第2章

僕には3つ下の妹がいる。妹の高橋琴音は、今年で22歳になる大学生。彼女は臨床心理士になる夢を追いかけて、心理学部で勉強している。琴音は、パニック障害だった。自分と同じように苦しんでいる人を助けたいのだという。そんな琴音を、僕は全力で守ってやりたいと思った。パニック障害について独学で学び、学生時代は心理学部の友達に勉強を教わっていたこともある。それでも僕にできることには限界があった。

琴音のパニック障害は日に日に悪くなっていった。僕は近くで苦しむ琴音をどうしても救いたかった。けれど無力な自分に嫌気が差す。そんな辛い時期を過ごしていたある日、本屋で一冊の本に出逢った。それは冊子形式の自己啓発エッセイ本だった。題名に惹かれ、その本を手に取った。

「貴方は貴方のままでいい」

それがその本の題名だった。なぜか心を奪われた。それは自分にそう言ってもらえた気持ちになったのか、はたまた琴音にそう言ってあげたい気持ちからだったのかはわからない。ただその本を手に、僕はレジに向かっていた。

 本の内容は心理学を基にしたエッセイ集。その言葉の一つ一つに、自分を受け入れてあげよう、という気持ちが込められていた。たったの30ページほどしかないその本を1時間で読み終えた僕は、気付かないうちに涙していた。この本に出逢えたことに心から感謝した。そしてふと、この本を書いた人はどんな人なのか、それが無性に気になったのだ。本の最後に、少しだけ著者のことについて述べられているページ見つける。どうやら年もさして変わらない心理学部を卒業した20代女性が書いたようだ。小さく載っていた彼女の顔を、その時はあまりはっきり見たわけではなかったが、なぜか彼女に会ってみたいという気持ちだけが強く残った。

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