第6話 関わってもいいですか? ACT1
「この板やっぱり直さないといけないですか?」
「まぁ、そうだよな」
「このままがいいなぁ」
「どうして?」
「だって山田さんと繋がっている感じがするからですよ」
繋がってって、どういう意味で言ってんだ?
「別に俺は困りはしないんだけど、ただ、大家にしてみれば不備だろうから、連絡はしてほしいんだろうけどな」
「じゃぁ、黙ってましょう。秘密で壊れているの知らないふりしていましょう」
「いいのか? それで」
「ええ、私は別に構いませんし、その方が安心できます」
「どう安心できるんだ?」
「わかりません! でもこのままの方がいいような気がするだけです」
「まったく。じゃぁこのままにしておくか」
「そうしましょう。ところで山田さん、今日は何か予定ありますか?」
「いや、別にこれと言って予定はないけど。そうだなぁ、しいて言えば食料品の買い物位だなぁ」
「あのぉ……それならお願いがあるんですけど」
「な、なんだ改まって。また何かトラブルか?」
なんか嫌な予感がするのは考え過ぎか?
「トラブルじゃないですよ。実は私も今日買い物したいんですけどぉ、一人だと大変かなぁってぇ。それにここら辺あまりよく分からないんで教えてもらえると、物凄く助かるかぁって思っているんですけど……駄目ですかぁ?」
そんな目で俺を見ないでくれ!
お前のその姿、やっぱ2次元のキャラに近い。しかもその喋り方だんだんとアニキャラになってきてるぞ。
ここはきっぱりと
「駄目だ! 繭と一緒に外で歩いてたら援コ―と間違えられて俺が職質受けそうだ」
「そうですか……残念です」
「うん、残念だが、一人で行ってくれ」
シュンとするその繭の姿。いやいや、本当に此奴と一緒に出歩いてたらマジで職質受けるぞ。自分の事は自分でやれ! ここは心を鬼して突き放そう。
ただ隣に越してきたのが女子高生だったという事だけだろう。
これ以上深入りして関わると、俺は繭から抜け出せなくなるのが怖い。
「日曜雑貨品かぁ、それなら電車で二駅行ったところの方がいいな」
で、一緒に電車に乗っている俺は何なんだ!
「ほんと山田さんは優しいですね。こんないい人がお隣にいてくれて私ってほんとラッキーです」
「はいはい、ほんとラッキーでよかったですよ」
まったく、どこが心を鬼にしてだ。
「今晩の夕食私がご馳走します。昨夜のお詫びも兼ねてですけど」
この一言で落ちてしまう自分の甘さ。ホント俺は甘々だよ。
しかし、制服姿もいいがこの私服姿、繭にしてはちょっと地味か? あの見た目だからもう少しカラフルな色合いのものでも着てくるのかと思ったんだが、なんかちょっと残念なプリントの半袖シャツとは。
もしかして此奴のセンスってこんなもんなんのか?
まぁそんなのどうでもいいか。
「いいか繭、もし俺の知り合いとかに出くわしたら、俺の従妹だっていう事でうまく話し合わせるんだぞ」
「わかってるって、でも従妹なんていったら後あと困らない? だってお隣なんだもの、また顔合わせるかもしれないじゃん」
「そん時はそん時だ。それに俺んとこに来るような危篤な奴はそうそういねぇよ」
「あ、なるほど! それもそうだわ」
そこで妙に納得されるのもなんか腹が立つ。
しかし実際は言うがままの通りだ。
駅から出てこの街の商店街のはずれにあるDIYショップ。大手の店だが、ここはある程度こじんまりとしている。しかし品ぞろえは大型店と大差はさほどない。
「さて、最初に何からあたる?」
「あのさ、合鍵ここ作れるかな?」
「ああ、多分出来ると思うが、サービスカウンターじゃねぇのか」
「じゃ、最初にそこだね」
二ッと繭の口角が上がる。
確かにスペアキーは作っていた方がいい。アパートも今どきの電子ロックじゃない旧式だから、鍵も作れるだろう。
サービスカウンターで繭が「合鍵作れますか?」と訊くと店員が「出来ますよ」と軽く答える。
カウンターの前に並べてある芳香剤を何気なく見ている俺に繭が
「山田さん」
ニヘラとした顔して俺を呼んだ。
「合鍵持ってる?」
「ああ、一応な」
「そっかぁ、でもちょっと鍵貸してもらえる?」
「はぁ、何でだよ」
「いいから、早く!」
ちょっと怪訝そうに繭が催促してくる。めんどくさいのと、何で俺の部屋の鍵が必要なのかと言う疑問が顔に出ていたんだろう。
「別に変なことに使う訳じゃないからとにかく貸して」
何となく威圧感を感じる口調。別に逆らう気はないが、出会ってまだ2日目の奴に部屋の鍵を手渡すのは少し抵抗感がある。
渋々出すと、俺の手からすっと鍵を取り去り
「この二つ合鍵作ってください」
と、店員に言った。
番号札をもらい後で立ち寄ると告げ、カウンターを離れた。
「何で俺の部屋の鍵もスペア作るんだよ」
「いいから、さっきも言ったじゃない。別に変なことに使う訳じゃないって」
少しツンとした感じが感に障る。
だが、もう一本スペアキーがあっても困りはしない。要はその使い道が知りたいだけだが、多分この調子だと出来るまで繭は話さないだろう。あの口調はそんな感じだった。
「で、山田さんさっき芳香剤見てましたよね。部屋用?」
「ああ、確かそうだったな」
「ふぅ―ンそうでしたか。どんな香りが好み?」
「どんな香りって、やっぱ俺の部屋匂うか?」
繭は少し考えた様に顎に握りこぶしを当て
「んー、匂わないって言ったら嘘になるけど、気になるほどじゃない。ただ山田臭は完璧にしてるね」
「なんだ山田臭って、俺ってそんなに臭いのか?」
「そんなこと言っていません。昨日の晩からすればかなり匂いませんよ」
昨日はよっぽど臭かったんだ。
そんなことを言いながら洗濯洗剤やら、食器洗剤をかごに入れ始める。
「ラップとタッパと……あ、そうだ」
何か思い出したのか辺りをきょろきょろ見回し、通路の案内板を仰ぎ見る。「えーと、こっちか」独り言の様に呟き、足が動き出す。その後をカートを押しながら俺がついていく。
女の買い物って忙しい。
じっと棚に並べられている商品を見つめ
「ねぇ、山田さんってごはん多い目派、それとも少な目派?」
見ていたのは食器コーナーのお茶碗だった。
「はっ? なんの事だ」
「だからお茶碗大きいのがいいのか、普通サイズでいいのかっていう事」
「何で俺の茶碗なんだ?」
「いいじゃん……!」
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