第39話 繭と水瀬……俺はついで ACT4
「先輩大丈夫かなぁ」
ぼっそり水瀬さんが言う。
「うーん、熱異常に高いからね。でも私も熱上げた時一気に下がったから多分大丈夫じゃないかなぁ。水瀬さんだって熱下がったじゃないですか」
「そうなんだけどさぁ、何となく移しちゃった感じがするから罪悪感が……」
「浩太さんだもん大丈夫だよ」
「それってなんか根拠あるの?」
「なにもないけど」
こうなったら特効薬で何とかするしかないかなぁ……特効薬って……キスだけどね。
「ねぇ私、おうちに行くけど繭ちゃんも一緒にどぉ?」
「それじゃお邪魔しますかぁ」
「うんうん、来て来て」
水瀬さんのアパート? と言うよりは小さなマンションみたいな感じのちょっとおしゃれな感じの所。病院からはホント目と鼻の先。
「昨夜お世話になったから、何かお礼しないとね」
「別にいいですよ。それに昨日の夜はマリナさん特上寿司買ってきてくれたから、もう満たされてます」
「特上寿司! いいなぁ。私も食べたかったなぁ」
「それは残念でした。とても美味しかったですよ」
「はぁ、なんか会社行くの気が重いなぁ。昨日の事部長にもばれちゃったし、なんだか会社の中じゃ、私と先輩の事いろんなこと噂されているみたいだし」
「んー、自業自得ですね」
「繭ちゃん意外と冷たいね。と言ってもそうだよね、自業自得だよね」
水瀬さんの部屋のドアを開けると、じめッとした空気が部屋から漂ってくる。
「んー、このジメジメ感と言うか、もあっと感と言うか、慣れないなぁ」
「窓開けましょうよ。エアコンも付けてと」
「はぁ」と水瀬さんはぺたんと床に座り込んだ。
「なんだか自分の所に来ているのに、先輩の所にいる方が落ちくような気がするんだけど」
「そうなんですか? でもそれって分かります」
「でしょでしょ、何でだろうね」
まぁ確かに浩太さんの所にいると、何となく落ち着くのは私もそうなんだから、水瀬さんの気持ちも分からなくはないけど。
「さぁてと、体中べとべと。昨日お風呂入ってなかったから、さっぱりしよッと。ねぇ繭ちゃんも一緒に入る?」
ええ、一緒に入るって……。
「なになに、恥ずかしいの?」
「恥ずかしい訳じゃないんだけど、なんか朝、水瀬さんの言ってたことがちょっと引っかかるかなぁ」
「えーとなんだっけ?」
「ど、同性愛に走ろっかなぁって……」
「はは、冗談だよ……でも、」
「……でもって?」
「興味がない……って言ったら、嘘になるかも。繭ちゃんは?」
「うむんんん。女同士なんて今まで考えたこともないです」
「だよねぇ! うそうそ、さぁ入ってこよっと。あ、冷蔵庫になにか飲み物あるから適当に飲んでいいよ」
「ありがとう」
水瀬さんはそのまま浴槽の扉を開けた。
シャワーの音、バスタブにお湯をためている音がする。
シャワーの音が気になりだしてきた。
今、からだ洗っているのかな? それともまだシャンプー中かな?
そう言えば水瀬さんのシャンプーの香り、いい香するの使っているみたい。ふわっと香るあの香りは女の私でも、なんか惹かれてしまいそうになる。
一緒に入ろって、お風呂大きいんだろうか?
私の所だって、浩太さんの所だって、そんなに大きい訳じゃない。
でも浩太さんのいる普通の部屋のお風呂は、私の所より広かったけど。
私の部屋、何もかにもがコンパクトだから。もともと物置だったみたいだし……。
んー、脱衣所があるのっていいなぁ。
んーッとなんかやばいなぁ。
ドキドキして来ちゃう。
水瀬さんスタイルよかったしなぁ。もしかしたら私よりいい……って私そんなにスタイルいい訳じゃない、と、思う。でもんー、わるくもないと、自分では思っているけど。
何考えてんだろ、ああ、今頃何時間目だろう。
まぁ、学校行っても楽しい訳でもないし、単なる時間の消化だし。
し、静かになったなぁ。
湯船につかっているのかな?
はぁ―、何考えてんだろ……私。
やっぱり動揺している?
踏み込みたいのかなぁ、その女の子同士って言うのに……。
冷房が程よく効き始めている。
部屋の中がさっきと違ってさらりとした空気に包まれる。
なんだか眠い。
ちゃんと寝たはずなんだけど、眠くなってきた。
ちょっとだけ、寝ようほんの少しだけ。
「あー、さっぱりした。あらら、繭ちゃん寝ちゃてるじゃない」
うふふ、寝顔可愛い。
こんな時って私にもあったんだよね。
もうだいぶ昔のように感じるけどなぁ。
先輩が好きになるのも無理ないかぁ。
私分かってるんだよね。先輩繭ちゃんの事好きだっていう事。
そして繭ちゃんも、先輩の事好きなんだよね。
それでも私も先輩が好き。
諦めるとかこの二人を引き離そうとか、そんなことを思っているんじゃないことくらい分かっているよね
多分さぁ、私、先輩と繭ちゃんが一緒にいるから二人とも好きなんだよ。
二人とも好き。
始めは先輩の事ずっと気にかけていたんだけど、繭ちゃんと出会ってから、二人がいるその雰囲気が好きになって来たのかもしれない。
落ち着くんだよねぇ。
不思議だねぇ。繭ちゃん。きっと繭ちゃんの存在って物凄く大きな存在になっているんだと思う。
やっぱり私繭ちゃんの事も……好きになっちゃったのかなぁ。
同性愛かぁ……。
ちょうど繭ちゃんくらいの時だったかなぁ。
そんな世界に私も少しだけ……この体と心を置いたことがあったのは。
そっと彼女の頬にキスをした。
懐かしさとともに溢れ出る涙。もう卒業したことなんだけど、どうしてかなぁ。涙出てくるの。
まったく、山田浩太って不思議な人だなぁ。つくづくそう感じちゃう。
生身の女性は俺駄目なんだ。なんて言っておきながら、物凄く優しくて面倒見が良くてさぁ、みんなに慕われている。近くにいて惚れるなって言うのが無理だよ。
でもどうして、先輩って生身の女性が駄目なんていうんだろう。
本当に女性を受け付けないという訳でもなさそうだし。ましてゲイでもないし。何だろう、何が先輩をそこまで追い込ませているんだろう。
今まで気にも留めなかった。ううん、先輩の知らなかった一面が何だか浮き出されるにつれて、謎が深まるんだよねぇ。
確かに先輩の私生活。前からすれば繭ちゃんが来てから大分改善されたけど、て、私が言うのも変だけど、雰囲気も変わって来た。
でも本質的に女の人を受け入れようとはしない。唯一、気持ちが傾き始めているのが繭ちゃんなんだよね。まだ私は正直蚊帳の外なのかもしれない。
部長は先輩のその女性嫌いじゃないけど、受け付けないという症状について何か感づいているみたいな気もするけどなぁ。
まさか直接本人から聞くことも出来ないし、まして部長から聞くことなんて出来るわけがない。
「はぁー」なんだか難しい恋路線に私は足を踏み入れちゃったのかなぁ。
ああ、私は迷える子羊。
なはは、キリスト教じゃないけど、私の気分は。
今そんな感じがしている。
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