第25話 さらば部長……そして訪れた苦悩 ACT1

「おはようございます先輩♡」


朝一番に送られてきた水瀬からのダイレクトメール。

♡付きのメール……。


あ、えーとまじぃなぁ、これ。


「おい! 会社では真面目に仕事しろよ。いつもの水瀬でいてくれ……頼む」


「はぁ―い。わかりましたぁ」

と返事が来るが、彼奴の脳内は何かぶっ飛んだようだ。


俺と繭の事が水瀬にばれて……いやばれていた。

長野に続いて社内では二人目。どちらも言いふらすようなことはしないにしても、水瀬から告られたのはさすがに効いた。


まさか水瀬が俺にそんな感情を持っていたとは、夢にも思っていなかった。


今朝、繭の機嫌はいつもの通り。


「はい浩太さん、今日のお弁当」

にヘラと笑い俺に弁当を渡してくれた。


何か水瀬の事に触れてくるのかと思ったが、そこには何も触れることはなかった。


朝食を食べ終わると

「それじゃ、私学校行ってくるから」と白のシャツに棒帯を少しなびかせ学校に行った。


ま、水瀬の事だから会社では何も変わらないそぶりをしてくれるんだろうと思っていたが、朝一のダイレクトメールがあれだ。

水瀬の方が重症? 重症と言う言葉があうのかどうかは分かんねぇけど気を付けねぇと、飛んでもねぇことになりかねない。


意外とこの社内、こういう事には裏で蔓延するのが早い。


そこへもう一通新規メールが送られてきた。


今度は……『部長だ!』


こうして部長がダイレクトメールを個人宛てに送信してくるのは本当に珍しい。いや、初めての事じゃないか?


いつもはあのディスクから大声で「山田!」と呼ばれていたからな。

恐る恐る開いてみると。


「今日は定時で上がって俺に付き合え。下記の店で待っている」


その下に店の名が記載されていた。まぁ店と言っても居酒屋だろう多分。

ちらっとブースの隙間から部長の顔を見ると、思わず部長と目が合ってしまった。


そしてすぐにまた部長からのメールだ

「そんなに警戒しなくてもいい。たまには俺に付き合え。ただそれだけだ」


まぁこれは断ることは出来ない。

すぐに


返信で「了解致しました。お供させて頂きます」と打って返した。


さて、そうなれば今日の夕飯はいらなくなる。

繭に連絡入れておかねぇと


こういう時にやっぱり繭にスマホを持たせて正解だったと思う。

でも、あのスマホを繭に渡す時もひと悶着あったからな。それも水瀬のいる前で……。


「ところで繭ちゃん新しいスマホの設定はも終わってるの?」

「え? あ、えーと……。な、何も」


何かを訴えるような目で繭が俺を見つめる。


正直言ってあの時繭には何も話していなかった。半ば無理やりショップに連れて行き、その後水瀬と遭遇してから……まぁ、始めは繭のスマホ選びに付き合ったという事で水瀬に話したんだよな。


