第6話 パンツ……見たい? episode 6

「お待たせしましたぁ――――!!」

がバッとドアを開け、三和土からだろう。水瀬さんの弾む声がした。


あのぉ……。私の部屋まで聞こえているんですけど。

その声に反応するかのように、私もそそくさと浩太さんの部屋に戻った。


息を弾ませ、うっすらと。いや、汗だくなんだろう。でもその汗がなぜか、きらきらと輝いて見えるのは。水瀬さんのその表情が、とっても嬉しそうだったから。

まるで少女のような。と、言っていいのかは、ひとまず置いて。でもなんか可愛い。


「おいおい、なんだ! そんなに急がなくたって、俺は逃げていかねぇぞ水瀬」

「だってぇ、うれしくて。先輩とお買い物できるんだもん」

うわぁー、水瀬さん完全に舞い上がってる。


これじゃ多分、パンティ忘れていったの、まだ気づいていないよね。

じゃ、あのまま干しておこうか。もし気づかなかったら、私はいちゃおっかな。

なんて言うのはいくら何でも……。


でもなんか私、思うんです。この二人に今日一緒についていっていいのかって。

わたし、お邪魔じゃないのかな。


「あのさ、買い物。水瀬さんと二人で行ってきなよ」

思わず口にでして言ってしまった。


最近、なんだろう。気、緩んでるのかな私。前はこんなことなかったんだけど。考えていること。思っていること、口にしちゃうんだよね。

それもさ、浩太さんの前だと無意識に口にしちゃってる。


素直になった。と言えばそうなのかなぁ。

そう言う感じじゃないような気がするけど。でも、だんだんと感情がむしゃくしゃして来ているのは事実。それなのに二人で行ってきて、なんて言ってるし。


「どうした?」

浩太さんがちょっと怪訝そうな顔をして言う。


あ、なんか嫌な感じ。


それでも「別になんでもないけど、ただ外出るのなんかめんどくさい」

「めんどくさいって……」怪訝そうな顔から少しぶっきらぼうな声で浩太さんは返す。


「夕食は食べてくるから、別に用意しなくてもいいんだよね。それじゃ私部屋に戻るから」

そう言って自分の部屋に戻った。


ぱたんとドアを閉めて、玄関のドアに背をのせた。

どうしたんだろう心臓がどきどきしている。それに、本当に行きたくないって言ったら嘘になるかもしれない。


一緒に行きたい気持ちもあるけど、それよりもなんかむしゃくしゃしている気持ちの方が強くなちゃって、自分でも今、収拾がつかない。

浩太さん。怒らせちゃったかなぁ。


まぁ水瀬さんは、浩太さんと二人っきりで行けるんだからルンルンなんでしょうけど!

ああ、ホントむしゃくしゃする。


ゴロンと床の上に寝そべった。ひんやりとした床が肌に触れて気持ちいい。


少し落ち着く。


窓からふんわりと風が入り込んできた。

「はぁ―」一つため息をつくと、なんだか今の自分がとても馬鹿らしくなってきた。

自分に馬鹿だなぁって。

そんな後悔の気持ちを抱きながら。そのまま眠ってしまった。



気が付くと、もう暗くなっていた。

タオルケットがかけられている。窓も閉められていた。

自分で……。それはないと思った。


きっと浩太さんが……。


カサッ。手に何かが触れた。そのものを見ると小さな袋が置かれていた。

「なんだろう?」

そっと手に取り、袋を開けると。


ビニールパッケージに入った。パンティ?

