第2話 哀れな非道な男の過去(その1)
〜少女視点〜
家に帰ると、お父さんはいつも考え事をしている時の怖い顔をしていた。さっきのおじさんの顔も怖かったし、急に恐ろしくなってしまった私は、いつもの癖で部屋の隅にうずくまって1人震えていた。この時だけは、優しいお父さん以外、誰も私に話しかけられない。私に触れられない。関われない。今はお父さんも怖いから、世界で私は一人ぼっち。もっと怖くなってしまって、目にしょっぱい水が浮かんだ。私は震えている。世界でたった1人、震えている。
〜第三者視点〜
少女の置かれた環境は、まだまだ幼い少女には適していなかった。彼女の父親は、1人村の広場で幼少期を過ごしていたため、親というものがどのようなものなのかわからない。彼は今は村の人間として扱われていたが、この村にやってきた当時は、まともな扱い1つ受けなかった。それは彼の「特性」が関係している。その話をする前に、彼が「異端」として、この村にやってきた経緯を紹介しよう。
──────────
なんというおぞましい子であろう。赤子の時でさえ、このような残虐な表情を浮かべるとは…
「この子は異端児じゃ!即座に追放せよ!!」
驚いた老人は声高らかに叫ぶ。
「しかし、××長。この子はまだ神の選別を受けておりません。」
今回ばかりは老人の作った設定がもどかしく思える。
「そうであるがお主にはこのおぞましい顔が見えぬのか!」
恐ろしくなった老人は叫ぶ。
「この赤子には悪魔が宿っているのだ!××長の名において、このワシが断言する!!」
この老人は「天使と堕天使」を扱う古臭い差別的な俗に言う邪教の教皇である。この老人自体が異端であり、大陸から追い出されたところへ、この島へたどり着いたのである。当時はいくつかの村に別れながらも、目立った争い等もせず、平和に過ごしていた島民達であるが、この老人の登場によって、環境は一変した。もともと少数の人間が合わさって村となり、いくつかの集落を開拓していたのだが、老人はそのうち特に仲の良かった2つの村を統合し、武器を与えた。自分は神の化身であると嘘をつき、自分の宗教を広めていったのである。あとは自然に事は進んだ。穢れし教えに洗脳された最初の2つの村の村民は、欲を持ってしまった。この島を自分たちのものにしたいという。老人は彼らを自分こそが頂点であると洗脳し支配していたが為に老人は島の頂点に立った。これ以降、村の子供の3歳の誕生日にはかならず立ち会い、神の名を借りて、街民の選別を行っていたのである。自分が管理しきれるであろう人数に絞り、気に入らない子を追い出し、自分だけの理想郷を作り上げたのである。
(この時、追い出されたある賢い双子が動物に育てられたのが、異端の村の創始者であるが、これは後に紹介しようと思う。)
また、森を穢れているとしているのは、自分の子供可愛さに、街を出ていく輩が現れないようにするためである。森への侵入を許してしまえば、「狩猟に出かけていた。」と嘘をつき、子供を育てることが出来てしまう。小賢しい狂った老人は、自分の理想郷を作る為であれば、いかなる理不尽も平気で行う。それこそがこの老人の教えが邪教だと言われた理由であり、異端だと大陸を追い出された理由である。
さて、話を戻そう。新たな子が生まれた時、老人の元へ向かえば穢れはなくなる。という教えを信じてしまった可哀想な夫婦が居た。この子は違うであろうと老人の元へ向かうと、案の定先の騒ぎである。老人も、まったくの無能という訳では無い。この世に生きる、「悪しき者」を多少なり、感じ取れる。しかし、本職の聖職者とは違い、微かな雰囲気を感じ取れるだけであるが為に抽象的になってしまい、結果的に宗教となってしまったのである。
この赤子を見た時、老人は初めて悪しき者を見た時と同じような悪寒がした。その感覚に驚いていた老人にさらに追い討ちをかけたのが、赤子の禍々しい笑みである。臆病風に吹かれてしまった老人は、後先を考えず、理想郷から追い出さなければと思い、先の発言へと至った。その発言が周囲の街人の不信感を生み出すとは知らずに…
この街に住む以上、老人の言ったことは絶対である。結局、生まれたての赤ん坊であるのに村を追い出され、森で弱って死んでしまった。
はずだった。
この赤子の死体は偶然狩人が発見し、まだ死体が綺麗な状態だったため、村へ持ち帰って埋葬する事になった。墓に埋められた翌日、土まみれの7才位の子が、広場に横たわっていた…
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