六十二 しじみ売り
近くの川で、流されていく男の子と女の子を助けに飛び込んだ若い男が土左衛門になって見つかったことがありました。
仕事の帰りに一緒に歩いていたその友達の話によると、男の子と女の子は頬を寄せ合って微笑みながら流されていたようで、そいつが川に飛び込むのを止めようとしたけれど間に合わなかったということでした。
その川べりで、手頃な石を袂や懐に入れる男の子と女の子を見つけて声をかけた年寄りが、その子らに袂や懐に石を入れられて川に突き落とされたこともありました。
「きっと浮かばれない子供の霊の仕業だよ」
朝、井戸端で近所のおかみさん連中がそんな話をしていると、
「そう言えば変な子供がうちに上がり込んだことがあってね……」
と一人が話し始めました。
「夕飯の支度をしているときに挨拶もなく入ってきて、最初はうちの子かと思っていたのが、見ると見知らぬ子供だったから、てっきりうちの子の友達かしらと声をかけたら、勝手に戸棚を開けたり押し入れを開けたりしてね、もう御飯時だから親が心配しているよ、って言っても帰らないんだよ」
すると、うちにも来たよ、と他にも声が上がったけれど、それがどこの子だか誰にもわかりません。
それへ通りかかったしじみ売りが天秤棒を下ろして、どこの子供か教えてくれました。
「一日中家で酔っぱらう父親とその子を捨てて母親が男と逃げたから、行くところがないんだよ」
このしじみ売りは子供ながらしっかりした子で、おかみさん連中もずいぶん贔屓にしていました。
「もしかしたら、近所で怪しいことが起こってないかい?」
思い出したようにしじみ売りが言いましたから、さっきの川の話をしたら、
「その子が、上がり込んだ家で邪険にされると、そんなことが起こるんだ」
と言います。
「どうしてそんなことがわかるんだい?」
尋ねましたら、
「おいらもそうなんだよ」
笑ったしじみ売りの顔を見ながら、
「そう言えば、あんた、ずっと子供のまんまだ……」
古顔のおかみさんがはじめて気がついたように言いましたら、周りを子供が何人も走り抜けていく足音が聞こえました。
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