第38話 繭と水瀬……俺はついで ACT3

「なになに!! 山田と水瀬が二人とも熱出してダウンしたぁ??」

多分今頃オフィスじゃ俺たちの事で騒いでんだろうな。


次の日下がると思っていた熱は……見事に上がっていた。


「なははははは! 浩太さん、凄いよ42度だって。私初めて見たよこんな高熱。で、水瀬さんは? ピッピッ! んー、面白くない」


「面白くないって? 何繭ちゃん」


「だって37度なんだもの。ほとんど微熱じゃん。水瀬さん熱下がちゃったね」

「はぁ―、よかった。大分楽になったから、助かった」


「さぁてと、浩太さんやっぱり病院連れていかないといけないよね、これじゃ」

「ですね」


「病院? へへへ、いいよそんなもん寝てりゃ熱下がるんじゃねぇ……のかよ。それより繭、今日も学校あるんだろ。遅刻するぞ!」


「あ、ま、いいかぁ。今日は休むわ」

「私たちの事なら何とかするから大丈夫よ」

「いいの、いいの。有給休暇って言うやつ」


おい! 高校に有給休暇はねぇぞ……多分。


「本当にいいの?」

水瀬、そこは学校に行かせるべきだろう。


「うんうん、いいよ。学校行ったって別に面白い訳じゃないし、なんかこっちにいた方が面白そうだしね」


面白い? 俺がこんなに熱上げて苦しんでいるちゅうのによぉ!!

そっと繭が俺の耳元で


「ふん! 変なことした罰だよ。ちゃんと見届けてやるから、安心して成仏してね」

おいおい、俺を即身仏そくしんぶつにさせる気か? 繭!

にまぁーと笑う繭目がマジだった。


「さぁてと水瀬さん食欲ある? 朝ごはんにするけど」

「めちゃあるあるよ。もうお腹空いて大変なくらい」

「それは良かった。じゃ、これから作るからね」


「あ、私も手伝う」

「いいよいいよ、もう少しゆっくりしていて、病み上がりなんだから朝食もハムエッグとサラダでいいでしょ」


「もう十分ですぅ! ああ、なんだか私、先輩よりも繭ちゃんと本気で付き合った方がいいのかなぁ」


「えっ? それってどういう事」

「なははは、同性愛に出も走ろっかなぁ」


「あれまぁ、そっちにめざめたの?」


ジュッとフライパンでベーコンと卵が焼ける音がする。

「だってさぁ、先輩って疎いんだもん」

「その疎いところが好きだったんじゃなかったの?」

「どうだろう。気がついたら先輩の事好きになっていたんだよね」


「んー、もしかして水瀬さんオフィス・ラブに憧れていたりして」

「あ、それあったかも!」


「で、一番身近にいたのが浩太さんで……」


「んっ、もう。そんなんじゃないけど。それじゃなんだか誰でも良かったみたいじゃない」


「なははは、ごめん。でもさぁ、分かるよ浩太さんの事好きなったこと」

「うむうむ、それは何かなぁ、繭ちゃんが先輩の事好きになったきっかけと言うか理由的な部分のことかなぁ」


「えーと、うーと、あーと」

「ああ、繭ちゃん照れてる。可愛い!」


「もう水瀬さんからかわないでくださいよ。はい出来ましたよ」


繭は俺の方に来て「浩太さんは何か食べれそう?」

「無理……」

「だよね。何か飲む?」

「多分無理」


「ありゃぁ、水分くらいはとらないと干からびちゃうよ。ミイラになっちゃうよ」

「でも無理」


「ああ、重症だねこりゃ、起きれる?」

「それは何とか」

「今はいいけど、もう少ししたらやっぱり病院に行かないとね」

「そうか……」


俺の何となくいやそうなめんどくさそうな、そんなのが顔に出ていたのか。


「もしかして浩太さん注射されるの嫌なんでしょう」

にまぁーとしながら繭が言う。


「そんなことねぇ―や、ガキじゃねぇ―し」

「ホントかなぁ」

「うるせーぞ」

「ああ、浩太さん怒ったぁ。ねぇ水瀬さん浩太さん怒ちゃったよ」


「あらまぁ、意外と先輩ってお子ちゃまだったのね」

二人してにまぁーとしながら俺の顔を覗き込んだ。


「まったく勝手にしろ!」


その時俺のスマホが鳴った。

出てみると長野からだった。


「ヤァー、熱上げたんだって。大丈夫ぅ? 水瀬さんと一緒に熱上げたって聞いたけど。なんだかんだ言ってやるねぇ山田も」


「おいおい長野、何か勘違いしてねぇか?」

「ううん、オフィス内じゃそう言う事になっているよ」


「そう言う事って何だよ」


「だってさぁ、みんな公認のお前ら二人そろって熱上げるなんてさぁ、考えられることと言ったらそう言う事じゃないかなぁ」


うぐぐぐぐ! やっぱりそんな風にみんな思っていやがってんだ。


「昨日部長行ったんだろ。部長なんか「ふぅ―」と朝からため息ばかりついてるよ。それにさぁ、挙式何時ごろだろうとか、水瀬さん寿退社するのかなぁ、なんて言っているの聞こえてくるんだよねぇ」



「部長が言っているのか?」

「いやいや他の奴らだよ」


「まったくよう、俺は挙式もあげねし水瀬も寿退社もしねぇ」


「あはは、それだけ吠えられるんだったらなんとなりそうだね。でもさぁ、ちゃんと治してから来てくれよ。仕事の方は俺が何とか引き受けておくからさ」


「わりぃな、長野」

「いいってこと。あ、そうだ後で僕の事もフォローしてもらいたい用件あるからその時はよろしくぅ! 山田」


長野のフォロー、なんだかそっちの方がよっぽど大変そうだ。

「後でお見舞いにでも行くよ。それじゃ」

ブチッと、一方的に長野は電話を切った。


ああ、何となく予想していた展開が会社では起こっていたなんて。

こりゃ、出社した時がこえぇーな。


「もしかして長野さん?」繭が聞いてきた。


「ああ、なんだか会社じゃとんでもねぇことになっているようだ」


「そうなんだ」

冷ややかな視線を俺に向けながら

「自業自得だね」


おいおい、繭さん。なんだか物凄くさっきから胸に刺さる言葉が聞こえてくるような気がするんだが……気のせいか?


「先輩長野さんですか? 何か言っていましたか?」

「水瀬、出社した時覚悟しておかねぇといけね状態みたいだぞ!」


「か・く・ご? はて? なんの事かな」


とぼけるか此奴は! もういいや、なんだかもう何も考える気力もなくなってきたぞ。


「うむむむ! 浩太さんまた熱上がって来た? マジ具合悪そうだよ」


ああ、具合も悪くなって来るのも当たり前だ。


「じゃ、そろそろ病院行こうか」


何とか繭と水瀬に抱えられながら、歩いて5分のあの病院へ。

熱を測った後、そのままあの繭が寝ていた点滴室のベッドに俺は即寝かされた。


一応熱は下がっているが、水瀬も診察してもらい、薬だけ出してもらったようだ。もう大丈夫らしいが念のための薬らしい。


「やっぱり点滴あるんだって時間かなりかかりそうだから、一旦帰るね。終わったら連絡ちょうだい」


「ああ」


もう意識もうろう、どうにでもなれと言った状態。


「先輩、お注射で泣いちゃだめですよ!」

「ああ」

もう反論する気力もねぇ。



すでに見る看護婦の姿が、イロゲーのキャラ化してしまっていた。

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