第40話 ちょっと山田くぅーん! ACT1

いつの間に寝ていたんだろう。

スマホの着信音で起こされた。


浩太さんからだった。

「終わった」

メッセージはそれだけ、まだ具合は悪そうだ。


こんな時、いつもの浩太さんなら「すまん、ようやく終わった。迎えに来てくれるか」みたいな感じでよこすから。一言だけって言うのはメッセージ打つのも大変なんだろう。……きっと。


「あ、繭ちゃん起きた」

「浩太さんから連絡来ました「終わった」とだけなんですけど」

「まだ具合悪そうだよね」


「多分。点滴終わっただけですからね」

「それじゃ私も行くよ」


「大丈夫だと思いますけど、水瀬さんもゆっくりしていてください」

「んーそっかぁ、それじゃそうさせてもらおっかなぁ。それに私が行っても何も出来そうにないから」

何となく残念そうな雰囲気を漂わせながら水瀬さんは言う。


「もしかして水瀬さん一緒に行きたいの?」


「えーとね、そう言う訳じゃないけど、無理にとは言わないんだけど、ほら、一人でいても暇でしょ。熱も下がって調子もいいし……えーと」


「はいはい、分かりましたよ。なら一緒に行きましょ」

にまぁーと笑う水瀬さん。


「ちょっと待ってね準備するから」

んっもう、なんだか子供みたい。なんて言う私もまだそうなんだけど。


紙袋を一つ手に持ち「お待たせ」とルンルン気分丸出し。

「なんですかその袋の中?」


「ええ、ッとねアロマのお香、カモミールの香り。いくらかでも落ち着くんじゃないかなぁって」


ふぅーん、アロマのお香ねぇ。まぁ確かにいい香は落ち着くんだろうけど、やっぱり水瀬さんって香りに気を使う人なんだなぁ。


私あんまりそう言うの気にしないんだけどね。

浩太さんはどうかは分かんないけど……。


病院に戻ると、ベッドで寝て半分死にかけた様に見える浩太さんが

「す、すまん」と一言声をかけた。


看護師さんから「熱まだ大分高いですから、出来るだけ水分だけは取らせてください」と言われ、帰り際に

「でも山田さんこんなに可愛い子と美人の彼女さんに介抱してもらえるなんて幸せ者ですね」と言われ、ちょっと照れる私たち。


水瀬さんの顔が赤くなっているのが良く分かる。


それにしても見るからに、浩太さん本当にだるそう。

部屋に着いてベッドに倒れ込むようにして横になった。


「何か飲む?」

「今はいい」


「そっかぁ、じゃぁほしくなったら言って、私も水瀬さんもいるから」

「すまん……」


点滴に入っていたお薬のせいだろうか、そのまま浩太さんは眠ってしまった。


「浩太さん寝ちゃった」

「そう、これで熱下がってくれるといいんだけどね」

「そうだね」

とは言ったものの、多分一気には下がらないだろうな。


よっぽど悪い菌でももらったんだろうか?

悪い菌って、水瀬さんから移った菌? でも水瀬さんはすぐに下がったんでよねぇ。やっぱり年のせいかなぁ? 


分かってるよ。疲れが一気に出たんだよね。


本当に浩太さん口にはしなかったけど、頑張っていたからね。

顔にはもろ出ていたから良く分かるんだぁ。


ゆっくり休んで、早く良くなってね。

ちゃんと口にして伝えてやればいいんだけど、何となく恥ずかしくて声に出せない。


やっぱり恥ずかしいよね。


「さぁてと水瀬さんお昼どうする?」

「え、もうそんな時間なの?」

「なはは、もうお昼とっくに過ぎているんだけど」


「そう言えばお腹空いているようなすいていない様な、んー、繭ちゃんは?」

「ちょっとすいたかな。それじゃ簡単に素麺そうめんでも茹でますか」


「あ、それじゃ私やるよ」

「いいよいいよ、浩太さんの寝顔でも眺めていてよ」


「えへへ、いいのぉ。じゃぁそうする。あ、そうだせっかくだからアロマのお香たいてみよっか」

「ああ、いい香りのするやつでしょ」


「うんうん、落ち着く香りの奴」

「落ち着き過ぎてポックリいったりして、なははは」


「ちょっと繭ちゃん縁起でもないこと言わないでよ」


「なはは、冗談、冗談。あ、素麺のつゆが無いよう! 茹でる前でよかった。私近くのコンビニに行って買ってくるから」

「えーそうなの。なんか悪いわね」


「大丈夫、それじゃ行ってくるから」


その時、長野さんが近くまで来ていることなんか全然気づかなかった。


「おーい山田ぁ! 生きてるかぁ」


私と入れ違い、長野さんが何気なくドアを開けた。出迎えたのは水瀬さん。


「えぇーと、こんにちは」


長野さんは水瀬さんの姿を見るなりバタンとドアを閉め

「な、何で水瀬さんがいるんだ? 二人とも熱上げたのは聞いていたけど、一緒にいるとは聞いていなかったぞ。そもそもだ会社休んで体調悪いのに山田の所にいる彼女。……おいおい、山田お前本当に水瀬さんと、そう言う関係になっていたのか」


そうと水瀬さんがドアを開けて


「あ、長野さん。どうしたんですか?」


「どうしたんですかはこっちのセリフだよ。何で水瀬さんが山田の所に?」

「えーとですねぇ……。なんと言うかそのぉ」

「とにかく上がるけどいい?」

「はい、どうぞ」


私のいないところで、思いもしないことが起ころうとしているなんて。


「山田寝てるんだ」

「ええ、少し前に病院から帰ってきて、ようやくね着いたところです」

「そうか、それじゃ起こしちゃ悪いなぁ」


「それで長野さんは、どうしてここに」

「クライアントと打ち合わせの帰りに寄ってみたんだけど、まさか水瀬さんがいるとは思ってなかったから、びっくりしたよ」

「そうですか……」


「まさかねぇ、僕はてっきり山田は繭ちゃんの事、受け入れ始めて来たんだと思ってたとこなんだけどなぁ、会社では君たちは単なるうわさだとばかり」


「ただいまぁ……、あれぁ、誰か来ているの?」


「その声は繭ちゃんだね。今日は学校お休みかい?」

「ああ、長野さん。どうして?」


「さぁ、どうしてだろうね。僕にも今この現状がどうなっているのかが分からないんだけど」


おお、なんか意外な展開がこの後、待ち構えている予感がするのは私だけだろうか。


「んーあの山田が女性2人と本格的に関わるとはこれは事件だよ」


「何が事件なんだよ長野」

あ、浩太さんが起きた。


そりゃ、そうだよね、こんだけ人がいたら起きるよ


「ヤァ、山田起こしちゃったかなぁ」

「お前の声がしたから起きた」

「僕?」

「そう、お前、長野」


んー大人の事情が絡むのかなぁ。


で、これでマリナさんが来たら全員集合になるんだけど、まさかそれはないよね。


「はぁい! 浩太、具合大丈夫?」


マジ! マリナさん。あなたまで来てしまったんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る