六 女衒

 郭の用心棒にならないか、と声をかけられましたのは、泊まり合わせた木賃宿でした。私に声をかけた男は、いずれも十歳ぐらいの女の子を四人、男の子を一人、連れておりました。

 聞けば、四人の女の子は遊郭に売られる娘達で、男は女衒でした。男の子は、勝手に女衒についてきている、ということでした。

 その女衒が、私のどこを気に入ったのか、用心棒の話から女郎の話、それから稼業の女衒の話に至ってよくしゃべりました。

 女衒が一息ついたところで、どうして女衒を稼業にしているんだ、と尋ねましたら、

「ときどき聞かれますよ。血も涙もない鬼のように言われる女衒ですからね、みんな不思議に思うんでしょうよ」

 自嘲気味に笑って女衒は、

「昔ね、幼心に惚れていた隣の娘が売られることになりまして、それで、連れていく女衒についていったんですよ。途中で、隙を見てその娘と逃げようと思ってたんですよ…… 莫迦な話でしょ。そんなことをすれば、金をもらっている親が困ることぐらい娘も承知していますからね。でもね、あっしがくっついていった女衒はたいしたもんでした。あっしを叩きのめしてまだついてくるのを、そのうちに使いっ走りにして、いつのまにかこんな女衒に仕立ててくれましたからね」

 そこで女衒は昔を懐かしむように眼を細めて、一服、煙草を喫んで、

「取り返そうとした娘は、結句、女郎になりましたけれど、女衒になったおかげで、あっしはずっとその女の近くにいられました」

 そこでぽんと灰を落として、

「女は年季が明けるまで勤めて、それからあっしの女房になってくれました」

 そう言って煙管をしまうと、眠りこけている男の子に視線を投げました。

 そのころ、行き場のなかった私は、女衒に誘われるままに郭の用心棒になりました。

 私は、女衒の家にも連れていかれて、女房にも会わせてもらいました。

「よく聞かされております」

 女房は気さくに笑って、

「この人、うちに帰ると、旅先で聞いた面白い話をしてくれるんですよ」

 などと楽しそうに話してくれました。もちろん、売られていく娘達の哀しい話には、二人とも触れないようにしていました……

 それから数年して、軽い咳がいつまでも止まらない女房を気にしながら、娘を買いに旅に出ていた女衒が帰る前の晩に、女房は亡くなりました。

 弔いが終わって、

「亡骸を見ても、涙の一つも出ませんでしてね、やっぱりあっしは鬼かなんかになっているんですかね……」

 女衒は、私に語ると、位牌に向かって淋しげに笑いかけました。

「それでもね、旅先で耳にした面白い話は聞かせてやりたいと思っているんですよ……」

 私は、きっと聞いていますよ、と応じました。

 それから一年ほどして、木賃宿で女衒についておりました男の子が呼びにまいりまして会いにいきましたら、

「このあいだ、旅から帰ると、女房が生きていたときとおんなじように迎えてくれましてね、あっしの話をきいてくれたんですよ」

 女衒は、うれしそうに話して息を引き取りました。

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