第7話 関わってもいいですか? ACT2

「いやどっちかって言うと飯は多い方かなぁ」

「そうかぁ、こっちの少し大き目がいいか」

「何で俺の茶碗なんだよ」


「山田さん茶碗ある?」


「茶碗くらい……」

ああ、確かこの前と言うかいつからだ、茶碗の存在がうちから消えたのは?


「もしかしたら無いかも」

「やっぱり」

「何でそう思ったんだ。茶碗の事なんか顔には出ていないと思うんだけど」


「感よ、女の感。何となく山田さん見ていると、ごはん炊いて食べているようには見えないんだもん。でも炊飯器はあったね」

此奴なんだかんだ言って、しっかりと見ているところは見ていたんじゃねぇのか。


「それじゃついでにお皿とお箸も一緒にそろえちゃおっか」


「えーッと繭、箸はあると思うんだ、それに皿くらいはいくら何でもあるぜ」


「そぅお、でもこの際だから心機一転で替えちゃおうよ。オソロにしてあげるから」

「オソロって、なぁ。同居する訳じゃないだろ」


「まぁそうなんだけど、でもさ、壁一枚あるだけじゃん」

その壁が大きな意味をしてんだよ!。


繭はヘンと鼻を鳴らして

「柄は私の好みで決めちゃうからいいでしょ。それにその分もちゃんと私が払います」


いや、そう言う問題じゃなくて、何でお前が俺の食器まで買えそろえないといけないんだ。

「あ、山田さん今なんでだよ! て思ってたでしょ」


「ああ、顔に出てたんだろきっと。その通りだ」

「いいの、後でちゃんと訳話すから」


訳? どんな訳があるんだいったい。でもまぁ、悪い気はしない。


此奴が女子高生だからじゃなく、何となくいとしいというか、可愛いというか、年の離れた妹の様な感じにさせられてしまうのは、繭のこの性格のせいだろうな。


生身の女は受け付けないが、なんか繭だけはすんなりと俺に溶け込んでいくそんな感じがする。



「こうして食器そろえていると、なんか私たち新婚みたいだね」



おいおい、冗談はよしてくれ。いくら何でも女子高生を嫁にもらうのはまずいだろ。


「新婚? そりゃ、無理だ。高校生と結婚は出来ねぇだろう」


「あはは、そうだよね。でもさぁ実際私18歳だから結婚は出来るんだよね。本当は16からなんだけど」

「そりゃぁまぁな、でも二十歳はたち前は親の同意が必要なんだろ」


「そっかぁ、親かぁ……」

繭の表情が曇った。


「そうだよねムりだよね。てへ」


何となくつくり笑いの様な笑顔を見せつけた。


しかし隣に引っ越してきて4日、まともに出会ったのは昨日の夜が初めて。それなのにこの急接近はいったい何だろう。


正直俺が繭に歩み寄っている訳ではない。

言うならばその逆だろう。


繭は今日の午前零時に自分を解禁したと言った。

その事にどんな意味が持たされているのは分からない。

だが、今までの自分をあの時、きっと切り捨てたんだと思う。


そして彼女自身どんな生き方をしていたのか、何を切り捨てたのか。どうして転校までして親元を離れ、アパートで独り暮らしをしようとしているのか。時間が経てば……関われば関わるほど彼女に対しての疑問が湧き出てくる。


これはあくまでも俺の感だが……。

繭は何か大きな傷を抱えているという事だ。


それがどんな傷なのかは、今の俺には分かる由もない。




「山田さーん」

繭がサービスカウンターで俺を呼んでいた。


「鍵出来たよ」

急いで繭の所に行くと


「はい、鍵お返しします。それとこの鍵も山田さんが持っていてください。こっちのカギは私が持っていますから」


「ん、? こちっちの鍵って」


形状が全く同じだからどっちが自分の部屋の鍵か見分けがつかない。繭が渡したのは俺の部屋のスペアキーなのか?


「山田さんに渡したのは私の部屋の鍵」


えっ、おいおい

「それはさすがにまずいだろう」


「いいの。昨日みたいなことがあれば最悪山田さんが帰ってくれば、私は自分の部屋に入れる保証が出来たんだもん」


「俺はお前の鍵番か?」


「その代わりと言っては何ですけど、山田さんのこのスペアキーは私が持つから。いいでしょ」


いいでしょ。と言われても今ここで口論するわけにはいかんだろう。まずは受け入れて後でじっくりと話さなきゃならんな。こりゃ。


「あ、そうだこのストラップもください」


繭が手に取ったのは鍵用のストラップ。ゆるキャラの熊が付いたストラップだった。


料金をサービスカウンターで払い、その場で出来立てのスペアキーに取り付けた。

「はい、私の部屋のが赤い熊さん。山田さんの部屋のが青い熊さん。自分の部屋の鍵も同じような形だから、これで分かるでしょ」

まずは素直に受け取るとしよう。


「後ここで必要なものは?」

「もう大丈夫。残るは食材かなぁ」

「だったらアパートの近くがいいな。それじゃ戻ろう」


「うん」

ニコッと口角を上げ笑みを返す繭。


「おもい! おもいよう」


「ほら、もう少しだ頑張れ、もう見えて来たぞ」


DIYでの買いもが終わった後、また電車でアパートのある駅まで戻り駅前の商店街で食料品を買いあさった。

俺もこの街でいやこの商店街で、これほどまで食料品を買ったことはない。


始め駅街通りのはずれにあるスーパーに向かい、ある程度の物を買いそろえたが、アーケード街も観てみたいと目をキラキラさせて言う繭に「もういいだろまた今度」とは言えなかった。


まだこの町のアーケード街は活気がある。

ぶらぶらと歩きながらアーケード街の店を探索していたが、繭は「あ、これいい」とか「ちょっと物凄く可愛いんですけど」と輝いた眼をさらに輝かせていた。そんな姿を見るとごく普通の女子高生なんだなぁと思える。


おかげで、繭の両手に買い物袋が一つずつ、俺の両手には二つの買い物袋が各々ぶら下がっている。


中でも飲み物と米が入った袋はさすがに手に食い込む。

ポリ製の買い物袋は重い物を入れて持つと、取っての部分が手にひも状になって食い込む。それを持ち歩くとかなり痛いものだ。


ようやく俺の部屋のドアの前まで来た。

ドアのカギを開け中に最初に繭を入れた。一瞬玄関で繭が立ち止まる。


「おい何してんだ早く入れよ」

「あ、うん」

何となく遠慮気味に「おじゃましまーす」と小声で言って中に入る。


「はぁ、おもかった」


ようやく部屋に入りこの荷物から解放された。


「しかし買い過ぎだぜ、どうすんだよ」

「そぅお? そんなんでもないと思うんだけど」

これで普通の量? いくら何でもそれはないぜ。


「ふぅ、とにかく生ものは冷蔵庫に早く入れないと。開けるけどいいでしょ」


「どうぞご勝手に……」


繭は冷蔵庫を開け、てきぱきと今買ってきた食材や飲みもを入れ始めた。その手際の良さはいつも家でやっている感じに見えた。



何で繭の買い物の物が俺の部屋に来ているのか? それはスーパーでの会話からだった。

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