異端
Chiroro1023
第1話 非道な男
孤島、ロンリネス。ここには、神の祝福を受けた者と、そうでない者、異端が住んでいる。
異端とは、この世に生まれ、3歳を迎え神の選別を受けた際、祝福を受けることが出来なかった者の事であり、その場合、裸で「穢れし地」に放り出される。
彼らの殆どはそのまま力尽きてしまうが、中には野生の動物(ここに生息している生物の殆どは「穢れ」ているとされている。)に育てられ、別の動物として生きていったり、異端の村に拾われ、不便な生活を長く続けたりする者もいる。
これはそんな村に住む、1人の少女の話である…
――――――――――――――――――――
「なんで私は外へ出ちゃ行けないの?」
無邪気にそう質問してきたのは5年前に村周辺の森で拾った少女である。少女に名はない。そして、ここの村に住む者は村長(むらおさ)以外名を持たない。
「なんども言っているだろう?村の外は危険が多い。お前のような子供が行ったら、瞬く間に死んでしまう。」
実際そうであるのかと問われるとはっきりと答える事はできない。我らは齢12を迎えた時、「真実」を村長に語られる。森を抜けた先にある街を追い出され、この地に追放されたという真実を。この事は12歳未満の子らに知らされないよう、厳重な管理が施されている。村の中は愚か、狩りの際でさえ、この事を話題にするのは固く禁じられている。仮に口にした場合、村から永久に追放され再来の時は侵入者同然の扱いをうける。
「12歳になるまで待ちなさい。」
「はぁい。」
少女は不満そうに私の言うことを聞き入れ、外へ出ていった。
〜少女視点〜
向かいに住んでるおじさんが、お父さんに頼めば行かせてくれるって言ってたのになぁ。
大人達しか知らない事を、私は知ってる。内緒って言われたから、近所の友達には教えられないけど、実はこの村を囲んでいる森を抜けると、街に出るんだ。いつも木の実をくれる優しい向かいのおじさんが言うんだから間違いない。でも、今まで出ては行けないと言われていた外に、お父さんに内緒で行くのは何かいけない事をしている気がしたから、お父さんに相談するとおじさんに言って、お父さんに話した。ダメだと言われてしまったのでまたおじさんの家に来た。
――
「そうか、ダメって言われちゃったか。」
私がさっきあったことを言うと、おじさんからはこう返事された。
それと、こうも言われた。
「お父さんに内緒でいっても大丈夫だよ。村の外は本当はとても安全で、その街までも迷うことはないよ。」
と。でも、その時のおじさんの顔はすごく怖かった。街はすごく面白そうだけど、なんだか不気味だったから、そのままその日はそのまま家に帰った。
〜父親視点〜
最近、娘の様子が変だ。娘と言っても、この子は本当の子供では無い。
〜〜
「おいお前、向こうへまわってくれ。2人で挟もう。」
「わかりました。」
指示をだし、自分は真っ直ぐ獲物を追いかける。大きく刺激してはいけない。獲物にスピードを出させすぎると、指示をだした先程の男が追いつけないかもしれないからだ。獲物から目を離さず、ひたすら追い掛ける。そろそろだろうか、そう思った矢先、獲物が何かに引っかかり盛大に転んだ。チャンスとばかりに矢を射る。村1番と評される自分の弓の腕は自慢ではないが並のものではない。矢は正確に得物の頭に突き刺さり、脳天を貫いて一撃で絶命させた。
「流石ですね…」
後に合流した回り込んだ奴と合流し、獲物を仕留めたことを伝えた。全速力で走ってくれた彼には申し訳ないが、獲物を捕らえることが出来たし、終わりよければ全てよし。である。
絶命した獲物を縛り上げ、担いだところでふと肌色の物体が目に入った。近づいてみると、それは人の形をしていて腹部には痛々しい痣があった。恐らく、また街から捨てられた子供であろう。彼らは我らが穢れていると思い込んでいるため、この子には手も触れなかったはずだ。息はあるのかと口に耳を当ててみると、微かに息があった。
「また街からの子ですけね…全く、惨いことをする。」
「口にするんじゃない。さあ、獲物を持ってくれ。この子を助ける。」
帰路は特に何も無く、無事村に着くことができた。獲物の解体を任せ、村長の所へ向かう。入村を認めてもらうためである。
「村長、森で子供を見つけた。この村に住まわせてくれ。」