な、なんでパンティ。もしかしてこれって浩太さんが……。


なんかちょっと恥ずかしい。そして気が付いた。袋の中にメモ書きが入っていることに。

それを広げてみると。


「なんか今日は気を遣わせちゃってごめんね。お詫びに私の見立てだけど使ってね。――――PS. 私のパンツ後で返してね(笑)」


はぁ―、水瀬さん。……だよね。浩太さんが選ぶなんて。そんなことを想像していたらなんか笑えてきた。

あの浩太さんが、真っ赤な顔をしてランジェリーショップで、私のパンティを選んでいる姿。

うわぁー、ありえないけど! 想像するとものすごく面白い。


眠ったせいだろうか。それともそんなことを想像したせいだろうか。

――――もしかしたら、水瀬さんの。同じ女性同士の思いやりからなんだろうか。

むしゃくしゃしてた気持ちなんかどっかに吹っ飛んでいた。


ちょっと汗ばんだ体。とにかくシャワー浴びよっかぁ。

温かいお湯を体に浴びると、さらに気持ちがホットする。


でね。冷静になればなるほどさ。自分の気持ちに素直になれるていうか。

浩太さんの事を思う気持ちがね。……ほんと私って意地っ張り。


素直じゃない。


でもさ。心のぞかれるの。心悟られるのって、やっぱりとても恥ずかしい。

それが浩太さんであるから。


体をふいてバスタオルを巻いて、浴室から出た。

そのまま、ペタンと床に座り込んで。じっと、パッケージに入っているパンティを見つめていた。

白のパンティ。

開けてみると、とってもシンプルだけど、材質がいい。触れる肌触りが心地いいんだ。


そのまま何の気兼ねもなく、履いた。

サイズピッタリ! なんかそれが余計に恥ずかしかった。


水瀬さん。私の体系よく見てるの? きつくもなく緩くもなくフィット感とこの肌触りが履いていてなんか心地よくて、見せるようなものじゃないけど、見てほしいなっていう。そんな思いにかられていく自分がなんか恥ずかしい。


シャツを羽織り。スカートを履いた。

スマホで浩太さんに。

「今、何してるの?」と何気なく送った。


すぐに返信が来た。

「お! 起きたか。風邪ひいてねぇよな」

「大丈夫だよ」

「ならいいや」


数秒間置いてから。

「ねぇ、そっち行ってもいい?」と、送った。

すぐに返信は来なかった。


ピコーン。

「繭、腹減ってねぇか?」とだけ返ってきた。


それを見て「んっもう!」と口にしていた。私じゃなくて自分がお腹すいているんじゃないの? 

そのまま、三和土でサンダルを履いてぱたんとドアを閉め。隣の部屋のドアを開けた。


「おなかすいてんのは浩太さんの方じゃなくて?」

ベッドでゴロンと横たわり、スマホを眺めていた浩太さんに言ってやった。


浩太さんはすっと私の方にいつものように、何気なく視線を向けて「ああ、俺も腹減ってんだけど」と、当たり前のように言う。


「ご飯食べてこなかったの?」

「いや、食っては来ていない」


「どうして?」

「どうしてって……」


「んっもう! 今、作るからちょっと待ってて」

「あっ! いや別に作らなくても」


そう言いながら、台所で手を洗う私に近づき。

「今日はごめんな」浩太さんはそう言った。


「なんで誤るの? 浩太さんなんか悪いことしたの?」

「水瀬に言われちまった。もっと繭に感謝しろってさ」

その言葉を聞いたときどきんと胸に響いた。


「あのさ、弁当買ってきてあるんだ……だからさ、その」

「――――その?」

そうやって聞く? 私っていじわる。


「一緒に食おう」

「もう! ほんとに馬鹿じゃないの? お腹へってたんだったら。先に……食べてればよかったのに」


バカバカ。なんでそんなこと言うのよ! 浩太さん、おなか減ってたのに私のこと待ってくれていたんだよね。それなのにどうしてそんなこと言うの? 


じわっと熱いものが胸に広がる。

スッと、振り向くと。ちょっと困った顔をした、浩太さんの表情が目に入った。


「……ごめん」


彼のその一言。気が付けば、浩太さんを抱きしめていた。

悪いのすべて私。どうしてこうも意地張るんだろう。どうして浩太さんの前だと嫌われちゃうことでも平気で言っちゃうんだろう。


――――それはさ。


年上で、仕事でくたびれた。もうじき30歳に近づいている”おっさん”……。

エロゲ―が好きで、2次元の女の子しか愛せないオタクなんだけど。


だけど……。


私はこの人が――――好きなんだよ。きっと。

この人が、私の奥深い心の傷をいやしてくれる。

だからずっと……。


一緒にいたい。




ああ、美味しかった。

お腹が満たされると心も満たされる。ような気がする。


「ねぇねぇ。浩太さん」

「んっ、なんだ?」


「さっきさぁ―、抱きついたとき大丈夫だったね」

浩太さんはなんか恥ずかしそうにしながら「……そ、そうだったな」と言う。なんか顔まで少し赤くさせちゃって。なんか可愛い!!


「もしかして改善してきたんじゃないの? 女性拒否症?」

「いや、どうなんだろう自覚ねぇんだけど」


「じゃぁさ――――」


パンツ。見たい?

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