第40話 俺と村長さん一家と手紙

 セーラは小さく笑いながら、流した涙を手の甲で拭う。

 そうして「皆を呼んでくる」と言い残して、足早に寝室を後にした。


 それからすぐにジュリとジーナちゃんがすっ飛んで来て、少し遅れてアデルさんと村長さんもやって来た。

 俺が眠っていたのは三日間だったから、もうとっくにジンさん達は村を出発してしまっただろう。

 最後に挨拶ぐらいしたかったな……と思いながら、俺が意識を取り戻したのを喜んでくれる皆と話していると、


「あっ、そういえばね……はいっ、コレ!」


 ジュリが俺に、一通の手紙を差し出した。

 差出人の名前はジンさんだ。


「お父さん達、レオンさんが目を覚ますまで出発を遅らせようかって話してたんだけど……」

「お手紙に、レオンお兄ちゃんに言いたいことが書いてあるから……って、お父さんが言ってました」


 ジュリとジーナちゃんの言葉からして、やはりジンさんやオッカさん達が出稼ぎの旅に出た後だったらしい。

 日常的に大量の魔力を消費する生活をしているならまだしも、今の俺は体力も落ちて、身体を壊している。そんな状態なのに大規模な転移魔法なんて使ったもんだから、何日も死んだように眠り続けてしまっていた。

 自業自得という他ないが、


「そのお手紙、後で読んであげて下さいね……」


 とジーナちゃんに言われ、俺の無事を確認した村長さん一家はひとまず部屋を出て行った。

 そうして最後に「今日一日はここで休んで、明日からは自宅で大人しくするように!」と村長さんに言われた。

 再び一人になったところで、ジーナちゃんの言葉に従って、ジンさんからの手紙に目を通す。



 ────────────




 レオンへ


 お前の目覚めを待たずに出発して、本当にすまない。

 だが、レオンが学校で先生をしてくれるとオッカとバーモンに話したら、やはり今日出発すべきだという結論に至った。

 お前は身体を治して、オレ達は学校を建てる資金を調達する。

 それが今の俺達に出来る、お前への『本気』の対応だと思ったからだ。

 次にオレ達がルルゥカに帰る時は、王都の大工達と一緒のはずだ。

 その時に、元気になったお前の顔を見せてくれ。


 ジンより




 追伸


 お前がまたもやこの村の為に動いてくれたこと、どれだけ感謝してもしたりない。

 急に家を飛び出してったかと思ったら、倒れたお前を連れて来たセーラにも驚かされた。

 それにな、近くを通りかかった王都の騎士団も駆け付けてくれてたんだぜ?

 そいつらも、あのドラゴン達を追い返すのに協力してくれたんだ。

 どうやら騎士団は、人探しをしているらしい。もし村に怪しいモンがやって来たら、その時は王都騎士団に連絡してやってくれ。




 ────────────




「王都騎士団が、あの場に来ていたのか……」


 ジンさんの手紙を読み終えて、当時の状況を思い返す。

 俺が転移魔法でドラゴン達の水魔法を阻止して、魔力枯渇で倒れた。

 その後で誰かに助け起こされたような気がしたが、その正体は、村長さんの家から飛び出してきたセーラだったのだろう。

 それから……そう、遠くから馬の嘶きが聞こえた。

 今となってみれば、それは村の異変を察知して駆け付けたという、王都騎士団の馬だったのだ。

 騎士団であれば、ドラゴンの群れにもある程度対処出来るだろう。

 それに優秀者だらけの王都の騎士だ。もしかしたら、俺が出なくても騎士達がどうにかしてくれていたかもしれないな……。


「それにしても、王都騎士団が人探しねぇ……」


 わざわざ王都騎士団を動かして探すような人物だ。

 相当な危険人物でも取り逃がしたか、もしくは貴族の誘拐事件でもあったのだろうか……?


「……まあ、俺にはそこまで関係無い話だろうな。もし怪しい奴を見かけたら、すぐに通報すれば大丈夫だろ」


 ジンさん達の旅の無事を祈りながら、俺はもう少しベッドで横になる。


 しかし、この時の俺は知らなかった。

 まさかこの騎士団の件が、少なからず俺に関係のある内容だったとは……。

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