この村では全ての決定権は村長にある。無論、余程のこと出ない限り許可を出してくれるのがこの時は違った。
「許可できん。」
「何故だ?」
「これ以上、人を増やせばこの村に住む人間全員を食わせていくことが困難になるからである。最近、森の動物が減っているのは知っているだろう?それは何故か。例の街の邪教徒共が穢れを取り払うと森を燃やし、数多くの動物達を無差別に殺した。」
決定権は村長にある。それはつまり、村長は如何なる掟にも縛られない事を意味する。故に例の件を話すのも自由なのである。
「つまり今までよりも食料が減ってしまう。故にその子を入村させることはできん。その子には悪いがな。」
村長は何故森の外の出来事を知っているのか。それは村長本人と傍付きに任命された2人しか知らない。無論口外は禁じられており、2人から聞き出す事は無理である。そもそも、掟を破るような奴に傍付きは任せられない。
「そうか。残念ながら俺はその考えに賛成できない。」
「逆に問おう。何故だ?」
「村長、あなたの話は《裏山》の存在を抜いた時の話だ。あそこには美味い「魔物」が山ほどいる。」
そう、この村の裏側…つまり、街が無い方面には鬱蒼とした森が広がっており、中には動物よりも凶暴で凶悪な「魔物」が生息している。通常、魔物の強さというのはその場所の「魔素」の濃度に比例する。本来であれば、魔物というのは筋が張っていてあまり美味しくないものらしいが裏山に生息している魔物の肉は焼くだけでも相当な味を出す。
「しかし、上手い話だけではない。良い話にはそれ相応のリスクも存在する。裏山は魔素濃度が高いため稀に「脅魔」も出現する。脅魔とは、魔物が進化し高い知能を得た者のことであり、魔物とは基礎能力は同じだが知能が少し高い故に厄介である。また、魔物を従わせ一定の軍勢を築くのも厄介さの一因である。
しかし、発生するのは魔素濃度の高い奥地であるが故に、注意すればそこまで危険ではないが…」
「確かに危険はある。しかし、前々から裏山には手を出したかったのだ。陣形の新たなプランがある。その方法とは…」
私は村長の話を遮り、前から目をつけていた、裏山での比較的安全で効率的な狩猟方法を考えていたのである。
その陣形とは、魔物を罠にかける狩猟法である。私が狙っているのは、最も浅い位置に主に生息する、「アングリーボア」である。「怒る猪」と言う名前の通り、人間を見つけると文字通り猪突猛進してくる。それを逆手に取り、猪と人間の間に気付かれないよう罠をはり、挑発し、狩るという事だ。
「なるほど。その方法であれば少なからず危険は減るであろう。アングリーボアの恐ろしく利く鼻の存在を抜けばな。」
私は、自分に失望した。私は、魔物の持つ特徴を頭にいれず、作戦を練っていたのである。村民は基本、生きるのに最低限必要なことのみを知って生きていく。無論、申請すれば知ることは可能であるが、そこまで頭に入れていなかった。狩人失格である。
最早なにも言い返せなくなった私は、黙って村長の家を去った。
先程の狩り仲間の元へ向かう。
「あ、先輩。よかったです。外傷だけで内臓はどうってことないです。」
解体を他の仲間にまかせ、少女の治療に専念していた男である。
「それはよかった。がしかし、その子は森へ返さねばならん。」
「何故ですか?」
男が心底不快そうに尋ねてくる。
「村長からの許しが出なかった。これも村のため。辛いのは私も同じだ。」
「くっ…」
自分も助かってしまうが故に、言い返せない。この世の理不尽さを理解しているこの村の成人達は、自分を犠牲になどしない。それが如何に普段できた人間であろうと、自分の利益には素直である。と、思っていたのだが…
「なら自分が、裏山から獲物を取ってきます!」
彼は言うやいなや、裏山へ一直線に走っていった。1人で裏山へ行くなど自殺行為である。しかし何故だろう。彼は余程素晴らしい心を持っているのに、それを見せられた私に、共に行くという考えは浮かばなかった。
ただ、彼が死ねば少女は助かるであろうという酷く残虐で、非人道的な考えを膨らませていた……
その後、彼の男が帰ってくることは無く、少女は村へ迎え入れられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます