第3章

合コン当日、別に勝負服を着る必要もなかったが、それなりの服を着て美咲を待っていた。美咲と会うのは、お互い仕事が忙しくなんだかんだで半年ぶり。合コンより美咲に会うことの方が楽しみだった。今日合コンをするのは偶然にも、私がいつも仕事をするときに使っている行きつけのカフェ。なんか自分のテリトリーで合コンって気が引ける…なんて思いながらも、人数合わせならと思ってあまり気にすることはなかった。美咲と合流後カフェに向かうと、なんともキラキラした女子軍団が目の前に現れた。美咲の職場の同僚らしい。美咲を含めた彼女たちは、携帯会社のオフィスレディだ。色鮮やかな洋服に輝くアクセサリーをまとい、フワフワの髪の毛が風になびいている。ああ、世界が違うわ、と私は心の中で苦笑いした。

「お疲れ~この子、大学時代の親友の鈴木楓さん!今日参加してくれることになったよ」

と美咲に紹介されるがままに、キラキラ女子軍団に挨拶を済ませた。見た目は派手なものの、みんなとても気さくで優しい人ばかり。普通に友達として仲良くなりたいとさえ思わせてくれるメンバーで、私はとても安心した。

 しばらくすると男子メンバーが到着した。今回の男子メンバーはみな、IT企業に勤めているサラリーマンとのこと。私の職業ではなかなか出会うことのない業界の人々なので、純粋に新鮮さは感じられた。男子メンバーが到着したことで合コンは開始され、自己紹介が始まった。

「今年24歳になる鈴木楓です。仕事は一応、心理学を基に本を書いてます」

まあ、まだ大した仕事はしてないけど、と心の中で付け加えたが声には出さなかった。

「あれ?楓ちゃんだけは仕事が違うの?」

と男子メンバーの内の一人が言ったことで、私への注目度が一気に上がってしまった。困ってうまく対応できずにいると、代わり美咲が説明をしてくれたことで助かった。おかげで私への注目もおさまり、各々が会話を交わし始めた。

 私は相変わらずアイスカフェラテを飲んでいると、さっきまで美咲が座っていたはずの隣の席に一人の男性が座った。

「楓ちゃん、大学で心理学を学んでいたんでしょう?俺の気持ちとかわかっちゃったりするの?」

とニヤニヤ聞いてきたのは、男子メンバーの中で一番ムードメーカーのような存在の人だ。なんかバカにしてる?なんて思ったりした自分を無視して、

「いやいや、心理学やってたからって心までは読めたりしませんよ~」

となんとなく返事をしたけれど、その男性からの質問攻めは始まってしまった。ちょっと辛い状況だな、と思いながらも私は必死に笑顔を作って話し続けた。話が途切れないままアイスカフェラテだけが減っていく。なくなったのをいいことに、私は追加を購入するため席を立った。

「やっと抜け出せた…」

追加の飲み物を買いに行く前にお手洗いに寄った私は、思ったより疲弊していることに気づいた。その瞬間、お手洗いのドアが開く。そこにいたのは美咲だった。

「楓、大丈夫?ずっと葉山さんに捕まってたね」

あの人、葉山さんっていうのか…出会い目的ではない私は数名の名前しか覚えていなかった。

「なんか初めてだからちょっとだけ気疲れしちゃったかも、でも大丈夫だよ!」

と元気に返事はしたものの、あまり楽しめていないのが本音だ。そんな私の様子を察したのか、

「嫌なことがあったらすぐ私に言ってね」

と優しい言葉をかけてくれた美咲に、今度は本物の笑顔を向け、私たちはお手洗いを出た。

 私だけ追加の飲み物を買うためにレジへ向かう。

「あっ…」

レジにいたのは、先日テーブルに追加のアイスカフェラテを持ってきてくれた店員さんだった。

「いらっしゃいませ、本日もご利用ありがとうございます!」

そう言って、またあのクシャっとした笑顔を向けてくれた。彼を正面からしっかり見るのは初めてに近い。よく見ると、私より全然若そうな印象だった。なんなら大学生と言われても違和感はない。髪型は今どきのマッシュヘアーで、綺麗な明るい茶髪が更に若々しい印象を与える。身長は低すぎず高すぎず平均的と言っていいだろう。名札には「高橋」と明記されていた。

「あ、アイスカフェ…やっぱり抹茶ラテのアイスで」

と私は、久しぶりにアイスカフェラテ以外の注文をした。なぜかこの店員さんにアイスカフェラテを注文するのが恥ずかしく感じたのだ。

「今日はアイスカフェラテじゃないんですね、珍しい!」

と、またあのクシャっとした笑顔を向けられる。この人よく笑うし、語尾がいつも元気だな、なんて思いながらお会計を済ませる。私が抹茶ラテをもらって席に戻ろうとした瞬間、後ろからさっきまで聞いていた声で名前を呼ばれた。

「楓さん!あの、ちょっといいですか?」

そう言ったのはさっきの店員さんだった。私は訳もわからず立ち止まると、店員さんは何かバツが悪そうに話し始めた。

「店長が新作を作ろうとしていて僕も手伝うんですが、常連さんの楓さんに意見もらって参考にさせていただきたいんです!」

「あ、はい…私の意見なんかが参考になるなら…」

あまり話の内容を理解しないまま返事をしてしまったが、私はそう答えた。

「ありがとうございます!次のお休みっていつですか?」

「えっと、明日の午後は仕事ないですね…」

「じゃあ、明日の13時に新宿駅の南口辺りに来てください!よろしくお願いします!」

と一方的に言い残し小走りでレジに戻る彼の後ろ姿を見ながら、私は茫然と立ち尽くしてしまった。なんか嵐のような人だな…そう思い、私はその後の合コンもあまり集中できずに時間が過ぎていった。

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