
英里奈が黒のリボンが付いたつばの広い麦わら帽子を桜華に被せ、鏡の前に立たせる。
「田舎でひたすら山とか田んぼを駆け回ってそう」
「だからなんで子ども扱いなの?!」
美波の一言にキレのいいツッコミをしているが、とても気に入ったようで桜華は買うことにした。
「じゃあ美波はこれかな」
桜華は、美波にキャラメル色のハンチングキャスケット帽子をかぶせた。
頭を包むようにふわっとした丸みを帯びている。
「うん。すごい似合っている」
二人から絶賛され、美波自身も気に入った。
そして美波は帽子の下で少し顔を赤らめていた。
「やっぱり英里奈といえばこれでしょ」
桜華と美波は同意見で、美波がグレーのベレー帽を被せた。
「英里奈といえば絵描きだし。とても似合っている」
「絵描きがベレー帽を被るわけじゃないけど私は結構好きかも」
鏡の前でいろんなポーズを取りながら帽子を取って眺めていた。
結局、英里奈も買うことにして三人とも帽子を購入した。
アウトレットを一通り見ても美波はどの店で服を買おうか悩んでいた。
美波が買うお店をゆっくり決めるため、三人はアイスを買ってパラソル付きのテーブルで休憩している。
「どこにするか決めた?」
「アウトレットにはめぼしい物はないからkazeで見てみよっかな」
三人はここで休憩してからkazeに行くことにした。
「ところで美波は好きな人とかいないの?」
英里奈は突拍子のない質問を美波にした。
「ええ、いきなりだなー」
「さくらも知りたい!高校生の時もいっつもはぐらかしてきたじゃん」
美波はこれまで桜華に何度も好きな人を聞かれたことがある。
だがこれまで一度も答えたことはなかった。
――否、答えられなかった。
「好きな人は、いるよ。でもその人には好きな人がいて、好きな人がいなくてもとても手の届く相手じゃないんだ」
――今まではぐらかしていた質問に少し答えることにした。
そろそろこの恋に終止符を打たなければならないから。
「なんか、聞いてごめんね」
「美波ごめん」
美波の心情が顔にでも出ていたのか、二人はこの話は美波にとって、とても重大で辛い問題だと察して質問を投げかけたことに罪悪感を抱く。
「いいんだよ別に。そろそろ行こっか」
そう言って話を終わらせて三人は再び笑顔でkazeへ向かった。
kazeではクレープ屋や高級チョコの店の誘惑に負けてしまい服を探すのに時間がかかったが、美波が気に入る服を見つけることができた。
グレーが基調の店内には観葉植物が沢山植えてあり、香水の匂いが漂っている。
そこで美波は黒の半袖に膝丈のフレアスカート、少し厚めの白のカーディガンを購入した。
買う予定だった服を全員が買うことができた。
ちょうど時刻は一時だったので昼食にすることにした。
といっても、服を探す道中甘いものを少し口にしたので軽めに済ませることにしてカフェに入った。
そこで、桜華は宇治抹茶プリン、美波はレアチーズケーキ、英里奈はデンマーククリームチーズケーキを選んだ。
三人とも飲み物はコーヒーにした。
一時間ほどゆっくりと話をしながら休憩した。
その後、moriで“人をダメにするクッション“を見つけた。
よくSNSで、人が使って溶けているのを見かけるが、お店に売っているのを見たのは初めてだった。
美波は本当にダメになるのかと半信半疑でクッションに体を預けた。
すると、まるで体が吸い込まれるかのようにクッションに沈んでいき、体を起こす気がなくなってきた。
「美波起きてー!」
桜華と英里奈が美波をクッションから引き上げる。
「このクッション、本当に人をダメにする。私買おっかな」
美波は一瞬でこのクッションの虜になってしまった。
美波のハマりっぷりを見て桜華と英里奈も購入することにした。
クッションは夕璃の家に送ることにした。
明日の朝には届くらしい。
その後ゲームセンターで三人でプリクラを撮り思い出を形に残した。
美波は二人に比べ、何倍もプリクラを大事そうにしていた。
最後に本屋と雑貨屋に寄った。
雑貨屋では三人お揃いの、ピンクの星型のストラップを購入した。
一日中ショッピングを満喫した三人は夕璃の家に帰って行った。
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