その時点ですでに、あのスマホは自分のために買ったんだて言う事、繭は感ずいてはいただろう。


「設定してあげるよ。貸してごらん」


繭があの赤い袋から箱に入った、真新しいのスマホを水瀬に渡すと

「ええッと、まずはログインIDを決めないと、どうしよっかなぁ」

「あのう設定は自分でもできますけど」

「あ、そっかぁ……高校生だもんね、こういうのには強いよね」


水瀬がスマホを繭に戻すと繭はササッと設定を済ませ、あの便利な通話機能が付いたSNSアプリをダウンロードしてから


「浩太さんのアプリのID教えてください」

「ああ、俺のか、これだ」

「それと水瀬さんも」

「いいの私のも入れてくれるの?」


「もちろんじゃないですか、でもこれは浩太さんのスマホですから、ただ私との連絡用に使わせてもらうためのスマホ。多分登録するのは二人だけじゃないかなぁ」


「ええ、そうなの? 先輩繭ちゃんにスマホ契約してやったんですか」


「ああ、此奴スマホもってはいるんだけど、契約解除してるんだ。まぁ分け合ってそれは契約復活できないらしいから、俺名義で契約してきたんだ」


「ふぅ――ん。繭ちゃんにはほんと優しいんですね。ちょっと、ううん、物凄ーく妬けちゃいます」


「だからこれは俺の便宜上使わせてるだけのスマホなんだ変な勘繰りはやめろ」


「はいはい、でも私は諦めませんからねぇ。先輩の事は本当に好きなんですよ」

「でもよぉ水瀬、お前いつから俺にそのなんだ、そう言う感情持ち始めたんだ」


「いつからって……多分先輩は覚えていないんだろうな」

「覚えていないって?」

「いいんです今は内緒にしておきます。だって恥ずかしいから」

結局、水瀬からはそのことは訊けなかったな。


おッと早めに繭に連絡しておかなくちゃ

「わりぃ、今晩の夕食いらない……」

ん、これじゃなんか、一方的すぎるよな。

「ごめん今晩遅くなる」

これは……。これだと夕食作って絶対彼奴待っているぞ

うん―、いざ送るとなるとなんて送ったらいいのか思いつかねぇ。


まぁ悪いことしてる訳じゃねぇのになんか緊張するな。

「今晩部長に飲みに誘われた」

とりあえずこれで送ってみるか。


送信……。

すぐに返信が来た


「じゃ今晩いらないね」

「わりーそう言う事だ」

「分かった。あんまり飲み過ぎないように」

なんか物凄くあっさりとした感じだな

俺何緊張してんだよ。馬鹿みてぇだよな。


その後すぐにまたSNSに着信があった。

水瀬からだ。


「先輩何ニヤニヤしながらスマホいじってるんですかキモイですよ! 仕事中エロ画像なんか見ないでくださいね。裸みたいんなら私の体好きに使っていいですから♡ きゃっ、言っちゃった」


向かいに座る水瀬の顔を俺はキッと睨んで

「バーカそんなんじゃねぇよ。お前こそちゃんと仕事しろ!!」


その後水瀬に大量のデバックを送信してやった。

ダイレクトメールで

「ガンバレ水瀬! 俺は定時で上がるからな」

「ん、もう。私も定時で上がります。頑張って定時まで全部処理しますから」

ま、何も今日中に出来なくても、何の支障もないんだけどな。


またSNSに着信

「先輩、繭ちゃんから先輩今日夕食いらないから一緒にどうですか? って来たんですけど、お邪魔してもいいですか?」


「ああ、構わねぇよ」

「ところで夕食いらないって、飲みにでも行くんですか?」

「ちょっとな」

「怪しいなぁ……」


「水瀬、追加のデバック送ってやろっか」


「もう、今日はこれでいっぱいいっぱいですよ。鬼! 先輩のサディスト! 繭ちゃんにちゃんと報告しておきますからね」


「どうぞご勝手に!」


その後水瀬は必死にディスプレイにかじりついていた。

さぁてと俺は今度のプレゼンの資料造りを始めねぇと、これはかなり大きな仕事になりうる題材だからな。


定時の1時間前。水瀬に進捗を訊いた。

「どれくらい進んだ?」

「後ワンクールで終了です」

「マジかぁ、何も今日中でなくてもいい案件だったんだけどなぁ」


「ええええええ!! そうだったんですかぁ。なんか頑張って損した気分です」


「ほい、今送ったの明日の分な」

「ちょ、ちょっと先輩。今日の倍の量じゃないですか!!」

「大丈夫、そんなに急がないからまぁ、じっくりやってくれ」



「はぁ~、後で先輩の事虐めてあげます……」




ルンルン


「ああ浩太さん、今日はせっかく食べたいって言っていた冷しゃぶなんだけどなぁ。飲みに行くんじゃ仕方がないかぁ。水瀬さんと二人で全部食べちゃおぉ!!」



「水瀬さん早く帰ってこないかなぁ♡」

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