第8話 俺とおっさん達とごはん
ルルゥカ村までの道のりは、比較的穏やかなものだったと思う。
道中に魔物が出たりはしたのだけれど、ジンさん達が『病人を戦わせるワケにはいかねぇからな!』と言って、馬車を飛び出して討伐してくれているからだ。
確かに俺は、身体を壊している。一見普通そうに過ごしていても、俺は単に鎮痛薬の力に頼っているだけ。薬の効果が切れれば、あっという間に激痛が襲って来るだろう。
それに、屋敷で鏡を見た時から感じていたことがある。彼らにも指摘されたが、俺の顔色はどうみても青白い。
激しい運動なんてしたらいつ倒れるか分からないような、一目見ただけで「あ、こいつそのうち死にそうだな」とか思われるレベルの状態なのだ。
エルファリア邸では毎朝化粧をしてごまかしていたものの、本来あれは俺のような平民が気軽に使って良いような品じゃない。
おまけに、俺は男だしな。使っていた化粧品は自分の物ではなく、ラスティーナが飽きてしまったブランドのお下がりを拝借していた。それは屋敷に置いてきてしまったので、目の下のクマや荒れた肌を隠すものが何も無いのだ。
だから余計に、ジンさん達に気を遣わせてしまっているんだろう。
ルルゥカ村に着いたら、出来る限り恩を返せたらいいんだけどな……。
少し話が脱線してしまったが、とにかくジンさんとオッカさん、バーモンさんの三人は次から次へと魔物を倒してくれた。流石はプロの魔物ハンターだ。
そうこうしているうちに時刻は昼を迎え、一度休憩を挟むことになった。
しばらくずっと座りっぱなしだったのもあって、馬車から降りた時に思いっきり伸びをして、身体をほぐす。
御者のおじさんには失礼だけれど、俺達が乗ったのは程々のランクの箱馬車なので、椅子のクッション性がそんなに良くないのである。うぇー、お尻いたい……。
だがまあ、節約しようと決めたのは俺自身なので、文句は口にしない。心の中だけに留めておきます。
それから間も無くして昼食を摂ることになり、俺は屋敷を出る際にルーピン爺さんから貰ったクッキーを食べることにした……のだが。
「バッカおまっ、菓子だけじゃ栄養偏るだろが!」
「今朝買っておいたパンとチーズがあるから、レオンくんはこれをお食べよ……!」
「過労で身体壊したんなら、ちゃんとした飯を食う習慣をつけなきゃどうしようもねぇだろ?」
……とまあ、三人からめちゃくちゃ心配されて怒られました。
おかしいな……俺、これでも歴とした成人男性のはずなんですが……。
結局押し付けられるような形で美味しそうな薄切りパンとチーズを頂いてしまい、それを挟み込んでもぐもぐさせてもらった。実際美味かった。これぞシンプル・イズ・ベストというやつである。
でも食べ終わった後、火属性魔法で軽く炙った方がもっと美味くなったんじゃないかと後悔したり。
その後、食後のデザートとパンのお礼としてジンさん達にクッキーをおすそ分けして、四人の和やかな昼食は終了。食後に痛み止めもしっかり飲んで、少し時間を置いてから再び馬車に乗り込んだ。
*
夕方。馬車が辿り着いたのは、王都から南下した位置にあるケルパという町だった。
ここの馬車乗り場で一度乗り換えをして、そこから別の馬車で改めてルルゥカ村に向かうらしい。
しかし、時間的に夕方以降は馬車が出ない。夜は魔物の行動が活発化するうえに、日中よりも危険な魔物がうろつくことがあるからだ。
「仕方ねえことなんだが、今日のところはケルパで一泊するぞ。レオン、お前もオレ達と同じ宿屋で構わねえか?」
「はい。問題ありません」
「よっし、それならいつもの宿屋で良いな! 早速だが、ついて来てくれ」
ジンさんの案内で、俺達は夕焼けに染まったケルパの町を歩いていく。
王都から近い土地ではあるものの、この町はそれほど派手な場所ではないようだ。
宿に向かいながらあちこち観察してみたところ、静かで落ち着いた雰囲気が楽しめる町らしい。
しばらく歩いていくと、目的地である宿屋が見えてきた。丁度四人部屋が空いているとのことで、それぞれで料金を出し合って部屋の鍵を受け取った。
ジンさん達は、ケルパに立ち寄る度にこの宿屋を利用しているお得意様らしい。宿のおばさんも俺に優しい笑顔を見せてくれたので、自分としてもこの宿屋に好印象を抱いた。
部屋に荷物を置いた後にオッカさんが話してくれたんだが、この宿屋はさっきのおばさんと旦那さん、それから息子さんの三人で切り盛りしているんだとか。二階建ての宿屋はそれなりに部屋数があるものの、仲の良い家族で上手く仕事を回しているそうだ。
その後も世間話やら村の話を聞きながら部屋で過ごしていると、夕食の用意が出来たと宿屋のおばさんが呼びに来てくれた。
流石にエルファリア家の食卓に並ぶような高級料理は並ばないが、家庭料理としてはかなり手の込んだメニューを出してもらった。
中でも鶏の香草焼きが絶品で、食欲をそそる豊かなハーブの香りと、皮までこんがりジューシーに焼き上げた鶏肉が最高だった。やっぱり鶏皮は正義である。
鶏皮といえば、ラスティーナはよく『ブニブニしていて気持ち悪い……おまけに脂っこくて嫌!』とか言ってたっけな。
その話を聞いた時、俺は鳥皮が好きだと打ち明けたら凄い顔をされた……んだが、あいつのことを思い出すと、途端に胃がキリキリしてくる……。全く、いつになったら治るんだろうなぁ。
……まあ、過去のことは忘れて今を生きよう。
夕食に大満足した俺達は、その後宿屋のベッドでゆっくりと一晩を明かすのだった。
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