十六 まがい物

 料理人やら細工職人やら、転々と職を変えて、今は河童の手だとか人魚の子だとか、そんなまがい物を拵えては、そういった怪しげなモノばかりを扱う仲買人に売りつける男が知り合いにいた。

 手先が器用で、たとえばこいつの手から生まれる精緻な髪飾りに敵う職人はいないほどの腕前を持っている男だったけれど、どうにも飽きっぽい上に、どんどん奇妙奇天烈なモノを作るようになったあげくにいかさま細工にのめり込んだという奴だ。それが久しぶりに私を呼んで、どうだ、と見せたのが、三尺四方の古い木箱の上に腰掛けた鬼だった。立てばおそらく七尺はあるだろうという身の丈で、頭には二本の角がある。これにはさすがに目を見張って、

「どうやって作ったんだ」

 と聞いたら、

「八尺近い大男の屍骸をたまたま見つけて身内だからと偽って持ち帰り……」

 言いさしたから、

「持ち帰って、どうしたんだ」

 先を促すと、男は笑いを含んだ表情で、

「あとは聞かないほうがいい」

 と言って、

「だから、高く売れるんだよ」

 懐に手を入れて受け取った手付け金を見せた男は、その晩、料理屋で酒を振る舞ってくれた。俺は酔いつぶれたそいつを背負って連れ帰り、まがい物の鬼の前に寝かせてやった。

 翌日、何だか気になって朝のうちにその男の家に行ってみたら、男は白く縮んで死んでいた。よく見たら、首筋に噛まれたような傷があって、どうやらぐっすり眠り込んでいるうちに、そこから血を吸われたようだった。

 目の前にあるまがい物の鬼を見上げると、歯にわずかな血がついていたから、これが男の血を吸ったに違いない。

 そうこうしているうちに、大きな厨子を背負った仲買人がやってきた。

 はじめ、仲買人は驚いたけれど、背負ってきた厨子の中にまがい物の鬼を丁寧に入れると、愛想笑いを見せて出ていこうとする。

 俺が呼び止めると、

「そうそう、ずいぶんお世話になっておりましたから、これをお弔いの……」

 と言いながら、わずかな金を紙に包んで差し出して、それとは別に、

「こっちはあなた様の手間賃ということで……」

 とやっぱり金を紙に包んだ。

 何年かして旅先で立ち寄った寺院の開帳で再びこれとまみえたときには、少なくはない見物料を取られた。

 そのときのまがい物の鬼は、わずかに開いた口から、幽かな血の匂いを吐きながら、その黒い眼窩で俺をじっと見ていた。

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