青年と私3
「味方ですよ」
と、青年は言った。
「お店の中の、レジの前で。あの人には、味方が必要でした。たった一人でも。そのことが、俺には解ったんです。あの人自身が、それを欲してたってことじゃなく。ただ、必要なんだってことが。そして俺は、それを差し出すことが出来た。だから、そうしたんです」
「……かわいそう、だったから?」
「どうかな。咄嗟のことだったし……でも、もう少し、待ってたら……迷っていたら、あるいは、考えてしまっていたかもしれません。ああ、この人、かわいそうだって」
……ええ、きっと。
だって、もしも、あなたが待っていたら──と、私は思う。
私は、声を上げていた。そして、あの人を、こてんぱんに、やっつけていた。きっと周りの人たちも、それに乗っかって……彼は、逃げ出して。
私は「よくぞ言ってくれた!」って。
そんな声に称えられて、胸を張って、悦に入って……。
それは嫌だな、と、青年は、ぽつりと言った。
「他人の幸不幸を判断するようなことは、したくありません。だから行動できてよかった。あの時、俺の頭の中には、一つのことしかなかったから」
「……それは、なに?」
「あの人の心が、少しでも、ほぐれればって。カチカチに固まって、小さくなってしまった、それを、いくらかでも柔らかくできればって。それで彼が世界を、もっと鮮やかに感じられるようになるのなら、それは素敵なことのはずだから」
青年は、私の方を見ていなかった。ただ自分の中で、その言葉を反芻しているようだった。彼は、ホッと安堵の表情を浮かべていた。
……面白くない。
「ねぇ、お姉さん」
と、青年は言った。
「やっぱり、不当だって思いますか? あの人が、それを受け取ったのが、なんだか不公平に思えますか?」
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