第5話 改めましてなんですけど
「しない!」
「どうしてさ。山田さんは生身の女苦手なのは分かったけど、男でしょ。こんなに若い女が誘ってるんだよ。しかも高校生。こんなチャンスなんてもうないよ」
な、なんだ。今まで襲ったら「舌噛んで死んでやる」なんて言ってた奴がいきなりセックスしようなんて言ってきて。
もしかしてこの百合ゲーで欲情しちまったか?
繭は制服の上着を脱ぎ、ネクタイを外してシャツのボタンを外し始めた。
「ほら、私胸大きい方なんだよ」
なまめかしい潤んだ繭の目が俺を見つめている。
ピンク色のブラがはだけたシャツから見えていた。
「ねぇ……」
その声。や、やばい。
しかもだ繭のその見た目は、百合ゲーキャラそのものに近い感じだ。
まるでゲームの中の彼女が、現実に俺を誘っている感覚に陥ってしまう。
もしこれが現実じゃなくて、仮想の世界の事だったら、そうだこれは夢なのかもしれない。
夢だとしたら食ってもいいだろう。
俺の手が動きだそうとした。
その時だ。
胃がぎゅっと締め付けられるあの感覚が俺を襲う。
「さようなら浩太」
頭の奥底からあの言葉が浮かんでくる。
「馬鹿なこと言うな。俺は生身の女には興味はない。まして現実の女子高生なんか子供じゃねぇか。相手するなら2次元のJKを俺は愛する」
「ぶ、はははは、やっぱり山田さんは私を襲ったりしない。これで信じるよ」
「な、なんだよ!」
「いいのいいの、眠くなってきちゃったから、寝込み襲われない様にちょっと試してみたんだ。本当に山田さんは生身の女に興味がないかどうかね」
助かった……偉いぞ俺、この状況で俺は良く踏み止まった。
「ベッド使うか?」
「ま、さかぁ、使わないよ。だって山田さんの匂いがついちゃいそうなんだもん。私はここでいいよ」
毛布を体に巻きつけて床にごろんと横なる繭に
「そうか、一応それじゃ、もう一枚何か掛ける物用意してやるよ」
「ありがとう、ちょっと寒かったんだぁ実は」
押入れから、夏用のタオル毛布を出して
「薄いけど、これでもいいか?」
「うん」
そのタオル毛布を受け取り「お休み」と一言言って繭は寝てしまった。
「明かりはつけたままにしておくからな」
こくんと頷く繭。
もう午前2時近くになっていた。
やれやれ、お隣にこんなにも可愛らしい女子高生が越してきていたなんて、思いもしなかった。
今日が誕生日か……、神奈川、高校2年、だぶり。
明かりの下で見た繭の姿は、一目でドストライクの様に俺の興味を引きつけやがった。
しかしながら、生身の女にはやはりまだ抵抗感がある。
さっき俺の脳裏から蘇るように浮かび上がったあの言葉
「さよなら浩太」
まだ俺は引きずっているんだろうな。
だから俺は生身の女は未だ愛せないんだ。
朝起きると繭の姿はこの部屋から消えていた。
キチンと毛布とタオル毛布を床の上に畳んでおいてあった。
それを見ると、さながら昨夜のことは妄想ではなかったという事が、意識的に確認できた。
きっと朝一番に大家の所に、スペアキーをもらいに行ったんだろう。
まぁこれで、繭も何とか自分の部屋に入ることが出来る。
まったくお隣さんとの初顔合わせは、飛んでもない顔合わせになっちまった。
しかしまぁこれも何かの縁だろう。お隣さんがただ女子高生であったに過ぎない。
もっとも俺好みの女子高生であったことは否定しない。
だからと言って相手にする訳でもない。
ま、いいか。
これ以上彼女と接点を持つこともないだろう。
重い体を押し上げベランダで煙草を一本口にする。ジッポライターからカチンと小気味よい音が鳴り、銜えた煙草に火を点け、吸い込み白い煙を吐き出す。
その煙を追うように空に目を向け「今日も天気はよさそうだ」と独り言を言う。
おじさんかぁ。まぁ確かに27歳、もうじき30と言う大台が控えている。30歳にもなればそれこそ、おじさんと呼ばれて当たり前の年だろう。
妙に年の行先が気になりだした。
これも繭のせいだろうか?
長野の言う通り、もう結婚していてもいい歳だ。
こういう生活からも脱しないと……バタン!!
いきなりベランダの仕切り板が俺に倒れて来た。
「あっ!」
「いててて」
「いたんだ大丈夫? まさか外れるとは思ってなくて」
「ああ、大丈夫だ。これ前から外れていたんだ」
「わぁお! ちょっと押してみたらいきなり倒れちゃうからびっくりしちゃった」
いやそれよりも、俺がいることにびっくりしろよ。
「後で大家に連絡しようと思っていたんだけど、言いそびれていたんだ」
「ふぅ―ン、そっかぁ。修理しないとダメ?」
「だろう、普通。ベランダとはいえ、プライバシーもあるからな」
「そっかぁ」
「それはそうと鍵、大家から貰ってきたんだな。部屋に入れてよかったな」
「ええッとね……。鍵見つかったんだ」
「ほへ」
「起きてからカバンの中もう一度見てみたら、教科書の中に挟まれていた」
「はぁ」
「てへへ、昨夜はほんとお世話になりました」
「まぁいいけど。良かったな見つかって」
「はい、ありがとうございます」
深々と頭を下げる繭の姿を見ていると何となく愛しい感じになるのは、昨日のあのなまめかしい繭の表情がまだ残っているせいだろうか。
陽の明かりの下で見る彼女の姿は、昨日のあのキャラめいた感じとは少し違い、現実の女の子として存在している感じがする。
昨夜のあの繭の姿は、ほんとに彼女自身の姿だったんだろうか。
「あのう山田さん」
「なんだ?」
「改めましてなんですけど……今度隣に越してきました
「あ、ええ、つと……山田です。
て、今さらなんだけど。
「てへへ今、山田さん今さらなんだよって、思ってたでしょ」
「やっぱ出ていたか?」
「うんもろ、顔に出ていたよ」
「マジかぁ、気を付けねぇとな」
「でもいいんじゃない。なんか山田さんのそこが、魅力でもあるように思えてきちゃった」
「変なところを魅力にされちゃ俺が困る。実際これで俺はいつも飛んでもない思いをしているようだからな」
「そうなんだ。それでも裏のない人っていう感じで、私は信頼できるかなぁ」
「それは昨夜、繭に手を出さなかった事も含めてか?」
「あはは、そうかもね。でもあの時は私本気だったよ。山田さんとならしてもいいと思ってたから」
「マジかぁ、惜しいことしたのか俺は」
「そうそう、もうこんなことないと思うけどね。ホント惜しいことしたね。現役の女子高生とセックス出来るところだったのにね」
「ばぁーか、する訳ねぇだろ」
「ほんとかなぁ」
「ホントだ!」
くすっと笑うその笑みに、本当はそそられている俺だった。
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