第24話 二人の彼女

二人のコスプレは続く。

なんだかんだ言って繭の奴、水瀬に乗せられ楽しんでやがる。


もう俺に見せることなんかそっちのけ。

二人でイチャイチャしながら、隣の部屋よろしくやっているようだ。


「キャハハハハ!」

「あ、それダメぇ」

「ああ、そうなっちゃうんだ」


楽しそうな声が聞こえてくる。かと思いきや、しばらくシーンと静まりかえってみたり。


いったい二人で何やってんだ?


この声のしないとき彼奴ら二人は何を……、いけない想像が俺の頭を占領しようとする。


あの衣装のまま……、おいおいそれはないだろ。


みだらな想像をしてはいかん!

と、思いつつもこの妄想は止められない。


いや止める気がないんだろう……俺。


しかしまぁなんだ、あの水瀬にこんな趣味がったとは、会社じゃ卒なくなんでもこなしている、どちらかと言えば優等生タイプの様な雰囲気の、女性社員のイメージが強いんだが。


持っていたイメージがもろくも崩れしまった。

これからどう、水瀬と会社で接すればいいんだ。



……しかし、静かだなぁ。本当にあの二人……。

「あ、え―と。開けてもいいか?」

「どーぞ」と、なんかそっけない声が帰ってくる。


仕切りのカーテンを開けると、なんといったらいいんだこの光景は……。


俺のも、妄想が……。


繭が真剣に裁縫している。それを水瀬が真剣さながらに、繭の手先をじっと見つめている。


「お前ら何やってんだ」


「あ、先輩。繭ちゃん凄いんですよ、手先器用ていうか裁縫の技術ピカイチなんです」

「そんなことないですよ。今までずっとやってきたことなんですから」


「繭、お前、ずっとやって来たって、お前もこういう水瀬と同じ趣味あったのか?」


「まさかぁ、私は生活のためにやってきたことなんだもん。こういう本格的な衣装を作るのは初めてだよ。でもね楽しんだぁ。やってみたら、思いのほかはまっちゃったのかもしれないね」


「私繭ちゃんの事本当に好きになちゃった。本当に友達になってね」

「いいのぉ、こんな私なんか友達にして」


「何言ってるの当たり前じゃん。あ、でも先輩の事はライバルだかね。そこんところはよろしく!」


「ライバルってさぁ、私そんなんじゃないんだけどなぁ」


「まったく素直じゃないんだから。私はちゃんと言うわよ『私は先輩の事が好きです』ほら私はちゃんと言ったから繭ちゃんも素直な気持ち隠さず言ってごらん。出ないと私先輩の事取っちゃうよ」


「まったくうもう水瀬さんって意外と強引なんですね」

「そうよ私はこうだと決めたらそれに突き進むタイプなんだから」


「だったら、私も言わせてもらいます」


繭は一呼吸おいて

「浩太さん」

「はい」

繭はじっと俺の目を見つめて



「あなたの部屋に私のパンツ干してもいいですか?」



「はへ?」


きょとんとする俺に繭が

「これ私の本音です」


「うっ! 凄い、これって宣戦布告? いきなり強烈だなぁ」


「あはは、冗談ですって。でも……洗濯機壊れたら使わせてくださいね」


「洗濯も機壊れる予定なのか?」

「それは分かんないです。その時はその時です」


「あのぉ洗濯機もって他に何かあるんですか?」

「ああ、此奴冷蔵庫ないんだ。だから俺んところの冷蔵庫共有させてるからな」


「冷蔵庫の共有って? 意外と冷蔵庫って必需品じゃないですか。先輩がいないときはどうしてるんですか?」


「合鍵で自由には入れるようにしてある」


「自由にって、それじゃいつでも先輩の部屋に入れるって言う事ですか?」

「そうだな、まぁその代わりとは言っては何だが、食事の支度は繭がやってくれてるから物凄く助かってるよ」



「自由に出入り、食事の支度……。あのぉう、私が入り込める隙ってまだあるんですかねぇ」



「だから俺らはそれ以上でもそれ以下? それ以下って何か分かんねぇけどそんな関係じゃねぇ」

「でもそれって半同棲生活しているようなものじゃないですか」

うっ! なんか痛いところ突かれたような気がする。


「そんなに心配しないでください水瀬さん。私達本当にそんな関係じゃないんですから」

ちらっと繭は視線を俺に投げかけた。


「そうなんですか……」と、半ば半信半疑の水瀬。


繭はまた手を動かしながら

「でさぁ、どうする今晩の夕飯。餃子にしよって言ったけど、買い物しないと材料ないんだよね」


そうだ、ちょうど食材を買いに行こうとして水瀬に見つかって、と言うか此奴はずっとストカーしてんだろうけど。まぁ、もういいか。


「これから買いに行くか?」

「うーん、そうだねもうそろそろ行かないといい時間だし」


「買い物ですか? 良かったら私もご一緒してもいいですか?」

「それじゃ水瀬さんも一緒に行く?」

「わーい! 繭ちゃんと一緒に買い物に行ける。今日はとってもいい日♡」


「あのう、お二人とも。俺の存在って何だろうね」


二人は口をそろえて

「なんだろうね」と言って笑った。


その時、俺は初めて繭の本当の笑い顔を見たような感じがした。

繭と水瀬。性格は意外と似ているのかもしれないな。


それに繭と知り合って学校の友達の事とか訊くことはなかった。もしかしたら、友達と呼べる人は繭の近くにはいなかったのかもしれない。


どこか一人気っきりでなんでも抱えて、それを自分の中にしまい込んでしまう。


そんなところがある繭の性格。


水瀬もそう言うところはあるのは確かだ。だから最も水瀬に気を使った部分は仕事の出来栄えよりも、抱え込まない様に配慮することだった。


ま、いいかぁ。繭がそれで気が休まるのなら、水瀬と友達でいることに彼奴が違和感を持たないのなら……。


でもなぜだろう最近の俺は、いつも繭の事を中心に考えている。

何となくほっけねぇ。て言うのが俺の持つ彼奴のイメージだからなんだろう。


でも俺の中で繭の存在がとてつもなく大きな存在になってきていることを、今の俺はまだ感じ取っていなかった。




結局買い物が終わって向かった先は俺の部屋だ。

俺の部屋に入るなり水瀬は


「ええええええええええええ!!!!! せ、先輩凄い趣味いいですよ。センスいいなぁ、このキャラ集め。やっぱそうですよねぇこうなんていうか女の子キャラって、どこか一貫性と言うか何かを追い求めてしまいますよね」


「おおおお!! 同士よ! 水瀬お前にこの良さが分かってもらえて俺はとても嬉しいよ」


「よかったね浩太さん。理解ある彼女が出来て。それも生身だよ。しかも同じ会社の部下だよ。せいぜい噂にならない様に気を付けてね」



冷ややかな視線が繭から注がれた。



ギクッとしながらも、水瀬と一緒に作ってくれた餃子は飛び切り旨かった。


「またまた凄いよ繭ちゃん。料理の腕前、私繭ちゃんに料理ならおっかなぁ」


ぼっそり言う水瀬に繭が

「そうね、まず男の心つかむのは胃袋からってよく言うみたいだし」

と、言いながら俺を見つめて



「美味しい? 浩太さん」



今度はなまめかしい視線が……。

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