五 木乃伊党

知り合いの商家の主人に、古い武家屋敷を買い取ったので見にこないか、と誘われて昼過ぎに出向いたら、蔵の中から木乃伊が出てきたので、大騒ぎになった。

 見つけたのは、新しく雇われた女中で、言いつけられて一人で蔵の中にあるものを庭に出していたところ、汚い布に巻き付けられたものが転がっていたので、それをめくってみると、人の頭が見えたと言う。庭の植木に手を入れていた職人の一人に女中が知らせて来てもらって外に出してみたら、これが膝を抱えた木乃伊だった。

 驚いた植木職人が伝えたから、主人をはじめ皆が集まった。

 他にもないか、と主人が番頭や手代に言いつけて蔵の中を探させたところ、五つの木乃伊が出てきた。いずれも一様に白い布が巻き付けてあって、それを取り除いてみると、下帯一つ付けただけの屈強な男たちであった。

 いったいどうしてこんなものがあるんだと一同首を捻っていたら、最初に木乃伊を見つけた女中が、今度は古い書き付けを持って蔵から出てきた。それを主人が慎重に開いて読んでみたところ、それら木乃伊は、木乃伊党と呼ばれる武士の一団であることがわかった。その証しに左肩に黒子に似せた墨を入れてある、との記述に、主人が確かめさせると、それぞれの左肩に入れ墨があった。ただ、その数が違っていたので、よく調べたら、一番から六番を示しているようだった。

 いくさの手が足りないときにこれらを貸し与えて対価を得ていたのだろう。七体の木乃伊の名前と肩の入れ墨の数、それにそれぞれの値も、そこに記されてあった。

「七体?」

 不審を口にして主人が数え直してみると、やはり木乃伊は六体しかない。まだ蔵の中にないか、という主人の言葉に、また何人か蔵に入っていったけれども見つからない。肩の入れ墨の数から、

「見つかっていないのは七人目か……」

 主人が書き付けを見直したら、見つかっていないのは女であるらしい。

「とにかくお役人に来てもらえ」

 駆けつけた役人は、女中や植木職人から見つけたときのことを一通り聴き取ると、六体の木乃伊と書き付けを下役に運び出させて引き上げた。

 それで皆が蔵の前から散り始めたところで、件の女中をつかまえて、

「お前が七人目か」

 私が尋ねたら、

「わかるかい?」

 間諜として働いていた女は、木乃伊に戻るのが嫌で逃げ出したと言う。他の六人は、逃げ出すことができないまま、木乃伊として行方が知れなくなっていたらしい。

「でも、これで気が済んだ」

 そう言って、女中は日が暮れる前にふらりと出ていって帰らなかった。

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