第7話 俺とおっさんハンターとご厚意

 俺とおじさん達を乗せた馬車は、王都から南に向かって走っていく。

 その道中、愛想の良い彼らが積極的に俺に話しかけてくれた。

 ただ……まあ、そのね……?


 ──地図を見ながら馬車に乗ると、めちゃくちゃ酔うよ!


「おいおい、大丈夫か?」

「あまり……大丈夫じゃ、ないですね……うっぷ」


 おじさん三人組の一人、俺の隣に座っているジンさんが背中をさすってくれている。

 何だか最近、吐き気だの胃痛だので大変な目に遭いすぎている気がする。けれどもこうして気遣ってくれる人が側に居るのは、とてもありがたい。

 それも、ついさっきまで互いの名前すら知らなかった相手だ。こういう優しさを発揮出来る人って、素晴らしいよな。どこかの無茶振り令嬢にも見習ってほしいものだった。


「こんなに揺れる馬車の中で地図なんて見てるから、このお兄さん大丈夫なのかなぁとは思ってたんだよ。そしたら案の定……」

「とりあえず兄ちゃん、水でも飲むか?」

「あ、自分のがありますので……」


 ジンさんに続いて、穏やかな声のオッカさん、アゴ髭が特徴的なバーモンさんが続いて言う。

 俺はひとまずバーモンさんの差し出してくれた皮の水筒を断り、自分の水筒から一口だけ水を飲んだ。あまり効果は期待出来ないが、何もしないよりはマシなような気がした。

 ジンさん、オッカさん、バーモンさんの三人はフリーの魔物ハンターをやっているらしい。

 元々同じ村に住んでいたご近所さんで、若い頃からこの三人で魔物を倒して生計を立てているんだとか。

 今日は久々に王都の近くで大きな仕事を終えた後で、そのお金を持って、数ヶ月振りに故郷に帰るところなのだという。

 その話を聞きながら俺は地図を眺めていた訳なんだが……昔はこんなことをしても馬車酔いなんてしなかったはずなのに、すっかり身体が弱ってしまっているようだ。

 水筒の口を閉め、鞄に仕舞って深呼吸をする。


「ふぅ……。いやぁ、皆さんには情け無いところをお見せしてしまって、申し訳ありません」

「別に構わねえさ。それよりアンタ……レオンだったよな。随分育ちが良いように見えるが、どっか一人旅にでも行くつもりなのか?」


 育ちが良いと思われたのは、俺の髪や服装を見ての判断だろう。

 生まれ自体はただの小さな村だが、エルファリア邸での暮らしで培われたものが俺の印象を変えたのだと思う。

 最後に髪を切ったのは先週。少し毛先がハネやすいものの、明るいブラウンの髪色が程良い爽やかさを演出している(気がしている)。

 服は以前自分でデザインした軽装で、パッと見では『それなりの良家のお坊ちゃんのお忍び冒険服』といった印象を受けるものだ。

 ジンさん達がハンターをする必要があるように、この世界には魔物という脅威が常に存在する。俺は魔法が使えるので剣は持っていないが、いつでも戦えるような身軽な服装を好んでいる。

 その理由は、十八歳になっても未だにこっそり屋敷を抜け出して遊びに出たがるラスティーナに付き合って、二人で森に探検に行ったりする際に必要だった為だ。おてんば冒険者とその相棒、みたいな設定をイメージしている。

 今ではもうそんなものに付き合わされる必要も無い訳だが、こうして一人旅をするにも丁度良い服で助かった。

 まあ、そんな服を着ているせいでジンさん達に勘違いさせてしまったのだけれど。


「いえ、俺はただの平民ですよ。先日まで勤めていた仕事先が、身嗜みだしなみを重んじる場所だったので」

「ってことは、お兄さんはその仕事を辞めたってことかい?」


 オッカさんの言葉に、俺は素直に頷いた。


「はい。その……激務が祟って、身体を壊してしまいまして。なので、それまで貯金していたお金を使って、どこかのどかな土地に移り住もうかと思っているんですよ」


 そう言うと、三人は納得したような表情で俺を眺める。


「あー……確かに顔色悪いもんなぁ」

「馬車酔いのせいもあるかもしれんが……兄ちゃん、ちゃんと飯食ってるか? 頬がこけちまってるぞ」

「最近はあまり食欲が出ないもので……」

「でも、食べないと元気になるものもならないよ? ……あ、そうだ!」


 すると、オッカさんが何かを閃いたらしい。

 続く彼らの言葉に、俺は──


「それじゃあせっかくだから、僕達の村においでよ! 空気も美味しいし、まだ空き家もあったはずだからさ!」

「住むかどうかは後で決めりゃあ良い。その様子じゃ、行く宛ても決めずに王都を飛び出してきたんだろ?」

「ああ、だからずっと地図とにらめっこしてたんだな? ジンとオッカの言う通り、俺らの村なら皆歓迎してくれるはずだぜ!」

「そ、それじゃあ……お言葉に甘えさせて頂きます!」


 その厚意に甘えて、彼らの帰郷に同行することを決めたのだった。


 目指すは王都の南西、ルルゥカ村。

 俺達四人を乗せた馬車は、村から一番近い馬車乗り場のある町を目指してひた走る。

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